◆余寒


ごみ箱のわきに炭切る余寒かな/室生犀星
                        
余寒(よかん)は、寒が明けてからの寒さを言う。したがって、春の季語。「ごみ箱」には、若干の解説が必要だ。戦前の東京の住宅地にはどこにでもあったものだが、いまでは影も形もなくなっている。外見的には真っ黒な箱だ。蠅が黒色を嫌うという理由から、コールタールを塗った長方形の蓋つきのごみ箱が各家の門口に置かれていた。たまったゴミは、定期的にチリンチリンと鳴る鈴をつけた役所の車が回収してまわった。当時は紙類などの燃えるゴミは風呂たきに使ったから、「燃えないゴミ専用の箱」だったとも言える。句の情景については、作者の娘である室生朝子の簡潔な文章(『父犀星の俳景』所載)がある。『犀星発句集』(1943)所収。(清水哲男)
~増殖する俳句歳時記より。
(当時、ゴミ箱は各家の前にあり、犬小屋に上蓋を付けたような木製であった。~悠)

◆余寒/よかん
初春
 

残る寒さ
 

寒が明けてからも
なお残る寒さ。春
の兆しはそれとな
くあるものの、ま
だまだ寒さは続く。
立秋以後の暑さを
「残暑」というが、
それに対応する季
語である。


情なう蛤乾く余寒かな
太祗「太祗句選」
関能の戸の火鉢小さき余寒かな
蕪村「夜半叟句集」
水に落ちし椿の氷る余寒かな
几菫「井華集」
ものの葉のまだものめかぬ余寒かな
千代女「松の声」
暗がりの鰈に余寒の光かな
嘯山「葎亭句集」
踏みわたる余寒の苔の深みどり
日野草城「花氷」
~きごさいより。



◆クロッキー
余寒 悠


ピカソ描く『青の時代』の余寒かな

隣人と話題少なき余寒かな

フクシマのゐつまでつづく余寒かな

女生徒の短き丈に余寒めく

肉鍋に豆腐ばかりも余寒する

東京の嚔してゐる余寒かな

同衾の背なにぞわりと余寒くる

夜更に食ふ饅頭のかびも余寒かな



◆クロッキー
余寒 悠


発句は、句つよく、俳意たしかに作すべし。



何を表現すべきか明瞭に認識せよ。




余寒で一句どうぞ。