昔々、ある氷に国に一人の大工が住んでいました。


彼は、氷の国でも暖かい暮らしがおくれるように、みんなのために


家を建てていました。


彼の造る家はとても暖かく、その国のみんなに感謝されていました。


寒い中、家を造るのはとても辛かったのですが、国民みんなに支えられて


いました。温かいスープを差し入れてくれる人もいれば、出来上がった


家を見て満面の笑みで感謝してくれる人もいます。


そんな国民のおかげで、彼はたった一人でも家を造り続けることができました。




しかし、そんな彼を疎ましく思う人がいました。それは、その国を治める


王様やその家来達です。彼の作る暖かい家は、氷の国に数少ない木材を


たくさん使わなければできないものだったのです。


このまま彼が家を作り続ければ、王様や家来が暖まるための木材が


なくなってしまいます。


王様たちは、お城にたくさんの木材があるのを隠したまま、こう言いました。



「この国が寒いのは、彼が木材を使いすぎたからだ。

このまま彼が木材を使い続ければ、暖炉の木がなくなってしまう」と。



それを聞いた国民は怒りました。自分たちの国が寒いのは


彼が木材を使いすぎたからだ、と言い出したのです。


そして、彼が住む暖かい木の家を取り上げてしまいました。


それでも、彼はみんなのために家を作りました。今度は


石の家です。木の家ほど暖かくはありませんが、彼は一生懸命


石を運びました。木を運ぶよりもっと大変でしたが、彼はみんなの


ために頑張りました。



しかし、そんな彼を見ても、もう国民は感謝しなくなりました。


そもそもこの国が寒いのは、彼のせいだと思い始めたからです。


そして、彼の作る石の家が、木の家のように暖かくないことに不平を


言うようになりました。


挙句の果てには「彼が暖まるために使っている木材を使えば、木の家を


造れるじゃないか」


そう言い出したのです。



彼は迷いました。自分の体をちゃんと温めなければ、こんな寒い中で


立派な家を造ることができなくなってしまう。


しかし、みんなの不満は止まりそうにありません。


とうとう彼は自分のための木材も使って、木の家を作ることにしました。


彼は、暖まることもできずに寒い中で木の家を造ります。もう暖かいスープの


差し入れもありません。木の家が出来上がっても、感謝されることすら少なくなり


ました。


それでも、彼は一生懸命家を造りました。





そんなある日、とうとう彼は失敗してしまいました。手が凍えてしまったため、


うまく家が造れなかったのです。


王様や家来たちはこう言いました。


「大切な木材を使ってミスをするとは何事だ。


 このミスを取り返すために、休むことなく働き続けるんだ!!」


それを聞いた国民の怒りはおさまりません。ミスをした彼が防寒具を着て、


暖かそうにしているのでさえ気に食わないのです。


とうとう彼のコートや手袋さえも取り上げてしまいました。


それでも彼は一人で一生懸命家を作ります。大切な木材と石を上手く


組み合わせて何とか暖かい家を作ります。もう休んでいる暇などありません。


吹雪の中、体中を震わせながら家を作り続けます。




しかし、もう限界でした。


暖まるための木材もなく、スープの差し入れもなく、感謝の笑顔も無く


コートや手袋もなく、休むこともできない彼は、とうとう仕事中に


倒れてしまいました。





けれど、誰も助けてくれません。


王様や家来を始め、国民の全てが彼を憎んでいたのです。





そして、そのまま彼は雪に埋もれてしまい、二度と家を作ることは


できませんでした。