―――いいよ。君が立ち止ってしまったら、俺が君を捕まえるために走るから。…だから、安心して俺を好きになって?―――
本当は、彼に言われるまでもなかった。もう、心は囚われていたから。認めてしまっていた想いは、「言うか」「言わないか」の違いくらいしかなかった。
「…ふふふっ、正直なご回答、ありがとうございます。」
「あっ…でも、あの…。私、本当に誰ともお付き合いはしていないんですっ!!今の私は、まだまだ新人のタレントですしっ!!本当に…恋なんて、そんなものに現を抜かしていちゃダメだからっ!!」
「そうですか…。京子さんは、本当にまじめな方ですね。好感持てちゃうなぁ。」
「あっ…。あの。そ、そうですか?……えへへっ、嬉しいですっ……!!」
昔から、あまり同性に好かれることってなかったから、面と向かって好意を示されると照れくさい。嬉しくてにやけてしまう顔を抑えることができなかった。
「??…あの?」
「あ、ご、ごめんなさい!!思わずっ!!」
ニマニマときっとしまりのない顔をしていたと思う私の頭を、「よしよし」と…撫でてくれる、お姉さん。その記者らしくない…というか、不思議な行動に思わず問いかけると、相手は真っ赤になりながら慌てて私の頭上から手をひっこめた。
「はぁ~~~。…京子さん、世の男どもの甘言なんかに惑わされちゃだめですよ?」
「へっ?」
「男はケダモノですから。むやみに笑顔を振りまかないっ!頭からパクッといかれますからね!?」
「いいですねっ!?」と強い調子で言われて「はいっ!!」と思わず返事をしてしまった。
「…それじゃあ、今は仕事が恋人ってことですね?」
「あ、いえ。仕事は恋人じゃないです。…私を作って行く上で、とっても大事なものだから。」
役者の仕事を『恋人』と表現するのは相応しくない。私は『私自身』を作るためにこの道を歩んでいるから。…険しい道のりを歩み、時に転び、迷い、立ち止ったその先にある高みを、私は目指して生きて行くから。
「私、この世界に入って、初めて自分で自分を作っていく喜びを知ったんです。…今まで、誰かのために頑張ってきたことはあったけれど、自分自身のために自分を磨くことはなかったから。今、こうして自分を作っていこうとしていることに、誇りを持っています。」
そして、歩む先の高みの上で。微笑む人を、想う。
「役者の仕事は、私の全てです。……恋人なんかじゃ、ありません。」
「…そうですか。それは失礼しました。」
仕事を通して『最上キョーコ』を作る私を。必死にもがく私を、たくさんの人が見守ってくれている。全ては、この業界の扉を叩いてから作り出された人間関係。辛いこともあるけれど、居心地のいいこの場所は、全部この仕事が与えてくれたもの。
「…あ、すみません。生意気なことを言って……。」
「いいえ。…今日、この日に京子さんに会えてよかったです。」
「え?」
「明日は、18歳の誕生日なんですってね。おめでとうございます。…また来年、同じ日に18歳最後のあなたに会いたいわ。きっと、今以上に素敵な女性で、女優さんで…タレントさんに、なっているんでしょうね?」
にっこりと笑うと、女性は椅子から立ち上がった。
「お時間いただきまして、ありがとうございました。有意義な時間だったわ。…よければ、またお会いしましょう?」
「……。はい。」
そっと差し出された手を握る。
「ふふふっ、来年にはあなたの隣に、素敵な男性がいたりしてね?」
「っ!?それはないですっ!!絶対ないですっ!!私なんて、まだまだなんですからっ!!」
からかうような口調で言われた言葉に即刻否定した。
「あら?そうですか?」
「はいっ!!そうですっ!!」
「クスクス…じゃあ、そういうことにしておきますね。京子さん。今日はありがとうございました。」
「…はい。こちらこそ、ありがとうございました。」
色々と思うところはあるけれど…なんだか、私も17歳の自分の最後の仕事がこのインタビューでよかったかな?って思ってしまう。
それほど、この女性記者さんとお話できたことが嬉しかった。