変哲のないストレートチップ | shoesaddictのブログ

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米国古靴に関するブログです

ここのところ、米国古靴漁りもめぼしい釣果がないので、本日は最近好んで履いている愛靴をご紹介します。



変哲のない内羽根式ストレートチップです。
パッと見これといった特徴もなく、色気もないペアです。



角度を変えて見てもやっぱり普通のストレートチップです。
ビジネスマナーの教科書に出てくる、「ストレートチップが最もフォーマルです」といった文言の挿絵がこんな感じかもしれません。
色々な靴に足を通すなかで、こちらのペアは「つまらない靴」との印象から長らくクローゼットにしまいこんでいました。
しかし、久方ぶりに履くようになって、このペアの本当の良さがわかってきたような気がして、今回この記事を書いている次第です。



あまり目にしないモデルかと思いますが、こちらはチャーチのマスタークラスです。
同社がプラダに買収されてディスコンになってしまいましたが、カスタムグレードの上位グレードのモデルです。
このグレードのモデルですと、プレーントゥのIBSENがメジャーでしょうか。
チャーチが資本を受け入れたのが2000年前後ですので、15年以上前に製造されていたものです。



肝心のモデル名ですが、ご覧の通り達筆過ぎて解読できません(笑)
数人のネイティブに見てもらったのですが、「これはヘブライ語だからイスラエル人に聞け」「いやギリシア語だ」との回答を得ました。
同グレードの他モデルは、「イプセン」や「ワーズワース」といった文筆家の名が冠されていますので、個人的には「Chaucer(チョーサー)」ではないかと思っています。
英国の詩人で「カンタベリー物語」の作者ですね。
高校時代に世界史で習った記憶がかすかにあります。



このペアの特徴はと言いますと、スタイル自体がきわめてオーソドックであるため、一番目に挙げるとすると、厚みと弾力のある艶やかな甲革でしょうか。
軽く磨くだけで良い艶が出るので、ケアをしていて楽しい類の革質です。
調べてみると、マスタークラスには「Ambassador Calf」もしくは「Liege Calf」が用いられていたようですが、どのモデルにどちらの皮革が採用されていたかまでは辿り着けませんでした。
また、ライニングに関してもカスタムグレードで一般的なキャンバスではなく、しっかりとレザーが用いられています。

調べたことがある方はお分かりかと思いますが、ネット上ではマスタークラスに関する情報はなかなか出てきません。
生産数が少なかったこともあるでしょうが、インターネットが現在のように普及する前にディスコンになってしまったことが大きな要因だと思われます。

今回、この「変哲のない」ペアをご紹介しようと思ったのも、大げさな言い方かもしれませんが、後々のために情報を残しておく意義があるのではないかと感じていたからです。
古靴に関してブログをお書きになっている方は、多かれ少なかれそう言ったことを考えていらっしゃると思います。



閑話休題。
ディテールに目を移しますと、踵の合わせに関してはチャーチらしい仕上げになっています。
(廉価版のシティコレクションはドッグテイルで処理されているものが多いですが)
合わせ目に別のパーツを被せる仕様や、ドッグテイルよりも丁寧な仕事が要求されるであろう作り込みです。

私見にはなるのですが、一般的なカスタムグレードのモデルよりも踵のホールド感が強いように感じます。
普段履いているチャーチは踵が大きく、時折抜ける感覚があるのですが、踵の収まりがよく掴まれている感じがします。
履き慣らすまでは、一日履くと若干痛みを生じるほどでした。
見た目には大きな違いはないのですが、上位グレードということもあり作り込みが違うのでしょうか。



さて、再三にわたり「変哲のない」「普通」「つまらない」などと申し上げてしまいましたが、ここからはこのペアが主張しているディテールをご紹介します。
チャーチには珍しく、左右のアイレット間の距離が履き口から閂に向かうにつれて広がっています。
適度に羽根が開いた状態で着用すると、(写真左足のように)左右のアイレットが平行に並びます。
履いてしまうと傍目には特徴がかき消されてしまうのですが、個人的にはこの絶妙なバランスは好みです。



もう一点の主張がこちら。
アイレット周りの履き口にかけてのステッチが特徴的です。
私がこのペアで唯一不満に思っているのがこの点です。
どうせなら、とことんその「変哲のなさ」を追求して欲しかったと思います。
個人的には、このペアの良さは、きわめてオーソドックスなスタイルで質実剛健に作られている点だと思っています。
そんな思いから、このちょっとしたアクセントに違和感を覚えてしまいますが、靴好き以外の方にとっては全くどうでも良いことなのでしょう(笑)


こちらのペア、現状ではわかりませんが、伏せ縫いではないにもかかわらず、半カラス仕上げが施されていました。
上位グレードでもヒドゥンチャネルを施さない点に関しては、機能や履き心地、堅牢さに関係のない部分は追求しないという点でチャーチらしいともいえます。
しかし一方で、ライニングを奇抜な赤紫にしたり、オープンチャネルに半カラスを施したりと、チャーチらしくない点も見受けられます。
高級感の出し方がいまいちずれてしまっている部分は、逆に質実剛健な製靴のみを長年続けてきたチャーチらしいと言っても良いのかもしれませんね。