夫ハビーが、誰もいない実家に行って、義父と義母を連れて帰ってきた。
初めてだ。我が家にお招きするのは。
小さくて狭いマンションですが、お気に召されましたか?
夕日がきれいに見えるのが自慢ですが、そのかわり、西日バリバリです。
ずっとここにいてくださいね。
義母は、マンションを決める前に電話をかけてきた。
西向きは良くない、東向きのほうがいいんじゃないかと。
住むと決めたマンションは、東側が道路にせりだすように建っており、車の音がやかましかった。
一般に不動産は東向きがいいというが、ここ、阪神間では、東は大阪市街地、西は六甲山、眺めは断然、西向きのほうがいい。夕陽が六甲山にきれいに沈むからと、義母の反対を押し切り、西向きの部屋に決めた。
お義母さん、いかがですか?西向きのお部屋。
義父は昨年七月に、義母は今年二月に浄土の世界へ旅立った。
夫ハビーは、白い箱を二つ、大切に持って帰ってきた。
三年前になる、私がエコノミークラス症候群と診断され、地元の病院に入院していた時のこと。
義父と義母は、よぼよぼフラフラしながらも、私の病室までお見舞いに来てくださった。
義父は、私に向かって
病気に負けたらあかん。病気に向かって行かなきゃあかんのや。
と、何度も何度も言った。
あの頃、すぐ治ると思っていた病気だが、未だに治療が続いている。この先もずっと。ずっと。
白い箱の中から、義父が、「負けたらあかん!」と励ましてくれているように思えた。