Riotさんも批評していた芦田愛菜さん主演の『星の子』。

宇宙エネルギーの水を娘の病気のために購入してから、新新宗教にハマっていく家族の描き方がリアルだと評判の映画で観てきました。

父(永瀬正敏)と母(原田知世)から惜しみない愛情を注がれて育ってきた、中学3年生のちひろ(芦田愛菜)。両親は病弱だった幼少期の彼女の体を海路(高良健吾)と昇子(黒木華)が幹部を務める怪しげな宗教が治してくれたと信じて、深く信仰するようになっていた。ある日、ちひろは新任の教師・南(岡田将生)に心を奪われてしまう。思いを募らせる中、夜の公園で奇妙な儀式をする両親を南に目撃された上に、その心をさらに揺さぶる事件が起きる。 あらすじ 

 

 

私が本作で気になった点は2点。

 

まず、この家族の病気に効くとされる水を購入した時期からラストのシーンまでの時代設定。携帯電話もポケベルも劇中出てこないですし、ニュースや時代を象徴する建物や風景も敢えて描いていない。これは、明確な意図があっての演出だと思います。新新宗教を日本でテーマとするならば、95年の地下鉄サリン事件の前の時期なのか、その後なのかは重要な意味を持つ筈です。その捉え方により”宗教”と”家族”の意味が変わってくる訳です。

 

もう一点は、主役のちひろさんの姉であるまーちゃんの扱い。ちひろさんとの年の差は劇中明確にされていないが7歳以上は離れているように思えました。そのまーちゃんは家出をします。まーちゃんはおそらく高校生か卒業をしている年頃で、家出をしています。その理由は明確に描かれていませんが恐らくは、宗教にドハマりしている両親への反発です。

 

まーちゃんと両親は音信不通ですが、失踪届をしていないぽい。少なくとも、重大な家族の出来事して描かれていません。ちひろさんの将来取りうるモデルケース(つまり両親との不和)としての存在程度の扱いです。

 

 

重箱の隅な所を取り上げていますが、私が本作で感じたことは新新宗教批判でもなければ、家族の崩壊を描くものでもなく、つまり寓話であるということです。消費社会や日常と離れた所で小さく目立たない家族とその少女の物語以上のものではないな、ということです。

 

しかしながら、映画の終盤では教団施設での研修と合宿の風景がかなり入念に描かれてます。そこでは教団内部の人間関係やほのかに見えるヒエラルキーという現実でした。また、教団施設での会話にいささか不穏や”リンチ”といった暴力を仄めかす言葉も噂話として囁かれます。

 

 

寓話の主人公は怖い目にあったり、殺されることも多々あります。そういった状況に相当するのが叔父さん、または数学の教師。しかしながら、ちひろさんは汚れを知らないイノセントな役回りを与えられています。


両親の愛情を得てすくすくと育った優しい娘として、また教団幹部からは教義に疑問をもたない星の子として、そして教団内の人間関係では昔も今も変わらないちひろさんとして、求められる役割(ロール)を振る舞ってきました。これからもその役割を捨てることはなさそうです。疑問が湧いても魔法使いがまたちひろさんを目覚めさせないことでしょう。

 

黒木華さん演じる教団幹部の女性が劇中に繰り返すセリフが「あなたの意思ではないのよ」。これが、ちひろさんにイノセントな役回りをさせる原動力となっているように思えました。寓話でいえば、教団幹部はちひろさんを目覚めさせない魔法使いな感じがしました。

 

 

最後、家族3人で教団施設の外に出て夜空を見上げるシーン。

宇宙エネルギーの水も、教団のマークもない山の中腹でひたすら流れ星を探す家族。

教団施設での入浴時間を気にするちひろさんを留めて、家族の存在を確認しあうようなしぐさと会話の暖かさ。それでいて家族3人の後ろ姿のシーンは星空に溶けてゆくような不確かさもあり、絶妙だと思いました。

 

結局、教団に居続けるのかどうかはこの家族3人次第という感じがしたラストでした。

まだ、魔法使いの用意した世界で、イノセントな娘の両親で居たいのか、という。

 

 

本作をみて新新宗教をなにか論じることはほぼ不可能で、観る側の持つ事前情報で大きく見方が変わるタイプの作品で、それを期待した蛋白な演出をしているのでしょう。寓話というのはそういうものですから。

 

新新宗教の2世という設定もあまり活かされていない気がしました。身近なところで数名の2世を知っていますが総じて元気ですし、信仰について彼らはあまり悩んでいない印象があります。教団の規模やどれぐらい社会に浸透しているのかにも差がありそうですが。

 

芦田愛菜さんは天才子役かどうかは分かりませんが、私は本作と相性はあまり良く無いと思いました。両親役の永瀬正敏さんと原田知世はなかなか嫌味のない味のある演技でした。また黒木華さんが演じる教団幹部の冷たい笑顔なんかは、ゾッとするほどでした。

 

退屈はしないものの、観る人を選ぶタイプな映画ですね。

 

 

日本の宗教を正面から扱った映画リンク

「A」森達也監督

「A2」森達也監督