天上堂のちょっとそこまで -195ページ目

YUJI 〜15〜


『だめです!このままだと・・・!』

遠くで、誰かが叫ぶ。
甲高い声が鳴り響いたかと思うと、何かを打つ音が響き、司令・・・爺ちゃんの声がする。

『このままだと何だ!なんとかするんだよ!もう、もう時間が無いんだ!早く起動させないと!』
『落ち着いてください、父さん!』

ん・・・誰の声だろう。

『この子は、今まさに頑張っているところなんですよ。私には分かる。この子は今、胎動しているんです』

(安心する・・・)

聞こえづらいけど、なんだか暖かい声。低めで、耳の奥に振動してくるような、声。

『生まれようと必死にもがいているんです。だからそっとしておいてあげてください』
『く・・・』

さっきまで怒鳴りつけていたはずの爺ちゃんが、静かになる。

『お義父様・・・』

次に、高い女性の声が聞こえてきた。カツン、カツンと、硬いものがあたる音が響く。

『大丈夫。大丈夫ですわ』
『愛さん・・・』
『ほら、見て』

女性の手だろうか。俺の手を、誰かが握ってくる。その力は弱弱しく、細い指、細い手は、握ったら折れてしまいそうだ。

(握り返してもいいんだろうか)

俺は、握られた手をどうしたらいいのか悩む。

(でも、握りたい)

俺は、恐る恐る、そっと力を入れる。

『ほら、・・・と、にぎり・・・して』

暖かい手、暖かい言葉。そこから先はもやがかかったようになっていて、うまく聞き取れないけれど、確かにその人たちはこう言ったんだ。

『そう、ユウジは、もうすぐ、もうすぐ生まれるのよ』
『ああ、そうだ。私たちの、そう・・・家族として。ですよね?父さん』
『ん・・・んむ・・・ああ分かった分かった!勝手にしなさい!ただし・・・』

『ワシがこの子のお爺ちゃんになるのだけは譲らんぞ!』





「う」
 頭が、重い。全身がけだるい感じで包まれている。
「目が覚めた?」
 気づいた時には、俺はあの機体の中ではなく、いつものベッドの上だった。傍らには、やはり、夢野翼。

(なんだ、さっきのは)

今まで見たことも無い、不思議な感覚の夢だった。あの瞬間がずっと続けばいいのに。そう思えるような・・・
しばらく惚けたあと、心配そうな翼の視線に気づき、我に返る

「ど、どうなった?」
「私が生きているってことだけは確かね」

 フフ、翼はかすかに微笑む。白百合のような肌に浮かぶほんのりとした赤い色を見ると、なんだか新鮮な気がする。うずもれたい気分になる。

「て、俺はサルか!」
「え?」
「あ、いや、なんでもない」


 翼の報告では、今回の戦いで生じた死傷者、120名だそうだ。中でも死者は20名。

「これでも少ないほうよ?いつもはもっと・・・」

 もっと・・・か。翼はかたくなに涙をこらえるように、宙を見つめる。俺は不謹慎にも、その顔を見てただ、美しいと思うだけだった。20名の中に、彼女が入っていなくてよかった。ただそう思うだけだった。

(不謹慎な・・・!)

 人の命の重さは、なによりも最初にここで司令から教わったはずなのに、俺は彼女以外の人間の命を軽んじているのか。でも・・・

ダンッ!!


「うおおお!」


 突然、叫び声をあげながら俺たちがいる部屋に入ってくる影が一つ。ああ、そう言えばいたなあ、なんて、俺は軽い憤りと呆れを感じながらその男を眺める。両手に抱えきれないほどの大きなバラの束、長い金髪、筋骨隆々の体に、臭いを隠すはずのオーデコロンで、逆にかなり臭い軍服をまとった戦士が一人。

「グッモーニーン!アローハー!サンキュー!」
「じゃ、ジャッカル・・・お前か」
 本当にアメリカの人なのかどうか疑わしい、怪しい発音の英語と、両手いっぱいのバラを引っさげ、彼は感激しっぱなしで涙腺ゆるみまくりの顔を抱えている。その視線の先には、どうやら俺がいるらしい。
「ユーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーージーーーーーーーーーーー!!!!」
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 アメリカ式だかなんだか知らんが、感激したからって抱きつかれると、辛抱たまらん!なによりこのオーデコロンの臭いがあああ!!

「やめろ!抱きつくな!感謝の気持ちは充分伝わった!分かった!めるしー!ありがとおお!!」
「照れるな照れるな!お前は英雄だ!サイッッッッッッコオウの英雄だあああああ!」

折れる、心というか、なんというか、人として大事なものが折れてしまう!

「た、助けてくれ!翼ああ!!」
「あ、そういえば司令から呼び出しがあったわ、行ってこないと~」

 女神が、俺の希望が消えた!

「ユウジイィィィイイイ!」
「ギャアアアアアア!!!」

 数十分後、俺は何とかオーデコロン地獄から逃れることが出来た。

「あ~、ったく、感激してたのは分かるがなあ・・・」

 と、見てみるといつの間にか、さっきまでのジャッカルはどこかへ消えていた。椅子に座り込み、こちらを見ながら、静かにそこにいる。

「いや、本当に、ありがとう」
「え、いや、どう、いたしまして」

 急にそうしおらしく来られるとこちらも怒るに怒れない。だがこれが欧米式か、などと、俺が失礼なことを思っていると、いつしかジャッカルはその目から大粒の涙を流していた。

「お前のおかげで、お前のおかげでな・・・」
「ど、どうしたんだよ」

 俺がおどおどしていると、ジャッカルは一枚の写真を取り出してくれる。ずいぶん古ぼけたその写真は、ずっと肌身離さず持っているせいか、真っ黒になり、端がところどころぼろぼろになっている。その中には10人くらいの若者と、ジャッカルの姿が写っていた。


「全員、死んだよ。俺以外」


「えっ!?」
 信じられないほどに暗い声でジャッカルは言う。その表情はどこか疲れたような、だがあきらめの混じったものだ。

「一発、たったの一発だった。あんなに皆、一生懸命にトレーニングして、戦闘訓練して・・・死にそうな思いで、でも家族や皆を守りたいからって、必死にやってきたのにさ」

 ジャッカルは立ち上がり、窓の外を眺めると、何もかもを吹き飛ばしそうな勢いで叫ぶ。

「一発だった!」

「・・・一発で・・・全員・・・」
「ああ、お前がやっつけた、あいつさ。一番最初の襲来は二年くらい前で、中南米の基地を襲ってきて、壊滅に追い込んで去っていったんだがよ、俺はその時の生き残りなんだ」
 あの光を出していた黄色い奴か・・・
「ヘンな光を出したかと思うと、一瞬で皆焼け焦げる。銃で壊しても、すぐ修復する。大砲は撃つ前に蒸発する。・・・打つ手が全くなかった。俺は混乱して、その場から逃げ出してしまったんだよ。皆を見捨てて!

 体を震わし、全身から搾り出すような声で俺に語りかけるジャッカルは、いつもの明るく、馬鹿ばっかりやっているジャッカルではなかった。その顔には疲れが見え、全身には悲しみが表れている。俺は止めようとも思ったが、彼の表情には決意のようなものが感じられる気がして、とめられなかった。
 話したくて、仕方がないのだろう。

「だがよ、なぜかあの怪獣、逃げ出した俺の方をとにかく狙い撃ちしてきてさ、もうだめかと思った。足が地面に引っかかって転んだ時、もうだめだと思った。でも・・・光が当たった瞬間、そいつらが俺の上にかぶさって、盾になってくれたんだ・・・」
「えっ!?」
「目の前で焦げて、変形していく仲間を見ながら、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・俺は何度も叫んだ!でもあいつら、たった一言だけこう言ったんだ」

『ありがとう。今まで、ありがとう』

「最悪だった。逃げ出した俺をかばって、しかも『ありがとう』だなんて言うあいつらを、俺は見捨てたんだ!でも・・・」

 ジャッカルは、俺の方をゆっくり向く。その顔には、さっきまであった悲しみがどこかに隠れてしまっていた。

「でも、お前のおかげで、俺は清算できた気がするよ・・・俺は・・・」

 そう言うと、ジャッカルは突然、部屋の片隅で膝をつき、前のめりに倒れ込んでしまった。動かないジャッカルに歩み寄り、背中をさすろうとする。

だが、その背中は、真っ赤な血が滲んでいた。触った瞬間、血のせいでずるり、と手が滑る。

「ちょ、ジャッカル!」

 俺はあわててナースコールボタンを押し、ジャッカルのもとに駆け寄る。数分しない内に女性の看護士がこちらに来て、ジャッカルを見ると血相を変えた。

「ジャッカルさん!あなたは重傷患者なんですよ!!なにしてるんですか!」

 その声に、ジャッカルはかすかに意識を取り戻しながら、呟く。

「いいんだ・・・礼を、言いたかっただけなんだ」
「何を馬鹿なことを・・・!まだ傷が塞がっていないんですよ!」
「いいんだ・・・俺は・・・俺は・・・!」

 ジャッカルはそのまま、汗だくになり、意識を失ってしまった。

 あとで看護士に聞いた話だが、ジャッカルは先の戦いであの黄色い奴の光線に襲われた仲間の兵士をかばって背中に重傷を負ったらしい。光線で焦げ付き、背中の組織が壊死を始め、あと少しで死、というところで俺の機体が現れ、奴をかっさらっていったそうだ。

「多分、そのことでもあなたにかなりの恩義を感じて・・・」

 馬鹿ヤロウ・・・

「馬鹿野郎だ!あいつは!」

 ここに来て、まだ一ヶ月もたっていないだろうが、俺は共に戦う基地の奴らに、少なからず親近感を持っている。それもジャッカルや翼、司令にいたっては別格だ。

「それなのに・・・」

 いや、だからこそ、かもしれない。トレーニングの時に出会うたび、ジャッカルは慣れない俺に話しかけてきて、辺りの人間に俺を紹介したり、たわいもない雑談をしたり、とにかくいろいろなことを世話してくれた。

「俺は、今それを思い出すのか!今!」

 情けない!

 翼が悪いわけではない。ただ、俺がうつつをぬかしていたのが間違いなんだ。そう思った。
女の子がどうとか、そんな事を考えているような場合じゃなかった!

そう

そのときは、そう思ったんだ。

ぶんた〜ん!

ねも~い!


眠くておきられない日はぶんたんですね!

いや、食べたのは昨夜なんですが!



平日中に書きためたYUJIですが、さすがに作者


色々と飛んでいる部分がおおい!


時系列に並べてみると、一つ一つの話の間に一年くらいの間があるんじゃね?という進み具合ですよ!

悲しいほどに展開が速すぎるので、ついて来れん!
補完といいますか、ひとまず間を生めるべく、少しずつ改修しつつ、作成中です

ひとまず、週一で張り出せるようにしたいですな~


っというわけで


YUJI15、貼り付けます!




誰も見てないだろうけどね!

YUJI 〜14〜

「出るぞ!」
 基地の外では怒号が響いている。12年の時を経てなおその輝きを失わない人々の光が、俺の体を包むように支えてくれる。コクピットに入り、座った瞬間、今までにこいつの製造に関わった人々の顔が波のように押し寄せてきて、去っていく。気づくと、俺の腕と足は完全に椅子と同化し、固着されていた。
「な、なあああ!?」
 体が吸いつけられるような感覚が襲う。だが痛みがない。逆にそれが怖い。
「落ち着け!それはお前の体だ!」
 外から司令が叫ぶ声が聞こえる。
「落ち着いて鼓動を感じろ!お前の意志でその固着は外れる!だが今ははずしている暇はない、そうだろう?」
 たしかに!
「どうやれば動くんだ?これ!」
「両手両足が固着されたら、あとは背中と後頭部を椅子につければ神経が接続される。視界がディザイアと同化すれば、お前はもうそいつと一つだ!」
「了解!」

 ググゴゴゴ

 両手

 両足

 一気に全部が開いていく。体の隅から隅まで冷たいものが走り抜けたかと思うと、今度は熱を帯びた空気が覆ってくる。

 胴体、背中、頭脳、視界

 その全てが今、接続される。全身のモータが同時に駆動を始め、地鳴りにも似た振動がドック内部を覆う。司令がドックから退散したのを見ると、俺はただ、ただひたすらに前を見据える。全身のモータの駆動が安定する。腕はどうだ
「動く!頭も、足も!」

 いける!

「飛ぶぞおお!」

 ゴゴ・・・音を立て、屈伸する俺、ディザイア。目の前の黒い壁面が上下する。
「ぬああ!」
 瞬間、黒い壁面が轟々と流れる河のように目の前を通り過ぎる。風が全身を叩き、地面の中に突き戻そうとしてくる。
「く、空気抵抗」
 失速する。
「でも!」
 翼が待っているんだ!



バアアアアアアアアアアアアアアアア!




 鳥の羽ばたきのような音が耳を通り過ぎる。と、同時に、ガラスが割れたように黒い岩盤が消えていき、視界が弾ける。久しぶりに感じる地上の風景。360度に広がる新緑。遠くに見える地平線。天高くある太陽。真下に位置する基地。そして・・・
「敵!!」
『まずは姿勢制御だ!』
「どわあっ!な、なんだよ!」
 急に司令の声が耳の奥に響いてきた。
『無線というやつだ!直接お前の耳に聞こえるようにしてある!いいから姿勢を制御しろ!』
「了解!」
 空中で回転を続ける『自分の身体』を持ち直そうと頭で念じると、不意に回転していた景色が止まる。
「ど、どうなっているんだ?」
『いいか、よく聞け。お前の体は、お前の意思に反応して動く。歩こうと思えば歩ける。走ろうと思えば走れる。飛ぼうと思えば飛べる!今空中でお前の姿勢が安定しているのは、背中についているブースターのおかげだ』
 言われて俺は、背中に手を延ばしてみる。何もないな、と、探り、肩甲骨あたりに手を延ばした瞬間、

チュイイン!

何かに切り刻まれるような感触が襲ってくる。

「おわああっ!」
『触るな馬鹿もん!ブースターは、液状になるまで圧縮された酸素を燃料と混ぜ、瞬間的に爆発させてお前の体を浮かせている。下手に手を出すと火傷じゃすまないぞ!』
「りょ、了解」
『もう一つ言っておく事があるんだが』
「なんだよ」
『ブースターの連続運転は5秒しか保たない!』
 不意に、背中を押していたナニカの力がぬけていく。
「ブースターがきれた!!」
『頑張れよ!』
「言うのがおせええええええ!!」

ガッシャアアアン!!

「つつ・・・ん?」
 落ちた先に、自分よりも少し低いくらいの怪獣が見える。その足元には、銃を掲げて高揚する戦士たちと、それに相対する黒い影が見える。その中に、傷は負っていたものの、まだ無事で居てくれた、翼の姿もある。
「翼・・・!」
 怪我の原因はコイツか!俺は目の前にいる巨体を見据える。全身黄色の巨体、丸い頭の真ん中に、口はなく、ただ大きく開いた眼が一つだけある。動くたびにジュルジュルとゼリーが擦るような音がしたかと思うと、怪獣は頭の後ろから触手のようなものを出した。
「ケッ、このやろうが」
『ブースターは一度使用したら、2分のインターバルを置かないと使用できない。燃料と合成する圧縮空気を作るのに時間がかかるからな。お前の全身にある毛穴から空気を取り込んでから圧縮しているから、土砂のようなもので塞ぐんじゃないぞ!』
「了解!・・・で、コイツにはどうやって対抗するよ」
『ふ・・・』

と、ここで司令が笑う。

『ユウジ、戦う前にやるべき事があるだろう!!』

「あぁ・・・やっぱりか」
 そう、司令、いや、爺ちゃん仕込みの俺のAIは、この時にまずやるべきことを思い出させる。ああ、と俺は肩を落とし、足元にいる人間達を踏みつけないようにジャンプすると、敵の目の前に着陸する。
「まあ、そうだな。そうだよな!」

 右足を大きく踏み出し、左手を前に突き出す。人差し指はまっすぐ敵を、視線は敵の眼を、体は常に前を向く。怪獣が少しだけ、俺の動きに怯んだように見えた。
「やいやいやいやい!やってくれたじゃねえか!宇宙怪獣だかなんだか知らんが、よくも俺のダチをしごいてくれたもんだな!ええ!?」
 さらに怪獣が怯むのを感じるや、歓声が俺を包む。
「やられた分は倍返し、過去のしがらみ吹き飛ばし、貫き通すは男道!宇宙が来るならかかってきやがれ!売られた喧嘩は買ってやる!」

 そう

「俺の名前は、希望の戦士、ディザイアン!」


 口上の終了と共に俺は走り出す。弾ける視界。右足を前に踏み出し、飛び上がる。まず、ちっこい奴らを踏まない位置にアレを移動させなくては。怪獣の頭の上に飛び上がると、俺は相手の丸い頭を踏み台にし、後ろに回りこむ。と、俺はそいつの右腕を引きちぎらんばかりに掴み、ぶん回す。
「づあああ!」
 狙いは、基地から離れた山の中。
「おらああ!」
 気合と共に相手の体は遠くに千切れ飛ぶ。意外と脆く、掴んでいた右腕を残してヤツが山中の斜面に突っ込む。
「あとのちっこいのは任せた!」
 親指を立て、基地のみんなにそう激を飛ばすと、奴を追っていく。丸い頭、右手、左手を覆うように伸びた触手、黄色い全身。口はなく、大きな瞳がぎょろりとむいている。顔の半分以上を覆う大きな瞳は黄色や赤、青色に変化が忙しい。非常にやわらかい体の持ち主だということだけは分かったが・・・
「めんどくせえ、一気に決めるぞ!」
『待て!』
「うおおお!?」
 急に頭の中に司令の声が響く。一瞬相手の攻撃かと思ったがそうではないらしい。
『相手の動きを見ないと、いつどんな罠が張られているかもしれんぞ、ユウジ!』
 さすがに、今まで散々漫画やドラマを見漁っていただけのことはあるのか、相手の常套手段というのを熟知している様子の司令は、熱に浮かされた声で言う。
『罠は、相手が死に掛けている時にこそあるものだ。これ以上無いというほどの優勢の時にこそ、油断するな!これは漫画やアニメと関係なく、現実でもそうだ!』
「あいよ!で、どうすればいいんだよ」
 どの道、早くしないといけない。ちぎったはずの手が修復を始めているからだ。それも、異常なスピードで、すでに体の形が完全にもとに戻りつつある。だが、司令の話ももっともで、直接打撃系は使えない。となれば・・・
「遠隔か!」
『カラミティ・ブレスというものがある。お前の左手を見ろ!』
 左手?俺は自分の左手を見るのと同じ感覚で腕を動かす。すると、ディザイアの腕が上がり、俺の眼前に迫る。左腕も相変わらず黒光りする特殊な装甲で覆われているようだが、右手とは少し勝手が違っているようだ。手の甲辺りに奇妙な突起物がある。
『そこから強力な水圧カッターが出る!一秒間に数トンの水を圧縮させて打ち出す奴だ!実際に使ったことが無いから分からんが、撃ち始めて5秒で使えなくなる!』

 また五秒しか使えない物を・・・

「それ使えるのか!?」
『お前次第だ』

 そういわれると、やってみるしかないねえ!

 俺は左手を伸ばし、相手を見据える。5秒だけしか使えないということなら、急所を何とかしないといけないのだが。こうしている間にも相手は千切れた体をくっつける。右手や左手は脆く壊れやすい割に、修復が早い。切断はほとんど意味がなさそうだ。むしろ、気になるのは大きく見開かれた目玉だが。
「ギギィィィ!」
 突然、目玉から光が発せられる。淡く丸い光が俺の右手に当たっているようだ



ドンッ!!

「うあああああああああ!」
 右手が、飛んだ!千切れた!爆発した!
「くそおお!」
 痛い。とんでもなく痛い。痛いって言うのがどういう状態を指すのか分からなくなるほど、痛い。
「なんでこんなに痛いんだ!司令!」
『あくまでの人間と同じように、痛覚を感じるようにさせてあるからだ!』
「なんで!」
『痛みを、忘れないためだ!故障したのは右手だけか!?』
 そんなの分からない!俺はただひたすらに、その場にうずくまる。
(た、立てないよ!痛い、痛いい)
『ユウジ!』
「いてえっつってんだよお!」


『翼が死ぬぞ!』


「く、ぬ」
『それでもいいのか!男として、それでいいのか!ユウジ!』
「いい訳ねえだろ・・・いい訳ねえだろお!」

痛いなんて言ってられない、俺は唇を噛みしめ、痛む右手を押さえて立ち上がる。出血が酷い。
『この場合、【出血】と言うより、【出水】と言ったところか。カラミティ・ブレスとは別に、お前が稼動する際に発生する熱を冷却するオイルが噴出しているな』
 司令の声はいやに落ち着いていて、でも、それが俺の思考をまとめてくれる。
「・・・あと、何分くらいだ?」
『もって12分!』
「そうかよ!」
 俺はとっさに相手の目に向けて水圧カッターを放つ。だが、またあの光が出ると、水は一瞬で沸騰し、蒸発していく。
「ちっ・・・!」
 体感でも何トンもの水を放出したというのに・・・一瞬で蒸発するなんてありえない!
『だが、あり得ている!奴の目はおそらく最大の攻撃力を誇っている武器でもあり、弱点だぞ!ユウジ!』
「そうは言われても!あの光を何とかしねえと!」
『ぬ、ぬう』

 司令はそれきり黙りこむ。策はないようだ。吹き飛んだ右手がまたズキズキと痛み始めて、思考を散乱させる。目、目、くそ・・・確かに目しか弱点はなさそうだが、水圧カッターはあと2秒と言ったところか。また、相手が目を光らせる。今度は俺の頭か!
「くそ!」
 とっさに今度は、カラミティ・ブレスで相手の胴体を切り裂く。1、2・・・水圧カッターが停止。同時に相手の目が光輝く。
「くっ!」
 だが、胴体が裂けたためか、相手の体が歪み、光が頭から外れる。
「お?」
『むお!チャンスだ!ユウジ!』
 光が遠く発せられ、上空の雲が消えると同時に、俺は相手の体に向けてすッ転ぶように突っ込んでいく。
「おおりゃああ!!!」
 右手が痛くて痛くてしょうがない!ホント、痛覚だけは残ってやがる・・・!
「よくも、やってくれたなああ!!」
 丸い頭

 丸いボール

「てめえの頭、サッカーみてえにぶっ飛ばしてやる!」
 名づけて
「テンペストシュート!」
 地面から黒光りする機体の足が摺りあがり、相手の目に突き刺さる。モータが高速回転を開始し、さらに足は上空に高く舞い上がろうとする。
「ギ・・・」
 目がまたしても光り始める。
「くそっ!」
(引くか、それとも)

いや

押す!

「逃げてられるかああ!!」
 モータの回転があがり、ひざ、腰、足首に至る全てが高速に稼動する。上空に高く舞い上がる足。浮き上がる怪獣。黄色い体に大きく刻まれた俺の足の刻印は、その目から光を奪う。
「ん!」
 左手がぴくりと動く。まだ奴が生きている。そう感じる。落ちてくる奴が、丁度いい場所に来る。
「ぬうう!」
 力を貯め、左手をぎゅっと握り、カラミティ・ブレスの準備体勢のまま待機する。
「ギ」
 落ちてきた奴と目が合うと同時、全身のモータが同時に回転を始める。まるで全身に血が巡るような感覚と同時に、右足を一歩前に踏み込み、左手を突き出す。相手の目に向けて打ち出された拳は、そのまま相手の体内を貫かんばかりの勢いで、まさに飛ぶように動く。
 そう

 名づけて!
「カラミティ・ブロオオウ!」

 ぶちぶちぶち

 相手の体の組織を破壊しながら、カラミティ・ブレスの突起が進む。拳が完全に突き出された時には、相手の体は散り散りになり、地面に音も無く落ちていた。残った頭が、恨めしそうな瞳を見せながら左腕に突き刺さったまま、俺の体は完全に稼動を停止した。

いや〜まいった

最近 全く と言っていいほど、こっちのほうの更新してません^^;

何気に最近、他にも書き物を載せるサイトを見つけまして・・・ええ

モバゲーってやつなんですがw


そこで、「店長パンダ」というハンドルネームで、ええ、書いていますよ!


【鉄火の剣】の全編を!

最初の始まりから、最後まで、私の思い描いた構想をうまく表現できるかどうかはわかりませんが、楽しんでもらえると嬉しいです。

ちなみに・・・


歴史に関係ない、創作としての時代小説なので、時代考証云々を言われるとかなり困りますので、



そこは大人な目線でご容赦くださいw


YUJIのほうは、早々に更新再開します!
もうエンディングまで頭の中にある以上、やるしかないですからね!

以上!

おつうとクズの恩返し

 クズの藪八(やぶはち)は、一羽の鶴が罠にかかっているのを発見した。鶴の足が引きちぎられんばかりに金具で押さえつけられ、その首には縄が絡んで動きが取れない様子だ。巌のようなごつごつした顔が、卑しくゆがむ。

―しめたぞ

 にやりと下卑た笑いを口の端に浮かべた藪八は、ここぞとばかりに鉈を取り出す。脂ぎった顔が光で照らされ、その喜びをあらわしていた。

―村の連中からクズと蔑まれ、挙句に村から遠く離れた山奥で過ごすことになってしまった、運の悪い俺だったが、今日はついてる。鶴でいっぱい引っ掛けるか

のそり、のそりと鶴に歩み寄り、藪八は鉈を頭の上に振り上げる。


ずる

 藪八は何かに足をとられて転んでしまった。見ると、何か動物の糞があったようだ。
「くそっ!」
 さらに悪いことに、持っていた鉈が鶴の首に絡んでいた縄をはずし、挙句、金具を固定していた縄までも切り裂いてしまっていた。当然、鶴はその場を飛び去り、藪八は今日のご馳走を見事に逃がしてしまったのである。


「ばぁかやろう!」
 鶴が山から逃げて一刻(一時間)ほどしただろうか。人の寄り付かない断崖絶壁の山の向こう、鶴たちが暮らす、鶴の桃源郷とも言うべき住処から、怒鳴り声が鳴り響いた。
「鶴の風上にも置けねえやつだな!おめえは!」
「だってさ」
「だっても糞もねえ!スジってえもんを通さねえと、安心してお天道様を拝んでもいられねえじゃねえか。理由はどうあれ、助かったのなら、鶴らしく恩返しをするのが道理」

 怒鳴っているのは、鶴の長老、その名も『ギン』。もはや鶴としての寿命をまっとうしていてもおかしくない年齢でありながら、その気迫たるや、今の若者(あくまで鶴だが)をしのぐほどである。長年手入れの行き届いた羽は、もはや白を通り越して銀色に輝き、見るものが見れば、それがもはや宝にも近いものだと理解できる。
 怒鳴られているのは、鶴の『おつう』だ。銀翼が怒りで羽ばたくのを恐れ、下を向いたままおつうはただただギンの話を聞いている。
「わかったか、鶴は優雅で、かつ華麗に恩返しをしなくちゃならねえ。まして命の恩人とあっちゃ、糞野郎だろうがなんだろうが、返すのが道理ってもんだ」
「それなら、あたしが織った反物をただ家の前に置いておくだけでもいいんじゃないですか?」
「たわけ!ばか者!恥を知れ!」
「ひいい」
 ギンの怒りはとどまるところを知らず、住処で話を聞いていた者たちはその身を震わせておびえる。おつうにいたっては顔面が蒼白で、白い羽でも隠せないほどである。
「鶴なら鶴らしく、人を化かしてでも反物を織って、渡して、尽くすんだ!顔も見せねえで置いていくなんてしてみろ。お天道様に・・・」

 ギンが怒鳴り始めてからどのくらいが経っただろうか。もはやギンの好きなお天道様はとうの昔に落ちており、あたりは闇に包まれ始めている。それでもギンの怒りは収まらなかった。
「いいか、明日早々にその男のところに行き、恩を返して来い!いいな!」



 しばらくして、藪八のもとに、一人の美しい女が転がり込んできた。名を『おつう』という。
「お、おつうたあ、なんともいい名で」
「ありがとう」
「で、なんだってこんな、人里離れたところに来たってんだ?」
「友達を訪ねてここまで来たのですけれど、外はごらんの通り大雪。体力も底をつきかけていたところにあなた様の家を見つけました。まことに手前勝手ではございますが、こちらで雪が止むまで休ませてはいただけませんでしょうか」
 おつうは、ギンに言われた通りに丁寧な口調で話し、藪八の家に転がり込む作戦に出た。



「なるほどなるほど」
「え?」
「お前、人間じゃねえな」
 おつうは不意に、体を硬直させた。
「な、何をおっしゃいますか。この通り私は生身の人間」
「馬鹿いっちゃいけねえ。あんたのいうとおり、外は大雪さ。それも人里離れたこんな山奥。道はがたがた、風は轟々。獣も幅を利かせてて危ないってのに、あんたみたいな若い女子が一人でのそのそやってこれるとは思えねえ」
 藪八はおもむろに立ち上がり、おつうのもとに歩み寄ると、額がくっつくかと言うほどのところまでやってきて言った。
「失せな。妖怪には興味がねえ」
 そう言うと、持っていた猟銃をおつうの肌に押し当てた。おつうは体を硬直させ、昼間の罠にかかったときよりも一層恐怖に体を震わせる。


「恩を」


 おつうは、振り絞るようなか細い声で、ようやく藪八に言い寄った。
「恩を返したく存じます」
「恩?」
 おつうは、洗いざらいしゃべり、山での長老の台詞もあわせて伝えると、ようやく一息ついた。
「ほぉ、恩ね」
 藪八はにやりと笑うと、おつうにこう言い渡す。

「なら、俺の女になりな」


 それから一年。おつうは尽くした。昼は織物。夜は夜伽。男はただただ求めるだけ。おつうは我慢し、それでも尽くした。逃げようとも思ったが、藪八がいつも腰に下げていた猟銃が眼に入るたび、体が硬直して動かなかったのである。

―なんとか、しないと

 藪八にとっても、おつうにとっても転機とも言うべき日が来たのは、ほどなくしてからである。そろそろおつうが来て一年、というときになり、おつうは藪八の子を身ごもってしまった。
「え」
 おつう自身、それは信じられないことだった。いくら人に化けているとはいえ、鶴である。身ごもるはずがない。おつうは悲しみと怒りが入り混じった表情で、藪八に詰め寄り、こう言った。
「取り返しのつかないことになりました」
 だが、藪八から返ってきた言葉はこうである。
「ふん、一年も共に過ごしたってのにまだ俺が憎いようだが、果たしてお腹の子供まで憎めるのかい?おめえさんは」
 そのとき、おつうの中で何かが切れた。

 おつうは藪八の腰に手を伸ばし、とっさに猟銃をとると、その銃口を藪八の眉間に向けた。
「はは、俺を撃とうってのか」
「あたしは、あんたが憎い」
「子が生まれたからか?」
「違う」
「じゃあ、なんでだ」
 おつうはその答えを言わないまま、ただ涙を一筋流すと、銃口を己の頭に押し当てた。
「私は、これにておいとまさせていただきます」


ぱんっ



 乾いた銃声が藪八の家に鳴り響いた。おつうは、涙にぬれた瞳で、倒れ伏した藪八の姿を見た。
「あんた、あんた、なんだってそんなこと」
 銃が撃たれる瞬間、藪八はその銃口を己に向けて撃たせたのだ。その銃弾は藪八のはらわたを食いちぎり、背中から抜けて床に刺さった。
 おつうは、ただただ藪八が理解できなかった。
「なんで、そんなこと・・・」
 息も絶え絶えの藪八は、震える手を伸ばし、おつうの頭にかんざしを挿す。
「おめえみてえな美人が、巌のような顔した俺のところに来てくれたのが嬉しくてな」
 声を出すたび、藪八は食いちぎられたはらわたから出た血を口から吐き出す。
「今日は、一年だ。ちょうど」
 藪八は、視点が定まらないようすでおつうの頬を手探りでさわり、いつものようににやりと笑うと、
「似合ってるぜ」
 

 そう言って、事切れた。


『なんで俺が憎い』
 そう聞かれたとき、おつうは答えが出なかった。はじめは恩返しだからと、嫌々ここに来て、正体がばれて、脅されて・・・

「でも」

 そうだ、おつうが必死の思いで織った反物を、毎日毎日、休むことなく村で売っていたのは藪八だった。嫌われ者の藪八は、その反物の出所を聞かれてもがんとして言わず、ただ必死に売りさばいていた。
 怪我をして帰ってくることもあった。
「いい気味だなんて・・・」
 思っていた。藪八は毎晩、おつうを愛した。
「気持ち悪い」
 そう思っていた。でも・・・

「何一つ、酷い事なんてしやしなかった」

 おつうが美人だったからかもしれない。藪八が見た目以上に繊細で心優しかったからかもしれない。


「なんで、あたしはそんなことも分からなかったのだろう」

 おつうは、自分が鶴で、藪八が人間であったことを悔やみ、一晩中泣くと、長老に別れを告げ、山を降りていった。

 その後、おつうを見たものは誰もいなかった。