連載小説 ブリュッセル | suzyのふしぎの国

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「あら?ジャポネ」の著者スージーが 短編小説を連載します。

ブリュッセルの泥棒市


週末になると ヨーロッパの何処の田舎街でも あちこちに広場に市が立つ。

大抵は カラフルな四季折々の野菜や果物が主流である。

自前のテントを張って直射日光や雨よけにし、台の上に綺麗に並べて値札を置く。

簡単な屋根だけの屋台もあれば、小型のバスを改造し冷蔵設備のある店舗にして、

魚や肉、手作りのソーセージを売る店もある。 


農家の自家製チーズや、オリーブ、蜂蜜などを売っている屋台もある。

そういう店の 人のよさそうな小父さんや叔母さんが、食品を小さく切って味見をさせてくれている。


植木や 花も もちろんある。 ヨーロッパ人は 花が大好き!

友達の家に招待されたり、恋人に会いに行くときは 花を持っていくのが普通である。

日本の花屋と違うのは 客が自由に バケツに入った花を選べ、

予算に合わせて自分流にアレンジして 花束にする。



食材が主な市場の他に 古い食器や レコード、古着、古本、

家庭の道具、家具までも売っている 市もある。

蚤の市 と 日本人は言っているそうだが 別名 ガラクタ市とも言う。

どうみても 自分の家にある 不要なガラクタを売っているとしか思えないからだ。


中には 絵画や切手、コインなど 収集家には ヨダレが出そうな代物もあるらしいが、

我々のような 凡人には 目利き??が出来ないから 

大概は 二束三文の物を高値で買わされるという羽目になる。



ヨーロッパに長く住むと 時々 知ったかぶりの日本人観光客に出くわす。

「ああ。これはマイセンですよ 素晴らしい こんな所に こういうのが眠っているんだなあ」

などと言って まったくの偽物を 大喜びで買って帰る。 

お気の毒としか言いようがない。

しかし、本人が喜んでいるのに 見知らぬ私などが

「よしたほうがいいですよ、こんな所に本物のマイセンなんかありませんから。

どう見ても大量生産のコピーです」

と言って水をさしたら 反対に 物を知らない人だと馬鹿にされるだけだから 

黙って通り過ぎることにしている。

 
           


その日 青山登龍のオーナーである勇太郎は マサとコウスケを連れて この蚤の市に来ていた。

目当ては古着屋である。

「おい、この店 いい革ジャンあるぞ! ちょっと見てみろよ!」

勇太郎が 大きなテントに入り、大量の古着の中から目ざとく上質の皮のジャケットを見つけた。

「いいですねえ~この皮! やわらかくて手触りがいいや」

マサも 知ったような口をきけるようになった。

「俺、 こっちの方がいいや、 マイケルみたいだ」

コウスケは 流行のマイケル・ジャクソンが スリラーで着て踊っている 

あの 真っ赤な皮ジャン そっくりなのを 見つけた。

「おお、いいねえ~ 僕 ちょっと着てみようかな」

マサが いつになく 半ば強引に コウスケの見ている赤いジャケットを 横取りした。

備えてあった鏡の前で 試着する。

「お! ピッタリだ! いいなあ コレ」

マサは 大のマイケルファンである。

特にスリラーのビデオクリップは 何度も繰り返して見た。

振りも 覚えた。 もちろん 歌も 英語で歌えるほどだ!

「これ いくらですか?」

鏡の前で 今にも踊りだしそうなマサは 嬉しそうな顔をして 店員に聞いた。





つづく