蓮がキョーコの店から追い返されてから約三週間。
蓮は再び店を訪れた。
カランコロン……
「いらっしゃ……っ」
「久しぶり……
キョーコちゃん。」
蓮が店の常連になってからのこの数か月、週に一回以上は必ず通っていたため、三週間も空くこと自体が珍しかった。
「……っ……」
キョーコは反射的に蓮に背を向けてしまう。
「そのままでいいから……聞いてくれる?」
「…………。」
「俺が不動産会社で働いてるって言わなかったのは本当にごめん……。
最初にこの店に来た時も、本来なら客としてじゃなく、買収の話をするつもりだったんだ……。」
「……っ……!」
キョーコの肩が震える。
「でも……君の……キョーコちゃんの明るい対応に言い出せなくて……。
まだ期限まで時間もあったし、君がどんな風にこの店をやりくりしているのか、ほんの少し調査してから切り出そうと思った……。」
「…………。」
「ほんの少しのつもりが……
君の施術はもちろん……君自身にも、それからこの町自体にも、その温かさにだんだんと惹かれていって……
気がついたらもう、俺は仕事なんて忘れてしまってたんだ。」
ははっと自嘲気味に笑う蓮の様子に、キョーコはゆっくりと振り返った。
「正確には、忘れてたというよりかは、守りたいと……思うようになったんだ。
君と、この町を……。」
眉根を下げて頬笑む蓮を見て、キョーコの瞳から一筋の雫が零れ出した。
「それでね?
これ……なんだけど……。」
そう言うと、蓮は営業鞄から一枚の紙を取り出し、キョーコに手渡した。
「……?
……小切手……?
ごっ……五千万っ!?」
キョーコは小切手を慌てて蓮に突き返した。
「これで……ここを守りたいんだ。」
「どっ、どうされたんですかっ……それ……」
さすがにサラリーマンの給料で簡単に用意できる金額ではない。
「これね、株で儲けたんだ。
それに時間がかかってしまって。
最初に俺が聞いた金額より上がってたし、買収の期限ギリギリになってしまったけど……。」
「でもっ……そんな大金っ……」
キョーコはいくらなんでもそこまでしてもらう義理はないと、首を大きく横に振った。
「……これを……できたらね、
結納金とでも思って、君に受け取って欲しいんだ。」
「ゆっ!結っ!?///」
「君とこの店を、一生守っていきたい。
これからは手と手を取り合って生きていこう。
結婚しよう、キョーコちゃん。」
「えええええっ!?///」
驚いたキョーコをなんとか時間をかけて口説き落とした蓮は、翌日五千万円の小切手を持って社長室を訪れた。
「…………。」
小切手を手渡され渋い顔のローリィを、真剣な表情で構える蓮。
「これは受け取れねぇな。」
「なっ!?何でですかっ!?」
思わずバンッと机を叩きながら立ち上がる蓮。
ローリィは小切手をついっと蓮に差し戻した。
「…………必要ねぇからだ。」
「え……」
「あそこの駅の再開発は差し止めた。
変わりに……隣町が大手を振って再開発を受け入れてくれたよ。」
「えっ!だってあそこは……」
「こないだ町長が変わったんだ。
そしたら状況がコロリとな。
だからこれは、大事に取っとけ。
これからの生活に……必要だろう?蓮……」
「っ!!ありがとうございます!!」
それからというもの、蓮は不動産会社を退職し、マッサージの技術を本格的に学んだ。
そして、キョーコと籍を入れ、町の人達に盛大に祝ってもらい、二人でこの店と町を盛り上げていくこととなったーーー。
「ありがとうございましたー!」
カランコロン~♪
カチャリ。
「ふぅ~蓮さん、今日はこれで終わりですねっ。」
「ねぇ、キョーコ。
今日は疲れただろう?
俺がマッサージ……してあげるから、ね?こっちにおいで……」
Fin.
※地上げや土地開発、株や小切手についての知識も、マッサージの知識も曖昧で適当です。その辺りはご容赦くださいませm(_ _)m
可愛いリクエストを本当にありがとうございました(≧∇≦)
パラレルじゃなきゃ書けない蓮キョの二人に、とっても楽しく書かせて頂きましたっ(*´∇`*)♡
最後にもう一つpopipiのへん○いマッサージぇろにお付き合い頂けるアメンバーの方は、後編の続きにあたる番外編②もどうかお納めくださいませ~(*´Д`*)♡