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将棋史上、「時間切れ」・「二歩」の反則負けは記録に少しばかり存在する。

しかし泰葉がやった反則「待った」(一度指した手をやり直す=指した駒を取り戻す)は前代未聞、空前絶後の反則負けだった。

違った意味で「歴史にその名を残す」結果となった。

【・・・ど、どうしよう・・・】

【どうしよもこうしようも無いだろ。やったもんは取り消せないさ。凄いなお前、歴史に名が残るぞ。】

【そ、そんな・・・うぅ・・・・グスン・・・】

【こら!絶対泣くなよ!棋士らしく毅然としてろ。ここで泣いたら副会長の思うツボだ。

ただでさえ反則負けなんて小躍りして喜んでいる所に、お前が泣いたりしたら「これだから女は」って言い出すに決まっているんだから。ただし!藪さんにはきちんと謝れよ。】

【どうやって・・・謝ればいいのよ・・・・。グスン・・・・】

【こ、こら!泣くなって言っているだろ。・・・そうだな・・・熱中しすぎて勉強しているときと同じ様にもっと良い手を見つけたので無意識のうちに仕出かしてしまいました・・・とか、言い訳しとけ。

あ、必ず頭を下げるんだぞ。ただでさえ負け将棋を反則で勝ちにされて、しかもぽっと出の女にと来たもんじゃ藪さん怒り心頭だろうから・・・。】

呆然としたまま頭の中は真っ白な泰葉は頭の中の悪魔の囁き通り、頭を下げて藪元七冠へ詫びを入れた。

「良いんですよ・・・気にしないで。緊張してしまったんでしょう・・・。大丈夫ですか?」

藪元七冠は心配そうに泰葉に声を掛ける。

「はい・・・。申し訳けありません・・・。あの・・・感想戦(勝負の後、振り返りの勉強みたいなもの)は・・・次回に教えて頂く事にしていただいてよろしいでしょうか?」

泰葉はこれ以上この場に居る事が恥ずかしくて耐えきれなかった。

「そうですね・・・さすがにお辛いでしょう。そうしましょう。次回、またお会いできたその機会で。」

【藪先生・・・優しい・・・グスン・・・】

【ば~か!藪さんだってお前の顔をこれ以上見ていたくないんだろ。これ以上恥をかかされちゃ堪らんもんな。】

【うぅ・・・・そんな・・・グスン・・・】

【おい!何度も言わせるな。絶対泣くなよ。棋士として毅然とするんだ。】

【わ、解ったわよ・・・泣かないわよ・・・グスン・・・。】

【泣いてるじゃねぇ~か!しっかりしろ。あ、それから会長にはきちんと詫びを入れるんだぞ。副会長は無視していいから。いや、逆に無視しろ。関わるな。】

【あ・・・うん・・・。】

対局室から藪元七冠と記録係が退室してから泰葉は控室へと向かった。

もちろんマスコミは虎視眈々と泰葉のコメントを狙っている。

泰葉は言われた通りに同じ言葉を繰り返した。

マスコミの一部は泰葉の「涙」を期待していた様だが、そこへ毅然とした態度で現れた泰葉に少し拍子抜けだったようだ。

その後、控室の奥にある部屋で待ち構える会長以下役員の元へ向かう。

「やあ・・・お疲れだったね・・・・。」

気遣う会長の言葉に思わず泣きそうになる泰葉だったが、必死に堪えて会長への詫びを告げた。

横から悪魔の予想通り副会長がチャチャを入れてきたが、言われた通りにガン無視を決め込んで早々とその場を後にした。

「おい、こら!私の言う事を無視するんじゃない」

控室を後にする泰葉の背中に古河副会長の罵声が浴びせられる。

それにも反応せずさっさとその場を立ち去った。

【ほ~、やれば出来るじゃないか!少し見直したぞ。】

【・・・今日は褒められても・・・喜べないわ・・・。】

【あ・・・アイツ!・・・嫌な奴がいやがるな。】

【えっ?・・・誰のこと?】

【ほら・・・玄関先に立っている奴だよ。アイツ、古河副会長の下僕みたいな奴でいけ好かねぇんだ。】

【そんなに・・・嫌な人なの?】

【あれ?お前だって知っているんじゃないか?ほら?結局プロになれなかった奴だよ。】

【あ・・そう言えば・・・もう大分前に・・・確か名前は・・・】

【混毛犬 太郎だよ・・・。アイツの上役がまた副会長の金魚のフンの村雨丸理事なんだ。】

【・・・そうなんだ・・・偉い人とか・・・全然わかんないや・・・・。】

【ま・・・そうだろうけど・・・これからはそうは言っていられないぞ。お前は副会長にとっては邪魔な存在なんだ。色々嫌がらせされるぞ~。】

【脅かさないでよ~!今日は・・・もう十分よ・・・・。】

【アハハハ・・・はぶてる気力も無いってか?】

【・・・うぅ・・・・そんなに虐めたら・・・ここで・・・泣くぞぉ~!】



続く