前話はコチラです・・
1話目はコチラ・・
京都の華々しい観光名所の程近く。
その割に、自然豊かで閑静な由緒ある温泉地。
老舗の旅館の立ち並ぶ荘厳な通りから小路を奥へ奥へと入った先の、今は人気のない一軒の古民家。
その一室に、似つかわしくなく響く艶かしい水音……
これは、何回分のキスなんだろうーーー?
キョーコが朧げな意識の中でふとそんなことを考えていた時、お腹の辺りでふしだらな動きをする蓮の手に気づいた。
いや、まさかーーー
でも、そんなことーーー
私に限ってある筈なんてーーー
止まらない蓮との口づけの間に、キョーコはぐるぐるとした思考を巡らせ始めた。
そして遂に蓮の掌がキョーコのささやかな膨らみの上に乗せられたその時ーーー
「ダメーーーーーー!!!」
キョーコは蓮を押し退けた。
「っ!!?」
急に突き飛ばされた蓮は驚いて目を丸くする。
「あっ、ごめんなさっ……!」
キョーコはとんでもないことをしてしまったと慌てた。
「いや、俺の方こそごめんね……了解も取らずに……」
「~~~っ、違うんですっ///
そのっ、私っ……ボンキュッボンじゃないしっ……!!」
「え……?」
「あの……その……
満足とか……えっと……させられな……
ーーーっ!?」
蓮はキョーコの両頬をむきゅっと挟んだ。
「……コラ……」
「え……と?」
仮にも女優の顔がタコみたいになってしまっているが、蓮は至って真剣にキョーコを見る。
「身体つきとか、なんなら経験とかも全く関係ないから。」
「え……、そ……」
そうなんですか?と言わんばかりにきょとんとした表情を見せるキョーコ。
「さっきも言っただろう?
俺が好きなのは君だけで、俺が触れたいと思うのも君だけだから。」
「………………っ/////」
「プッ……」
「っ!?///」
「ごめんね、頬っぺた……」
蓮はキョーコの頬を優しく擦った。
「それに、此処ではやっぱりマズイか……」
蓮はぐるりと室内を見渡すと、それにつられてキョーコも見渡す。
「此処を汚してしまって、君のお母さんに叱られたら大変だ。」
ニッと悪戯に嗤う蓮に、キョーコは恥ずかしさが込み上げる。
「~~~っっ///
おおお、お嫁に行くまではダメですぅっ!!///」
「え……」
「帰りましょうっ、コーン!!」
蓮はキョーコに手を引かれながら、耳の先まで真っ赤に染まるキョーコの後ろ姿を見てクスリと笑った。
「それって、俺のお嫁さんになってくれるならイイってことだよね?」
「そんなことは言ってません~~~っ!!///」
そんなやり取りを、東京へ帰る車中ずっと繰り返していた蓮とキョーコ。
LMEの秘蔵っ子達の個人的な事情には一切首を突っ込まないテンも、この時ばかりはハンドルを握りながら声に出して笑っていたーーー。
その後すぐ、蓮とのスキャンダルを起こし、更にはその素性までもを勝手にマスコミに暴露したエイミーは、社長によって祖国へと強制送還された。
エイミーの両親には日本でしばらくバカンスを過ごすと言って決して小さくはない小遣いをもらって来ていたエイミー。
全てを知ったエイミーの両親はエイミーをこっぴどく叱りつけ、また以前からの知り合いであったクー夫妻の元へと謝罪に行ったが、笑って許されたとか……。
どちらにせよスキャンダルによってスケジュールが白紙となった蓮は、素性も周知されたこの機会にとアメリカで改めて俳優デビューすることとなった。
その為に開いた会見ではまだ京子との交際宣言はされなかった。
日本に残るキョーコとしては、まだ駆け出しでこれからという時に、いくらこちらが真実であるとはいえ、スキャンダルを起こした蓮の尻拭いをさせるには余りに荷が重いとの社長の判断であった。
何も知らないままの尚が、いい気味だと鼻で嗤うことには目もくれず、キョーコはひたすらに邁進した。
蓮が日本へ帰ってきた時に、隣に並んでも恥ずかしくない自分でいるためにーーー
* * *
(あった!フルールの最新刊!)
キョーコは、書店の前に高く積み上げられた雑誌を一つ手に取った。
(クオン……素敵……)
表紙を飾っているのは、アメリカでの活動を始めて一年が過ぎたクオン・ヒズリ。
表紙の大きな顔写真だと、クオンのサラサラの金髪と、自然の色だとは思えない程に美麗な瞳の色が良く分かる。
(……私の……
カレシ………………)
キョーコは書店前で、ぐへへ~と崩れる顔を必死に立て直しては、崩れ……を繰り返していた。
そんな感じで暫く表紙を見つめていたキョーコは、表紙のとある煽り文字に気がついた。
(~~~っ!!?///)
『初めてのカレとの愛の育み方』
更にその下の小さな文字にも目を凝らす。
『~ベッドでの女性の10のマナー~』
(っっっ!!!///)
キョーコはそれを胸に抱えると、赤らんだ顔を俯き隠しながらレジへと向かったーーー
「おかえりなさい!……えっと……敦賀……さん」
「ただいま。キョーコ……!」
蓮は、スーツケースを手放すと玄関に立つキョーコを抱き締めた。
「いい匂い……」
「あ、ご飯もう少しで出来ますからね」
「違う……。キョーコの匂い……」
「えっ///」
「久しぶり……」
「……はい……」
「クスッ、電話と違うね?」
「え……」
「なんか、話し方が付き合う前みたいになってる。」
「だって……黒髪……なんだもん……」
キョーコは蓮の腕の中で少しだけ身体を離すと、蓮の久しぶりの黒髪を撫でた。
「クスクスッ、これだと "敦賀さん" なんだね。」
「だめ……ですか?」
「いいよ。どんな呼び方でも。
キョーコと一緒にいられるだけで、俺は幸せだから。」
蓮は抱き締める腕に力を込めた。
久々のキョーコの手料理に舌鼓を打ち、会えなかった間のお互いの話は尽きることなく、再会を噛み締める二人。
すっかりと夜も更けてきた頃、蓮はちらりと時計に目を遣ると、名残惜し気に切り出した。
「じゃあ、今日はもう……そろそろ……」
「……あ、あのっ……」
蓮に続いて、キョーコも慌てて立ち上がる。
蓮は気付かない振りをしていたリビングの壁際にひっそりと置かれたキョーコのボストンバックに一瞬目を向けた。
「うん?」
「……今日はっ、その……
……帰りたく……なーーー」
俯きほんのりと頬を染めるキョーコを、蓮はふわりと抱き締めた。
キョコさんが可愛くやらかしそうな10のマナーの内容をこっそり大募集……(笑)←本気