山本文緒は好きな女流作家の1人で、ここ暫く読んでいないが、昔は新刊が出る度に迷わず購入し読みふけっていた。
第124回直木賞、第20回吉川英治文学新人賞などを受賞した素晴らしい作家である。

『プラナリア』は、現代の"無職"をめぐる五つの短編で成り立っている。

表題作『プラナリア』は、乳ガンの手術以来何をするのもかったるくやる気のでない25歳の春香が主人公。
この慢性的なだるさ、息をしているだけのような毎日に出口はあるのか?
もう死ぬことも生きることも面倒でならない春香の日常が綴られる。
周りからの目、親の目、そして自分は・・・
乳ガンという難しい題材を扱いながら、山本文緒らしい辛辣で難しい心の核を鋭くえぐっていくような文章で描く秀作。

その他、働かないという選択をしている女たちに今を映す小説集。
常に明るく、ポジティブに、問題からも逃げず立ち向かうだけが人生ではない。
人間、時には深く深く自分の傷の中に潜んでいたい。悲劇のヒロインに浸りたい時もあるのだ。
周囲と自分の間に「ずれ」を感じたり、生きることに望みを感じなくなる自暴自棄気味なとき読んでみると、その思いは間違いではなく、時には立ち止まって辛
いと感傷にふけってもいいのだと思えるだろう。

<文芸春秋 2000年>

著者: 山本 文緒
タイトル: プラナリア