ACT205妄想【5】 | 妄想最終処分場

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10/19発売の本誌ACT205の続き妄想です

ネタバレものなので、未読の方、コミックス派の方はバックプリーズ!!


本誌発売までに終わらせる自信皆無のレッツ見切り発車です!←懲りない・・・しかも多分長いヽ(;´Д`)ノ


今回の続き妄想に関しては別途お知らせがあります。読み進めの前にこちらを一読の上お願いいたします→ACT205妄想についてお知らせ
※お知らせを未読の状態でのご意見・質問(特にクレーム)に関しては厳しい反応を返すやもしれません。必ずご確認ください。


11/15一度アップした癖に、修正で引き下げとご迷惑をおかけしました!

それでは自己責任でご覧くださいませ↓











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ACT205妄想【5



「だから、この気持ちは…私の中だけで育てるの」


(表に出したらきっと今の関係は壊れてしまう…)


想い人がいる蓮が自分の告白を受け入れることはない。優しい先輩は、恋なんてしないと豪語していた後輩がよりによって自分に毒なる感情を持っていると知ったらどう思うだろうか?

蓮が一生誰かと幸せにならなければ、この気持ちを抱きながら後輩として一番近くにいたい。そう願う人でなしの自分にキョーコは小さく唇を噛んだ。


“どうしてそんなに悲しそうなの?”


(悲しそう?)


キョーコは砂浜から投げかけられた質問に首をかしげた。

今の自分の心は、恋を知った自分の醜さに後悔と自責ばかり。それでも育つ想いを止める術も知らず、浅ましく生きているのは演技のためという建前があるからだ。


「大丈夫。これは、絶対今後の私の役に立つモノなの」


キョーコは小さく首を横に振った。

悲しそうな表情に見えるのだろうか?


(悲しいんじゃないの…)


この痛みは受け入れなければいけない罰なのだ。痛みを抱え続けて、地獄に落ちても贖いきれるか分からないのに。


(だからコーンに頼っちゃいけないの…)


痛みに耐えかねれば、弱い自分はこの石に頼りたくなってしまう。でもコーンは蓮の魔法も内包していて、キョーコがそれにすがればまた蓮の存在を思い知らされる。


手放したくない、でも手放してしまいたい。


手の中のコーンを持ち主に返すことは結局自分のためなのだと気づいたキョーコは、じっと自分の真意を探る様な蓮の視線に耐えきれずに絡んだ視線を外し足元の砂浜に顔を向けた。そのことすら全て懺悔してしまいたくなるが、己の醜さを妖精界の王子にこれ以上晒して呆れられるのも怖かった。


(…もう、私って…)


“無くした物を取り戻したら、幸せになれるんじゃないの?”


恋心は醜悪な感情をたくさん伴うことをキョーコは実感していた。でも例え地獄に落ちてもという覚悟で、この心を『自分の為に』否定せず育ててみると決めたのはキョーコ自身だ。


「無くした物を取り戻したけど、私は地獄に行くの」


“どうして?恋を叶えたいと思わないの?”


重ねられた質問は至極当然のもののはずなのに、キョーコはまるでひた隠しにしたい自分の気持ちを抉りだされている気分だった。


叶わないと知っている。

そんな事を望んだら、もっともっと苦しい思いをするのも分かっている。

だから青い原石にかけられた蓮の魔法の効果は『誰にも見せない』のだ。

本来ならば、キョーコ自身にも…


「……叶わないもの」


キョーコはしばらく沈黙していたが、ぽそりと呟きが漏れていた。


“どうして?”


砂浜に書かれる続きを促す文字に、キョーコは逆らうことができなかった。

どこかで全てを懺悔したかった。この苦しい思いをすべて吐き出したら楽になれるんだろうか?幼い頃と同様に差し伸べられた優しい手にすがってしまう自分の弱さを嘆いたが、止まらなかった。


「その人、ね…。大切な人が、いるの」


声に出したら実感してしまった。


(敦賀さんには、大切な人がいる…)


胸にナイフを突き立てられたようだった。否、ホントはずっと前から刺さったままのソレを自らぐりっと掻き回すような感覚。

遠い将来、蓮が隣にいる誰かに優しく微笑むところなんて見たくない。


「本人から聞いたんだもの。あんな苦しそうな表情で、でも想うことを止められない…あんな顔、見たことなかった」


そもそもそれが遠い未来である保証すらないのだ。

B・Jを…カインを演じる蓮が引きずっていた不安定さがあの夜から何かしら変化し、この人はもう大丈夫とキョーコも肌で感じていた。それは、社長の言っていた自分自身との戦いを蓮が克服したことなのかもしれない。

自分自身を許せたのであれば、あの辛そうな蓮の表情は解消されるのだろうか?


大切な人を持つことを自分に許さないと言った蓮が好きな人がいることを認めたのだ。自分のように、必死にロックをかけても育つ想いを糧に蓮が嘉月を演り遂げたことをキョーコは知っている。

前進した蓮は、誰もが持つ幸せになる権利を自分にも認めることができるだろう。


その時には成長した役者として、最高の笑顔で祝福できるようになれるのだろうかとキョーコは奥歯を噛み締めた。

息が止まりそうなほど痛い未来予想図が頭の中を駆け巡る。無意識に慰めて欲しいと望んで、キョーコは優しく接してくれる妖精の顔をそろりと見上げていた。


「私がこの想いを持つことは…誰かと紡ぐはずのその人の幸せを一生願えない、そんな愚かな…罪深いもので…」


きっと自分はひどく醜い顔をしているのだろう、とキョーコは僅かに驚いた様子で自分に向けられる視線に少し後悔したが、そんなものは先に立たなかった。自分を見る表情が汚いものを見るモノに変化するのが怖くなって、キョーコは海に目を向けた。


「…だからね、私は地獄に堕ちるの」


キョーコは自分に言い聞かせる様に呟いた。口から出た言葉は戻せないが、汚い自分を隠してしまいたくて身を小さくして顔を隠す。懺悔と、後悔と、瞼の裏に浮かんだ自分ではない誰かに神々しく微笑む蓮の姿に涙が溢れてくる

落ち着かなくてはとゆっくり息を吐き出してみても、吐息すら震えて上手く呼吸できない。隣で泣かれても迷惑だからと身を小さく硬くしてみたが、呼吸と同じように震える体はコントロールが効かない。腕がぶつかった感触にしまった思う間もなく、肩を抱き寄せられてキョーコは驚いてビクリと身じろぎした。

今この腕を振りほどいたらひどい顔を見られてしまう。頼ってはいけない、甘えてはいけないと分かっているのにキョーコは優しく自分を包む腕を振り切ることができないでいた。


(心配をかけないように、まずは落ち着かなきゃ)


呪文のように自分自身に言い聞かせ、キョーコは何とか平静を取り戻そうとした。深呼吸を心がける中、どこかで妙に冷静に今の状態を見つめる自分がいた。

肩をすっぽり包む大きな腕。頭に当たる広い胸板にキョーコはコーンが大人になったことを実感した。


(……コーン。今だけ、甘えてもいい?)


妖精とはいえ、立派に成長した王子にドキドキするより安心感があるなんてやっぱりコーンは妖精だから?と少し緊張を解いたキョーコは抱き寄せられてる心地良さにそんなことをぼんやり考える。


(…敦賀セラピー…みたい…)


過去にこんな風に慰めてもらったことがあった。

あの時はまだこの恋心は自覚していなくてよかった。

泣いてる子供を慰める様な仕草で、あの時はただ安心感が先に立っていた。


(そういえば、敦賀さんが一瞬コーンに見えた時もあったっけ…)


コーンと出会った森に似た自然の中で、朝日に照らしだされた蓮の黒髪が透けて以前そう錯覚した。

キョーコがレイノに追い詰められてた時コーンを思って涙した時は蓮に慰められ、蓮を思って涙している今はコーンに慰められていることに奇妙な関連性を感じながら、徐々に凪いでいく気持ちを受け入れていた。


(結局、私…敦賀さんの事ばかりね)


キョーコは自嘲しつつも、今だけだからと自分で自分に言い訳を呟いた。


潮騒が二人を包む。耳に入るのは優しい波の音と時折遠くから響く鳥の泣き声だけだと思っていたのに、ふと気づけば互いの鼓動と体温がその根底で緩やかに響いている

しばらく自分を慰めてくれる腕に甘えた後、キョーコは目元をこすって顔を上げた。


(コーンが私に魔法をかけてくれたのね)


驚くほど穏やかになった気持ちに、キョーコはかつて青い石を太陽にかざして『魔法だよ』と教えてくれた懐かしい日を思い出し小さく笑った。

キョーコの中に蘇った言葉は記憶の中では少年の声だ。そしてふと、成長した彼の声はどんな音だろうと思い至った。


「…そういえば、どうしてコーンはしゃべらないの?」


落ち着いたキョーコはそんな疑問をすんなり口にした。転換した話題に自然と気持ちが切り替わる。自然に話し出せたことにキョーコは少し安堵していた。

キョーコが落ち着いたこと様子なのに安心したのか、いきなり飛んだ話題にクスリと苦笑が落ちてきた。


“魔法をかけられてしゃべれないんだ”


音声でなく、またしても筆談で返ってきた回答にキョーコは目を丸くする。


「えっ?コーン、悪い魔法をかけられてるの!?」


目の前の人物の身の上に発生している一大事にキョーコは慌てた。コーンが大変なのに、私ったらまた自分の事ばっかりで!とおろおろとし始める。


“キョーコちゃん、魔法を解くのを手伝ってくれる?”


「解く方法があるの?もちろん、私にできる事だったらなんだって…!」


自分の事ばかりで以前と同じようにお返しができなかったキョーコは、相手からのお願いに力強く頷いた。今回、そして昔にコーンからもらったものはたくさんありすぎて、急に湧いたお礼のチャンスは逃したくない。


“キョーコちゃん、俺のことキライ?”


脈絡なく落とされた質問が何につながるのかキョーコには分からないが、それを肯定するなんてありえなかった。


「えっ?なんで?そんなことあるわけないじゃない!コーンの事、大好きよ?」


『大好き』

他意はなかったものの、キョーコは自分の口から出た好意の意味を持つ言葉にドキリとする。


(さっき、コーンに抱きしめられて敦賀さんを思い出しちゃったからよ…)


そんな事を一瞬でも考えていたからだろうか?

目の前の美貌がふわりと綻んだのを目にした後にキョーコが感じたのは、唇に接する柔らかい感触だった。


(…え?)


瞳を隠した瞼がキョーコの眼前にあった。長い睫毛が印象的だった。

いつかどこかで見たような、例えようのない感覚を一瞬覚えたが、ふに、と唇に感じた緩い圧力にその感覚も霧散する。


(くち…?え…?)


少し遠ざかった彫刻のように美しい美貌に、ようやく触れていたのがどこだったかとキョーコの意識が向き始めたのだが…


「…ありがとう、キョーコちゃん」


瞼がゆっくり持ち上がり碧の瞳に赤茶が反射して起きた煌めきに目を奪われる。

久々に取り戻した声のせいか、少し掠れたテノールがキョーコの鼓膜を震わせる。


何が、どこが、とか考え始めようとしていたキョーコの思考は聞きたいと思っていた音声の方に反応した。


「…っ、コーン!声が…!」


キョーコは思わず抱きつき、よかったぁ~と安堵の言葉を漏らす。背中にに回された大きな掌がポンポンと背に触れる感触がくすぐったい。抱きついたせいでクスリと笑う音がキョーコの耳元、至近距離で落とされる。耳朶の表面を擽った吐息にドキリと心臓が高鳴った。


「キョーコちゃん」

「なに、コーン?」


勢いのままに抱きついていたキョーコは、呼ばれた自分の名前に手を解いておずおずと相手に視線を合わせた。思わず取ってしまったスキンシップに照れもあったが、キョーコの腕が緩むのを待ってくれた時間と、ヒール兄妹の仕事での慣れでカッと頬に熱が上がるのは表に出ずに済んだ。


「魔法解いてくれてありがとう」

「え?」


キョーコの視界には眩しい笑顔があった。

そして触れあったのが唇同士だったと、キョーコが認識する前に爆弾が落とされた。


「好きな人のキスだから…キョーコちゃんだから魔法が解けたんだ」


にっこりと向けられた微笑みにキョーコの思考は分断される。


「…コー…ン…」


先ほど一瞬過ぎった感覚が何だったのか、キョーコはまざまざと考えさせられた。


すっと細められた双眸に映った自分の表情はとても醜悪だ。

吸い込まれるような深い碧に反射した赤茶は、少しの苦さを含んでいるように見えた。


「……俺に、そいつを重ねても…いいよ?」

「……」


心の内を見透かす言葉に、跳ね上がった鼓動が頭に響いて痛む。

抱きしめられた時、その腕の心地よさに心の中で想う人を重ねた事。閉ざされた瞳に、整った美貌の下に自分の知る黒曜石の瞳があればいいと心のどこかで願った事。


全ては妖精の魔法と都合よく思い込んで、自分を励ましてくれる優しさを満たされない恋心の身代わりにした自分の卑怯さも…


「キョーコちゃん」


(敦賀さんは、私をキョーコちゃんとは呼ばない…)


名前を呼ばれて、キョーコは思い知る。

目の前の人が、自分の想い人ではないことを。

そして一度だけ…熱に浮かされた蓮が自分ではない誰かを『キョーコちゃん』と呼んだ記憶が頭の片隅で浮かび上がる。


その事実に心臓が痛い。


『……重ねても…いいよ?』


彼は『好きな人のキス』と言った。その言葉の意味をキョーコは深く考えたくなかった。


キョーコの頬を撫でた大きな手が温かくて、治まったはず涙がまた湧き出しそうだった。

再度唇に落ちてきた柔らかな感触から逃れなければいけないのに。


(コーンの優しさかもしれないけれど、それを利用する私はもっと…)


甘い誘惑の魔法に、キョーコは打ち勝てない自分の弱さを呪った。