◆春暁

春暁の我が吐くものゝ光り澄む/石橋秀野

        
春暁(しゅんぎょう)。春の明け方。『枕草紙』冒頭の「春は曙。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこしあかりて……」の朝まだき。つめたい薄明かりのなかに見る「我が吐くもの」の、意外な透明感。むしろそれが美しく神々しくさえ感じられる不思議。ここで、人が「吐く」苦しさは「生きる」美しさに通じている。いわゆる「つわり」かもしれず、核などによる血液の嘔吐なのかもしれない。が、この際は何だってよいだろう。作者については、波郷門であったこと以外は何も知らないけれど、おのれの吐瀉物を、このように気高く詠んだ力には圧倒されてしまう。俳句ならではの表現の凄さを感じさせられる作品のひとつだ。(清水哲男)
~増殖する俳句歳時記より。


◆春暁/しゅんぎょう/しゆんげう
三春
 
春の曙/春の夜明/春の暁
春の朝明/春曙
 

春の夜明けである。
東の空が赤く染ま
り始めるが、あた
りはまだ薄暗い。
「春は曙。やうや
う白くなりゆく。」
と愛でたのは枕草
子の清少納言。
「秋の夕暮」とと
もに古くから歌に
詠まれてきた季題
である。


春の曙その七もとや秘蔵蔵
支考「蓮二吟集」
春暁や大いなる鮫獲れしとふ
原石鼎「花影」
春暁や人こそ知らね木々の雨
日野草城「花氷」
春暁の衣垂れたる衣桁かな
~きごさいより。



◆クロッキー


ハラワタ
腸を切り春暁の空明ける

春暁の汝の笑みに又眠る

春暁の海と陸とが別れけり

春暁の始発電車は地獄行

春暁を告げる鴉でありにけり

春暁の空に名残れる冬の色

春暁に目覚め命をひろひけり

春暁を目覚め現へ帰り来し

春暁や検温の手首掴まるる

春暁の目鼻顕か地蔵尊



◆芭蕉の言葉

季節の一つも探り出だしたらんは、後世によき賜。


新しい季語の一つも遺すべし。




春暁で一句どうぞ。