何かが足りない-第二十四章 ガラス細工- | 恋愛マグネット

何かが足りない-第二十四章 ガラス細工-

前回までのお話は、こちら(目次) から


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私は、ずっと考えていた。



何が正しくて何が大切なのか。



大切ということは、どういうことなのか。





自分を満足させてくれる相手、
寂しさを埋めてくれる居心地のよさだけで、圭介と
付き合っているのなら、それは、圭介のことを
大切にしていないように思う。



ただ、愛されているという自信が欲しいだけだ。

だけど、言い訳になるかもしれないけど、
それだけじゃない。



私は、圭介が好きなんだ。



大げさなくらい大きな声で笑う姿も


100円ショップで私が1つだけ何か買ってあげるよといえば

「そんなことはめったいにないから真剣にならないと」といって
30分も100円のマグカップを選んでいた姿も



いきなり変な鼻歌歌いだす姿も



なぜか圭介がすると「馬鹿だな」っていいながら
私も一緒に馬鹿になれる。





常に愛されたい。
一番になりたいと思っていなければ
いけない相手、でも振り向いて欲しい。
そう思いながら木室さんと付き合っているのなら
それは、木室さんのことを考えていないように
思う。



ただ、自分の気持ちを押しつけているだけだ。




だけど、言い訳になるかもしれないけど、
それだけじゃない。



私は、木室さんを愛してる。




彼が溜息をつけば、元気になるように
私はいつもより大げさに笑ったり、
コンビニ駄菓子コーナーで
「太るから1個だけだぞ」と言われて
妙にそれがうれしくて、うまい棒の味の前でにらめっこしたり
木室さんがなんだか無口ときは
私は、あえて何も聞かずに一人芝居をしながら
お料理を作ったりするんだ。




彼のぬくもりを感じるだけで幸せだと思う。




私は、そんなことを考えながら一つの答えを
見つけ出そうとしていた。




圭介とはこのままではいられない。




大切だからこそ、愛してくれているからこそ
中途半場じゃいられない。




私は、携帯を手にとって
一行だけ圭介にメールを送った。
最後のわがままだと言い聞かせて。





「友達に戻れるかな?」





しばらくすると圭介からメールが返ってきた。





「もちろんさ。俺たち、10年も友達なんだぜ。」




涙は自然と私の頬を伝って、
まるで仮面が剥がれていくように
ボロボロと膝の上に落ちていった。





会社に行くと、何故かみんなが騒いでいた。




「何を皆さん騒いでるんですか?」



斎藤さんが私に耳打ちした



「派遣の女の子に手をつけてもめたとかで
来月付で、木室さん転勤らしいわよ。
やっぱり、あの人の女ったらしっていう
噂は本当だったのねぇ。
しかも、それなのに、何も知らない婚約者と
こっそり海外挙式をあげるらしいわよ。」






私は、これが夢であればいいと願った。






震える手を隠すようにカバンをギュッと握りしめて
私は、斎藤さんにこう聞いた。



「それは、誰からの情報ですか?」





「ほら、3階の吉川係長よ。あの人、木室さんと同期なんですって」






罪は罪を呼んで自分に返ってくる。
私は、二つの大切なガラス細工をどちらも放したくないと
思って強く握りすぎてしまったんだ。




だから、二つとも壊れてしまって、結局私の掌には
傷が残ったんだ。





仕方ない。




自業自得じゃない。




こうなる運命だったんだ。




その日は、木室さんは、私の前に現れなかった。




夜中に一通のメールが送ってきた。






それは、木室さんからだった。