今日は、少し『ロック』なハナシから離れよう。



昔…つってもそんなに昔々のお話でもなくて、前バンド『ドグマ散ル』を立ち上げる1年前の出来事だ。



僕は、とある創作料理の店で、チーフとして料理人をしていたんです。



心斎橋の、元“マハラジャWEST”にあるその店は74席の、決してオオバコとは言えないがメニュー数がとにかく多いお店でした。



全然流行らない店で、もう畳むか否か的な状況の中で、最終再生のメンバーとして僕はセコンドで引き抜かれたものの、アタマを張ってたヤツが飛んで。


経営者の社長が、いわゆる日本一おっきい美容業界の三代目のボンボンで、しかも櫻くんと同い歳の25の若造でした。



『店は畳まない。調理場はキミが守れ。』



金持ちの鶴の一声で、最後の聖戦が始まった訳です。



スタッフもいない。これから人間も調達して、トレーニングみたいな、地獄の営業が続きまして。



50品のグランドメニュー、12品の月替わりメニュー、日替わりデザート、パーティーメニュー、全部一人で仕込みます。



夕方5時30分からの営業の為に、朝9時過ぎから一人で調理場に立ち、コック服を脱げるのは夜中の2時過ぎ。



ウチに帰ってからも伝票整理、レシピの整理、原価計算、仕入の見積もりに目を通す…



そんな完全にパンクした状態で、ある日。



『接客の天才を見つけた。よろしく面倒を見てやってくれ。』



と、社長が一人の少女を連れてきたのだ。





HUNTER×HUNTERのアカズの少女をご存知だろうか?



もし知っているなら、想像して欲しい。



顔立ちは申し訳ないが、美人とは言い難い。



スタイルもいい訳ではない。



身のこなしも洗練されているとは言い難い。



なにより、アカズの少女のようなしゃべりである。



全員が、『え、社長?』みたいな状態だった。



ただ、顔合わせ程度にスタッフ全員を交えて挨拶がてらに話すと、不思議と誰も彼女の事を敬遠するモノが現れなかった。



もともと働いていた接客スタッフなど、プライドもあるはずだ。



社長が鳴り物入りで連れて来たコだ、アタリマエのように衝突するだろ…と思っていた。



なのに、ほんの、30分ぐらいの間に、オトコノコもオンナノコも彼女を好きになったのだ。



決して媚びない。と言って、我がままも言わない。



…あっと言う間に、お客さんの人気の的になった。



みんな、気分よく帰って行った。





僕は調理場から、つまりちょっと遠目で観察をしていた。






恐ろしい程…幼稚園児ぐらいの目線で、全ての相手と向かい合う。



それは作られたキャラではなく、“素”なのだ。



普通の人間が1ヶ月掛かって詰める距離を、数分で詰めてくる。



一瞬でお客と友達になってしまう。



決して馴れ馴れしくもない。



オトコのお客に、微塵も女を感じさせないので、厳密には、妹になってしまう。



“あのコ好き。”


ではなく、


“アイツなんかいい。”



と思わせる。



だから彼女が奨める料理は必ず頼んでしまう。



『10個売ってこい』



と言われると、サラッと売ってくる。



まかないを作ってやると、カウンターで足をブラブラさせながら夢中で食べる。



当時、銀色のアタマをしていた僕を見て、



オオカミの作るゴハンはおいしいのです~イヒヒ。と言いやがる。



コドモのような切り口で、カレシとのセックスのハナシもしやがる。



『それは言うたったらアカンやろ』



と突っ込むと、屈託のない顔でイヒヒと笑う。





なるほど、『天才』っているもんなんだなと思った。



いや、仕事人としての天才ではなく、人間として天才なんだなと思った。



“凡人”とする“天才”なんだ。



学生だったので、卒業したらどうすんだ?と聞くと、



『ダーリンのお嫁さんになって、昼ドラ毎日見るねん、イヒヒ』



と笑った。



たぶんウソではないのだろう。



数ヵ月後、カレシの待つ田舎に帰った。




あれからもう、何年も経つ。



天才は今、何をしているんだろうか?



きっと、やっぱり天才なんだろうな。



ここんとこ、カンズメになって、いろんなライブのDVDを見ていて、ふと思い出した。



きっとヤツもそうだと思うのだが、アタマ一つ抜けるヤツつ~のは僕らのような凡人の何倍もいろんな事を考え、悩んで、だがしかし、涼しい顔をしているから、天才なんだろうな。



…みたいな事を、さっきナナスケと散歩の帰りに買ってきた“カール”をカジりながらふと思った。