遠くの白砂が舞い上がり、潮の香りが駆け抜けていく。
 
 
キョーコの着る太陽の光を煌めかせた真っ白のリネンシャツを、蓮はゆっくりとはだけさせていく。
 
再び露になるブラ一枚のみの美しいキョーコの背中。
 
 
「後ろを向いているから、そのうちに外して。
 その後は、手で隠していていいからね。」
 
 
蓮が小声でキョーコに指示をすると、再び背を向けたまま上半身を全て曝け出すキョーコ。
 
はらり……と砂の上に投げ出されたレスワイヤーブラを確認した蓮は、そっとキョーコの背中からリネンシャツを羽織らせた。
 
 
「なんでもない動作も絵になりますね……」
 
 
黒崎の隣に立つスタッフは感嘆の声を洩らした。
 
 
その後、ヤシの木の周りで追いかけっこをしたりと、可愛らしいカップルを演じていく二人。
 
ただ、はしゃぎながらも二人が常に気になるのは、キョーコの心もとない胸元。
シャツは羽織ってはいるものの、前ボタンは留めていない。
しなやかな鎖骨から引き締まったお臍回りまで、常に縦ラインに美しい素肌を見せている。
 
動きがある方が透けにくいのはいいとして、問題ははだけすぎていないかどうか。
 
それはたとえニップレスをしていたとしても気を付けなければいけないことのため、キョーコが胸元を押さえていたとしても違和感はない。
 
 
「オッケー!動きはそれくらいでいいだろう。
 後は絡みな。最後はチュー入れろよー!
 マネージャーさんはOKだそうだからな!」
 
 
そんな黒崎の言葉に、ええっ!?と目を見張った社。
黒崎は驚く社に目配せをした。
 
黒崎のやり方は少し強引だが、そもそも蓮とキョーコのキスシーンに、マネージャーである社はもちろんのこと事務所としてもNGである訳がないことから、社は黒崎に頷いて見せた。
 
 
「っ!!/////」
 
 
赤面するキョーコに蓮が気づく。
 
 
「大丈夫だよ、"演技" だから……。」
 
 
もちろん蓮自身は "演技" として向き合うつもりなど更々ないが、硬直しているキョーコを解きほぐすには女優魂を呼び起こすしかないと思った。
 
案の定、すぐに気持ちを切り替えたキョーコ。
 
 
いよいよ最終の絡みの撮りに入る。
 
 
向かい合い、手を取り合う二人。
 
役に入ったキョーコは、蓮への気持ちを開放し、潤んだ瞳で見上げる。
 
蓮はその瞳に吸い寄せられるように顔を近づけて行く。
 
すると、スッと横へ避けたかと思うと、キョーコの頬に優しく唇を触れさせた。
 
それだけでも嬉しさと恥ずかしさから頬を赤らめるキョーコもしっかりとカメラに収められていく。
 
 
そして、そのまま蓮はキョーコの背後に回り込むと、後ろからキョーコを強く抱き締めた。
 
キョーコもそれに応えるように蓮の鍛え抜かれた腕にそっと手を添える。
 
 
「最上さん……。」
 
 
「……はい?」
 
 
耳許で名前を呼ばれ、続く言葉に耳を傾けていると、
 
 
「……愛してる。」
 
 
はっきりとそう告げられたキョーコは、一気に体温の上がった身体と、締め付けられるような胸の痛みを必死に堪えた。
 
 
そんなキョーコの様子を知ってか知らずか、
蓮が長い人さし指でキョーコの顎を掬い上げ、目と目が合ったその時ーーー
 
 
ザザーーーン……!!
 
 
と一際大きな波の音と共に、浜辺の砂を高く高く巻き上げるほどに強く吹いた海風ーーー
 
 
二人の今の身体の向きは、スタッフに正面を向けていることを思い出し、一瞬にして血の気が引くキョーコ。
 
 
(もうダメ……!!絶対見えちゃうっ!!)
 
 
ギュッと両目を固く瞑り、シャツが捲れ上がることを覚悟したキョーコは、ひんやりとした海風に晒されるはずのコンプレックスなその部分が、何故だかふと温かなものに包まれた感覚を覚えた。
 
不思議に思いながら恐る恐る目を開いた瞬間、キョーコの視界に飛び込んだ光景はーーー
 
 
「うひゃぁっ!!?/////」
 
 
やはり大きく裾が捲れ上がったリネンシャツ。
だが、そのうねりの中に見えたのは、クロスするように差し込まれている節くれだった手。
その手の行く先に目線を遣ると、キョーコのコンプレックスの塊にご丁寧に一つずつ添えられていた。
 
 
「しっ!落ち着いて、最上さん。
 だんだんと風が強くなってきたし、いつまた今みたいな突風が吹いてもおかしくない。
 このままで最後まで撮りきろう?」
 
 
キョーコは出来れば一番知られたくなかった人に、一番知られたくなかったものを鷲掴みにされ、全力でこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、それを何とか抑え込み、必死に気を取り戻そうとした。
 
 
「……ごめんね?最上さん……。」
 
 
「いいえっ!
 そんなっ……、悪いのはきちんと準備を
しなかった私ですから……。」
 
 
「……そうかな?
 最上さんは悪くなんてないよ。
 
 むしろ俺にとっては、今のこの状況はラッキー以外の何物でもないけどね?」
 
 
そう言いながら蓮が後ろからクロス鷲掴み状態のまま、覗き込んでニタリと嗤って見せると、恥ずかしさと悔しさと色んな気持ちがごちゃ混ぜになったキョーコが、カッと目を見開いて蓮へと振り向いた瞬間……
 
 
 
重なる唇
 
 
 
(あぁ、やられた……。)
 
 
何もかもまだまだ蓮のペースに操られっぱなしのキョーコは、もう感服するしかなかった。
 
 
「オッケー!カットだー!!お疲れさん!!
 休憩入れたらメンズのワンショット撮るからなー。」
 
 
黒崎は満足気に胸ポケットから煙草を取り出すと、休憩場所へと向かって行った。
 
 
 
*  *  *
 
 
 
その後、クロユニの新CMはメディアのあちらこちらで取り上げられ、巷でも大きな話題を生んだ。
 
その話題のほとんどが蓮とキョーコの絡みの部分によるもので、
※ 蓮は本当に京子の肌に触れているのか?
※ 唇もフリだけなのかどうなのか?
※ いっそ入れ替わって欲しい。。
など、蓮とキョーコそれぞれのファンによる様々な臆測や願望が世間を賑わせていった。
 
 
そしてもちろんそんな話題性を齎(モタラ)したCMの効果もあってか、クロユニの今夏の新商品の売り上げはこれまでにないほどの高収益を上げたとか……。
 
 
 
さらには……
 
 
「あの時の撮影で言ったこと、全て俺の最上さんに対する本心だからね?」
 
 
なんてさらりと宣った蓮に、
 
 
「わっ、私だって全部本心なんですからねっ!!///」
 
 
と、曲解どころか何故か張り合ってきたキョーコを今度こそ本当にしっかりと鷲掴みにした蓮。
 
 
あのCM撮影がきっかけで!と報道各社が大盛り上がりになるのは、もう少し先のお話♡
 
 
 
 
Fin.
 
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greenさま、リクエストありがとうございました!!(*´ω`*)
 
 
まだまだこの2周年&アメンバー様200人記念に頂いたリクエストがたくさん手元にございますo(^-^)o
少しずづではありますが、書かせて頂いて参りますので~♪
・・・でもこんなペースだと、くださった方もどんなリクエストしたのか忘れそうですよね・・f^_^;
いつも同じことばかり言っちゃってますが・・・気長~~にお待ちくださいませ(((*ノд`*)