◆霞

榛名山大霞して真昼かな/村上鬼城
                        
週の土曜日、群馬の現代詩資料館「榛名まほろば」に少し話をしに行った。会場の窓からは、赤城・妙義と並ぶ上毛三山の一つである榛名山が正面に望見された。土地の人に聞くと、春から初夏にかけてのこれらの山は靄っていることが多く、なかなかくっきりとは見えないそうだ。この日もぼおっと霞んでいた。そこでこの句を思い出し、真昼のしんとした風土の特長を正確かつおおらかに捉えていると納得がいった。鬼城は榛名にほど近い高崎の人だったから、常にこの山を眺めていただろう。旅行者には詠めない深い味わいがある。平井照敏編『俳枕・東日本』(1991・河出文庫)所載。(清水哲男)
~増殖する俳句歳時記より。

◆霞/かすみ
三春
 

朝霞/昼霞/夕霞/春霞
草霞/霞の海/霞の衣/霞棚引く
 

春の訪れに、山野に立ち込める水蒸気。朝夕の景物。同じ現象を夜は「朧」、秋には「霧」とよぶ。


春なれや名もなき山の薄霞
芭蕉「野ざらし紀行」
はなを出て松へしみこむ霞かな
嵐雪「玄峰集」
橋桁や日はさしながら夕霞
北枝「卯辰集」
狂ひても霞をいでぬ野駒かな
沾徳「合歓の花道」
高麗船のよらで過行霞かな
蕪村「蕪村句集」
草霞み水に声なき日ぐれ哉
蕪村「蕪村句集」
山寺や撞そこなひの鐘霞む
蕪村「題苑集」
荒あらし霞の中の山の襞
芥川龍之介「澄江堂句集」
夕霞片瀬江の島灯り合ひ
松本たかし「鷹」
白浪を一度かゝげぬ海霞
芝不器男「芝不器男句集」
~きごさいより。


◆クロッキー


病室や窓一面の夕霞

霞けり鏡の中の爺い面

奥穂高雪に霞の衣着て

草霞声かけあひて行きにけり

地下鉄や高層ビルの朝霞

女医示す胸部画像や冬霞

われ霞み妻も霞みて老にけり

たああんと霞の畑へ銃の音



霞で一句どうぞよろしく。