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泰葉が自宅へ戻ったのは夜中に近かった。

「ふぅ~・・疲れたぁ。お風呂入って早く寝ようっと。」

【何を言ってるんだ?ハァ~これだから女はプロになれないんだよ。】

「ちょっと、それは聞き捨てならないわよ。性差別発言だわ。」

【何をまた言ってるんだ。だいたいお前1日何時間将棋の勉強している?】

「はあ?それと差別発言が何か関係あるの?」

【あのなぁ~。良いか、よく聞け。男の奨励会でプロを目指す奴らは1日20時間将棋の事だけ考えて生きているんだ。】

「そ、それは・・・女の棋士だって同じよ。」

【嘘つけ。お前、1日6時間くらいしか勉強してないじゃないか。】

「ちょ、ちょっと、どうして・・・」

【やっぱり馬鹿だろお前。言ったじゃないか、お前の記憶が流れ込んで来るって。】

「あ・・・でも・・・ちゃんと勉強は・・・・。」

【嘘つけって。良いか、よく聞け。今日勝ってお前は初の女性棋士になったんだ。】

「うん・・・それは解ってる。」

【と、云う事は、お前のこれからの成績次第で今後女の子達が棋士を目指すか、やめてしまうか、それが決まるんだ。】

「えっ?いや、それはちょっと大袈裟じゃない?」

【いや、大袈裟じゃない。お前がちゃんと女性棋士でもやっていけると証明出来れば、今女流棋士を目指している女の子達が本物の棋士を目指し始める。

逆にお前が全く男性棋士に歯が立たなければ、今後の女性は奨励会さえ入って来なくなるはずだ。】

「・・・そんな重圧かけないでよ。せっかく昇段して喜んでいるんだから・・・今日くらいは・・・。」

【甘い!おれは昇段したその日も帰ってから夜明けまで研究していたぞ。】

「えっ?覚えているの?」

【ああ・・・だから言っているだろ。おれはちゃんと生きている自覚があるんだ。記憶もある・・・ただ、自分が誰なのか・・・それだけが分からない・・・だけだ。】

「そうなんだ・・・やっぱり幽霊じゃないのよねぇ~。」

【違うって何度言えば解るんだよ。やっぱり馬鹿だろお前は。】

「あのねぇ~!ず~っと気になってたんだけど。馬鹿だのお前だの・・・差別的な呼ばれ方されるの頭に来るんですけど。」

【ん?じゃあどう呼べば良いんだ?馬鹿とかお前以外に呼び方があるのか?ああ、そうか!性交したいわ君か?】

「いい加減にして!そんな呼び方したら許さないから!」

【許さない・・・ってどうすんの?自分で頭でもかち割るのか?アハハハ・・・・】

「ムカつくぅ~~~!もう!じゃあ、反対にあなたはどう呼べば良いのよ?天災君ってどうかしら?」

【くっ!わざとらしく災い扱いしやがって・・・。こっちだって好きでここにいるわけじゃないんだ。同情心とか持ち合わせて無いのか?】

「ふんだ。好き放題言っているくせに。勝手に私の頭に居付いているんだから、私が呼び方決めても良いわよね。それくらいの権利はあるはずだわ。」

【・・・勝手にしろ。俺も好きに呼ぶ事にする。したいわ♡ってどうだ?アハハハ。】

「ムカつくぅ~~~!ムカつくぅ~~~!良いわ、あなた、今日から災(さい)って呼ぶから。けって~い。」

【くっ!・・・好きに呼べ・・・しかし、俺がここに居る以上、将棋だけは真面目に勉強させるからな。覚悟しろよ。サボったら頭の中で喚き散らしてやるからな。】

「・・・・解ったわよ。ちゃんと勉強する。災に言われたからじゃ無いからね。自分の為だから。」

【どっちでも構わん。とりあえず・・・まずはテレビの前にあるゲーム機と本棚のマンガ本、全部捨てろ。】

「えっ?・・・ゲーム・・・もダメなの?マンガ本は宝物なのに・・・。」

【ダメだ。余計な物は全部捨てろ。人生賭けてるんだろ?凡人は凡人なりに必死になれよ。】

「・・・解ったわよ・・・・捨てれば良いんでしょ、捨てれば・・・。ムカつくぅ~~~!」

【だから・・・いちいち、はぶてるなって!】

「はぶてとらんもん!」


続く