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長閑な春の日差しの中、権兵衛さんちのお庭では権太郎が鶏を追いかけ駆け回っている。

いつもの穏やかな風景を縁側から祖母や祖父はにこやかにそれを眺めている。

その頃、権兵衛さんや奥さんは畑仕事へ出かけている。

権兵衛さんちには雌鶏を産ませる為の番いの鶏小屋と卵を産ませる為の雌鶏小屋がある。

雄鶏たちは庭に放し飼いである。

その雄鶏たちを権太郎が追いかけ回して遊んでいるのだ。

夕方になって権兵衛さん夫婦が畑仕事から帰って来る。

その頃には祖母が夕餉の支度を終えている。

いつもの穏やかな日常だ。

「おっとう、おっかあ、けえったぞ。」

「おう、ご苦労なこったな。もうすぐ婆さんが飯の支度を終えるじゃろ。」

「ほんじゃま、ひとっ風呂浴びてくっかな。」

「そうせい、そうせい。」

「権太郎、一緒に入っべか?」

「うん、とっちゃん。入る。かっちゃんは?」

「やだよ、この子は・・・かっちゃんは恥ずかしいべさ。」

「なんでだよ、かっちゃんも一緒に入るべさ」

「権兵衛、お前ももう大人じゃ。かっちゃんはお前に裸を見られるのが恥ずかしいべさ。」

「え~、変なの~。」

などなど・・・いつのも様に家族仲良く楽しい我が家だ。

そうしているうちに祖母が支度した夕餉の用意が済んで、一家団欒の食事時だ。

「お~!今日の親子丼は美味いな~。さすが婆さんじゃな。」

「いんや~、その鶏が美味いのは権太郎のおかげさね。」

「そうなのか?なんでじゃ?」

「なんだじっちゃん。そんな事も解んないのかい?」

「ん?わしは学が無うてなぁ~。」

「権太郎がいつも庭で追いかけっこしとるじゃろ?」

「ああ・・・。」

「あれは権太郎が追いかけ回して鶏の肉を引き締めてくれとるんじゃよ。」

「ほう!そう云う事だったのか?わしはてっきり権太郎は鶏が大好きで遊んでいるとばかり思うとったわい。」

爺さんがそう言いながら権太郎を見ると権太郎は涙を流しながら親子丼を食っている。

「婆さん、権太郎はやっぱり鶏が好きだったんじゃ。可哀想な事をしたかの~。」

権兵衛が哀れに思って横から口を出す。

「何言っとんじゃおっ父。僕がどうして鶏が好きなんじゃ。これは皆の飯じゃんか。食う方が餌を好きになるわけなかろうが。」

そう言いながらポロポロと涙を流しながら、バクバクと親子丼を頬張る権太郎である。

「うんめぇ~。コッコ、お前凄く美味いぞ~。」

春真っ盛りの長閑なひと時であった。


オシマイ