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静かに駒組みが進む。
藪元七冠は定石通りの振り飛車対策を行って自陣の守りを固めて行く。
それに対して振り飛車、特に泰葉が得意にしているゴキゲン中飛車は急戦を目指す。
相手の守りが固まらないうちに戦いを仕掛けて、相手の間違いを引き出すのだ。
将棋界では元来居飛車が優勢である。
それはひとえに振り飛車が「一手」飛車を振る為に手損をしている状態で始まるからである。
将棋とは野球やサッカー等スポーツと違い、公平なルールではない。
全く間違った手を指さなければ、必ず先手(特に居飛車)の勝率が上回る。
例えて言えば、野球で9回表に1点取っても裏の攻撃があるが、将棋には裏の攻撃はない。
9回表に1点取ったら勝ちなのだ。
先手が相手を詰めたら終わり、後手がその次に先手を詰める事が出来ても引き分け、延長戦は無い。
なので将棋とは相手にどれだけ間違った手を指させるかが鍵となる。
もちろん上位者(A級・B1級棋士=A級10名B1級13名・総棋士約500名の頂点)ほど、その間違いを犯さない。
だからこその強さなのだ。
しかしこの藪元七冠は少々その常識から外れていた。
結構間違った手を指すのだ。
しかし、それなのにどうやって七冠制覇迄上り詰めたのか?
それはひとえに藪マジックと言われる大逆転の奇抜な一手をあみ出す頭脳があったからだ。
そしてこの泰葉との対戦でも、藪元七冠は中盤に差し掛かって間違いを犯した。
手が進むほどに泰葉の優勢が明らかになり始める。
【あ~あ・・・藪さんの悪い癖が出たな。】
【な、何よ。口を出さないって言ったじゃない。】
【ああ・・・口は出さないよ。しかし・・・この藪さんの悪い癖は治らんのかな?】
【わ、悪い癖、悪い癖って・・・何よ!私が優勢なのが藪さんのせいだと言っているの?】
【はぁ?・・・お前はこの状況、自分が強いからだとでも思っているのか?】
【えっ?・・・いや・・そこまでは・・・思っていないけど・・・でも、私の作戦勝ちとか?】
【はぁ・・・・馬鹿は死ななきゃ治らないって言うのは本当だな。】
【な、何よぉ~!勝てそうなのに・・・・勝てそうなのに・・・・。】
【ふん!俺だって・・・いや、俺は圧勝したぞ。藪さんの悪い癖のおかげでな。】
「あのね・・・あ!」
ふと顔を上げた藪元七冠が首をかしげた。
「どうされました?」
「あ・・いえ・・・ちょっと考え事をしていて・・・つい、言葉が。失礼しました。」
「そうですか。お気になさらず。」
【あ~あ・・・また怒らせちゃった。】
【えっ?お、怒らせちゃったの?】
【当然じゃないか。下位者でしかも女に負けている状況で「あのね!」なんて言われたんだぞ。
しかもその言い訳が「考え事をしていました」・・・な~んて、この将棋はもう私の勝ちよって言った様な物じゃないか。】
【あ・・・】
【驕れる者は久しからず・・・てな。くわばら、くわばら。藪マジックの餌食にならないように気をつけるんだな。】
【あ・・・そんな・・・不安にさせるような事言わないでよ・・・・ぉ・・・・。】
【ま、真剣にそして慎重に指せば勝てるさ。決して慌てたり勝ち急いだりしない事だな。】
【あ・・・うん・・・。慌てない・・・慎重に・・・・。】
そうして盤面は終盤へと進んでいく。
控室はマスコミや関係者で騒然としていた。
なんたってあの藪七冠に初の女性棋士が勝ってしまいそうなのだ。
これは大事件である。
特に古河副会長としては身も蓋もない事態だ。
初の女性棋士である泰葉に、恥をかかせてやろうと苦労して藪元七冠を対戦相手に据えたのに、それが仇となってしまっては会長の思うツボでは無いか・・・・。
古河副会長は中継の画面を歯ぎしりしながら見ていた。
次に泰葉が指す手はいくつかの候補があった。
しかし、どれを指そうとも泰葉の勝ちは揺るぎそうにない。
もはや早いか遅いかの違いだけだった。
そして泰葉が指した手は最善では無かったが、間違いでも無かった・・・・これで終わった、とその場の誰もが思った。
【あ・・・違う・・・これより、いい手があった・・・・】
思わず無意識に泰葉は自分が指した駒へ手を掛ける。
【おっ、おい!な、何をする気だ!!ば、馬鹿!!!!】
無意識の元、泰葉は駒を手にする。
【ん?な~に?】
「えっ?・・・・」
藪元七冠が声を上げる。
「あっ!!!」
記録係りが更に大きな声を上げる。
「・・・えっ?・・・・あっ!!!」
泰葉は自分の手にある駒を見て更に大きな驚きの声を上げた。
【・・・死ねよ・・・この馬鹿ちん・・・・はぁ~・・・】
続く
静かに駒組みが進む。
藪元七冠は定石通りの振り飛車対策を行って自陣の守りを固めて行く。
それに対して振り飛車、特に泰葉が得意にしているゴキゲン中飛車は急戦を目指す。
相手の守りが固まらないうちに戦いを仕掛けて、相手の間違いを引き出すのだ。
将棋界では元来居飛車が優勢である。
それはひとえに振り飛車が「一手」飛車を振る為に手損をしている状態で始まるからである。
将棋とは野球やサッカー等スポーツと違い、公平なルールではない。
全く間違った手を指さなければ、必ず先手(特に居飛車)の勝率が上回る。
例えて言えば、野球で9回表に1点取っても裏の攻撃があるが、将棋には裏の攻撃はない。
9回表に1点取ったら勝ちなのだ。
先手が相手を詰めたら終わり、後手がその次に先手を詰める事が出来ても引き分け、延長戦は無い。
なので将棋とは相手にどれだけ間違った手を指させるかが鍵となる。
もちろん上位者(A級・B1級棋士=A級10名B1級13名・総棋士約500名の頂点)ほど、その間違いを犯さない。
だからこその強さなのだ。
しかしこの藪元七冠は少々その常識から外れていた。
結構間違った手を指すのだ。
しかし、それなのにどうやって七冠制覇迄上り詰めたのか?
それはひとえに藪マジックと言われる大逆転の奇抜な一手をあみ出す頭脳があったからだ。
そしてこの泰葉との対戦でも、藪元七冠は中盤に差し掛かって間違いを犯した。
手が進むほどに泰葉の優勢が明らかになり始める。
【あ~あ・・・藪さんの悪い癖が出たな。】
【な、何よ。口を出さないって言ったじゃない。】
【ああ・・・口は出さないよ。しかし・・・この藪さんの悪い癖は治らんのかな?】
【わ、悪い癖、悪い癖って・・・何よ!私が優勢なのが藪さんのせいだと言っているの?】
【はぁ?・・・お前はこの状況、自分が強いからだとでも思っているのか?】
【えっ?・・・いや・・そこまでは・・・思っていないけど・・・でも、私の作戦勝ちとか?】
【はぁ・・・・馬鹿は死ななきゃ治らないって言うのは本当だな。】
【な、何よぉ~!勝てそうなのに・・・・勝てそうなのに・・・・。】
【ふん!俺だって・・・いや、俺は圧勝したぞ。藪さんの悪い癖のおかげでな。】
「あのね・・・あ!」
ふと顔を上げた藪元七冠が首をかしげた。
「どうされました?」
「あ・・いえ・・・ちょっと考え事をしていて・・・つい、言葉が。失礼しました。」
「そうですか。お気になさらず。」
【あ~あ・・・また怒らせちゃった。】
【えっ?お、怒らせちゃったの?】
【当然じゃないか。下位者でしかも女に負けている状況で「あのね!」なんて言われたんだぞ。
しかもその言い訳が「考え事をしていました」・・・な~んて、この将棋はもう私の勝ちよって言った様な物じゃないか。】
【あ・・・】
【驕れる者は久しからず・・・てな。くわばら、くわばら。藪マジックの餌食にならないように気をつけるんだな。】
【あ・・・そんな・・・不安にさせるような事言わないでよ・・・・ぉ・・・・。】
【ま、真剣にそして慎重に指せば勝てるさ。決して慌てたり勝ち急いだりしない事だな。】
【あ・・・うん・・・。慌てない・・・慎重に・・・・。】
そうして盤面は終盤へと進んでいく。
控室はマスコミや関係者で騒然としていた。
なんたってあの藪七冠に初の女性棋士が勝ってしまいそうなのだ。
これは大事件である。
特に古河副会長としては身も蓋もない事態だ。
初の女性棋士である泰葉に、恥をかかせてやろうと苦労して藪元七冠を対戦相手に据えたのに、それが仇となってしまっては会長の思うツボでは無いか・・・・。
古河副会長は中継の画面を歯ぎしりしながら見ていた。
次に泰葉が指す手はいくつかの候補があった。
しかし、どれを指そうとも泰葉の勝ちは揺るぎそうにない。
もはや早いか遅いかの違いだけだった。
そして泰葉が指した手は最善では無かったが、間違いでも無かった・・・・これで終わった、とその場の誰もが思った。
【あ・・・違う・・・これより、いい手があった・・・・】
思わず無意識に泰葉は自分が指した駒へ手を掛ける。
【おっ、おい!な、何をする気だ!!ば、馬鹿!!!!】
無意識の元、泰葉は駒を手にする。
【ん?な~に?】
「えっ?・・・・」
藪元七冠が声を上げる。
「あっ!!!」
記録係りが更に大きな声を上げる。
「・・・えっ?・・・・あっ!!!」
泰葉は自分の手にある駒を見て更に大きな驚きの声を上げた。
【・・・死ねよ・・・この馬鹿ちん・・・・はぁ~・・・】
続く