お久しぶり・・・の続き妄想です。
3/20発売の本誌、ACT215の続き妄想です。
本誌未読・単行本派のかたはバックプリーズ!!
えっと・・・今回はいつも本誌感想を拝読に伺う2~3人の作家様以外の方の感想・続き妄想はこれが書きあがるまで拝読を我慢しております。
ネタ被り・展開被りのプレッシャーがハンパないです!!
それでも久々に続き妄想書けるかも~な感じなので、どこかで似たような展開のお話があったとしてもご容赦くださいませ。&先方にはまったくいわれのない偶然の産物であることを認識していただき、私にはいくらでも石を投げていただいて構いませんが、他の作家様に失礼のないようにお願いいたします。
・・・そして伝家の宝刀?見切り発車。
だって、このままずるずる行くとお蔵入りになりそうなので、後編も絶対書き上げて公開するぞ!と自分の尻に火をつける行為です。←やっぱりやりやがったw
━─━─━─━─━─
ACT222妄想 【前編】
『RRRRRR、RRRRRR・・・・・』
ふと、手の内のスマートフォンがスピーカーから小さが機械的な音を奏でるのに蓮は気がつた。
(な・・・何をしているんだ)
脳裏を過ぎったのは母親の事で涙を零す幼い少女だった。
過去に電話では演技に惑わされたこともあり、深夜という非常識な時間帯に躊躇したはずなのに、無意識のうちに指先は見慣れた名前を呼び出しコールボタンを押していた。
気がついた瞬間にオフボタンを押そうか逡巡したが、こんな時間に着信だけ残すのもいかがなものかと思いとどまる。律義なキョーコの事だ、こんな時間に着信が残っていれば緊急自体かと焦らせてしまうかもしれない。
(誤魔化されるかもしれないけれど、こうなれば声だけでも聴ければ・・・)
安心できるだろうか?
またしても疑問が過ぎるが、こうなってはこちらから呼び出しを切ることもできない。
『RRRRRR、RRRRRR・・・・・・』
数コール、時刻は深夜1時半前。
蓮の脳内は持てる情報であらん限りの推測を弾きはじめた。
タレントの仕事が増え下宿先の手伝いがなかなかできなくなったと申し訳なさそうに語っていた事を思い出す。
居酒屋を営む下宿先はかなりの繁盛店だ。都内の店であればラストオーダーを日付変更前にとっていても客が帰るまでは店を開け続けるの常。仕事が増えたとはいえ、可能な限り店の手伝いをするキョーコの事を考えればこの時間はまだ店の片づけを手伝っているか、ちょうど店じまいをして一息ついている時間かもしれない。
『RRRRRR、RRRRRR・・・・・・』
(長いな。寝てる・・・なら・・・)
一般的で無難な考えが過ぎる。
以前に比べだいぶ携帯に慣れ着信に長時間気づかないことは減ったが、キョーコは携帯電話は単純に仕事道具の一環としか思っていない。同じ年頃の女の子と比較すればそのツールとしての重要性は低いはず。
『RRRRR、RRR――』
呼び出し音が途切れ、蓮は息を呑んだ。
長い呼び出しの末で、もしかしたら就寝していたキョーコを起こしてしまったのかもしれない。そうだとしたら相手に怪しまれずにこの深夜の電話で何を話すべきか・・・。
『―――ただいま電話に出ることができません。ご用件のある方はピーという音の後にメッセージを・・・』
一拍後、スマートフォンから流れ出した音声はキョーコの声ではなく機械的なアナウンスだった。
繋がらなかった事実に感じたのは少しの安堵か更なる不安か。
『ピー・・・』
「――敦賀です。夜遅くにごめんね。一時帰国したから電話してみました」
蓮は意を決して口を開いた。
留守番電話になるならばこの電話に対しての対応でキョーコが気に病まないように、無言で切るわけにもいかない。
なにか当たり障りのない理由で切り上げなければ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そうは考えるものの、こんな非常識な深夜の電話。うまい言い訳が見つからず言葉に詰まる。
瞼の裏の涙を零す少女が消えない。
再会してからは直接目にすることはなかったが、まだあの石を大事に抱えていたことから、時に悲しみを吸い取ってもらうことがあっただろうことが推測できた。
だから、どんな理由があれあんな母親の言葉を聞いていたとしたら――
願望交じりの自分の言葉に複雑な表情をした社長が思い起こされ、蓮は思わず目を瞑った。
また一人で泣いていないか
辛い思いをしていないか
心配で
君が俺を救ってくれたように
辛い思いをしているのなら少しでも何かしたくて
君の様子を知りたくて
ほんの少しでも手がかりになるなら
君の・・・
「・・・・・・・・・・君の声が聞きたくて・・・」
思わず零れた言葉は本音だった。
『―――プツ メッセージを録音しました』
「・・・っ!」
再度聞こえた機械的な音声に蓮は我に返った。
(・・・あんな内容で・・・っ)
思わず耳に当てていたスマフォを話して再度キョーコの番号を呼び出す。
しかしその手は『最上さん』と表示された画面を呼び出したところで止まった――
「敦賀様、お帰りのお車の用意が整いました」
程なく、先ほどまでシェイカーを振っていた褐色の肌の社長秘書が社長室のバーラウンジのドアを開けた。
「―――敦賀様・・・?」
彼はついと周囲に視線を走らせるが、その呼びかけは広い廊下に吸い込まれていった。
********
(何で・・・、なんで――・・・っ!)
『私の存在を 疎ましいと思っている 子供の頃からずっと―――』
そう、知ってたはずだ。母親が自分の事を疎んでいることなんて
『ヤだな、そんな顔しないで?私にとってはもう慣れたことだから』
そう、慣れている。母親が自分に対して無関心なことだって
『モー子さんが思っているほど傷ついたりしていないのよ?』
そう、こんなことで傷ついたりなんてしない
なのに―――
『―――確かに 私に 子供は おりません』
テレビのスピーカー越しに聞こえた感情の乗らない声に心が凍った。
(疎んでるんだし、あんな風に私の事を存在しないモノと捉えててもおかしくないじゃない)
あの言い方に何の疑問も感じない。まともな子育てをしてきてない母親が公共の場でそれを馬鹿正直にひけらかす必要もない。感情的になっている相談者に対してはそれが一番スマートな回答だろう。
(なのになんなの―――・・・っ!)
何年も聞いてなかった声なのに、ちゃんと母親の声だと耳は認識した。
公共の電波に乗った音声が何度もリピートする。その度に――
目元に熱が集中する
鼻の奥がツンと痛む
『それでも 言わなかったんだ 迷惑だから認めない、って』
否定されなかったことに、何を感じたの?
『それ・・・見せてもらってもいいですか・・・?』
何故画面に映ったあの人に興味を持ったの?
『・・・は・・・母・・・なんですけど・・・』
母親のように慕っている女将さんの前で、どうしてあの人の事を『母』と言えたの?
(―――私・・・っ、期待したの・・・!?)
耳に残った音声が再生される度に胸が痛い
目じりに感じた水分とぼやける視界なんて認めない
(あの人の言葉で傷ついたりなんてしない――っ!もう二度と・・・っ!)
そこからの行動、キョーコは無意識だった。
カバンをひっくり返し転がり出た小さながまぐちを引っ付かむと、自室を飛び出した。逃げ出すようにだるまやのバックヤードを駆け抜け、勢いのままに乱暴にドアを押し開ける。
無意識故に、キョーコの体が取ろうとした行動は過去繰り返してきたものだ。
瞳から零れ落ちる雫
手の内の蒼い石
1人になれる場所――
ここに居たくなかった
冷たく凍っているくせに、熱を持つ眼が憎らしい
どこか――・・・
ドアを開けた瞬間、目に入った人物にキョーコは動きを止めた。
そこにあったのは復讐を誓った幼馴染の姿だった。
スマートフォンを片手に勝手口にいた尚は驚いた表情でキョーコを見つめた数秒後、大きくため息を吐き出した。
「・・・あ~~~~・・・・・・・ああ・・・」
大きく俯き眉を顰めたその表情に、先日だるまやに押しかけて来た時の尚の様子がキョーコの脳裏にフラッシュバックする。
「―――・・・その顔・・・、やっぱり見たんだな――・・・」
(―――・・・!!)
確信をもってそう吐き出された言葉と、俺様な尚が見せている沈痛な表情。
その言葉が何を意味するのか、キョーコは瞬時に悟ってしまった。
『なんのこと?こんな時間に大スター様が何の用よ?』
いつものように、そう悪態をつけばいい。
それだけなのにキョーコの口も表情も言うことを聞いてくれなかった。でも
決して涙は見せてはならない。
その強固な意思だけは辛うじて身体は実行してくれた。眉間の皺と厳しく引き結んだ唇は、決して今の心情が何でもなくはないことを表現してしまってはいたけれど。
「・・・・・・・・・・・」
「見たんだろ?アレ」
沈痛な表情ではあるが、それと同時にどうしてよいか分からない、そんな迷い子の様な表情の尚は視線を足元に落としたままだ。
この表情は知っている
母親の事で泣く自分を見てどうしてよいか分からず困っていた幼馴染の顔だ
「・・・・・・・・・・・アレって・・・何よ」
「・・・アレったらアレだよ!テレビの・・・っ」
「テレビが何?テレビくらい人並には見るわよ。一体何なんなの?」
「だからっ、今日放送の・・・っ」
「・・・・・・・・・・・」
尚は言葉を重ね続けるがはっきりとは言わず言葉を濁す。
「・・・何の話?用がないなら帰りなさいよ。こんな時間に1人でふらふら出歩くなんて、アンタ仮にも売れてる芸能人なんでしょ?自覚がないんじゃない」
「・・・なっ!じゃ、じゃあお前こそ、こんな時間に外に出ようなんてどういう事だよ!未成年だろーがっ」
売り言葉に買い言葉。尚はがばっと顔をあげキョーコを見据えた。
「大体なっ!お前、そんな顔して見てないなんて言わせねーぞ!」
「っ!そんな顔って何よ。仮にも女優を掴まえて一体何なのよ。近所迷惑よ!」
「見たんだろ!?冴菜さんの出てた番組っ!!」
「・・・・・・・・」
語気荒く言い切った尚は、確信を持っていた癖に一瞬しまったという表情をしてまた目を伏せた。
「・・・・・・あの人、テレビなんかに出てたの?」
「白々しい嘘つくんじゃねーよ。役者の癖に随分と演技が下手だなっ!」
物は試しで言ってみたものの、尚には通用しなかったようだ。
良くも悪くもお互いをよく知る幼馴染とはこういうところでは誤魔化しがきかない。断定形で言い募ってくる尚に、キョーコは一つ溜息を吐きだし役者の仮面を被り直した。
弱ったところなど敵に晒したくはない
それどころか
そもそも自分は傷ついてなんかいない
「・・・で?」
「あん?」
「・・・・・・仮に見てたとして」
「・・・・・・・・見てんじゃねーかよ」
吐き捨てる様にそう言う尚に、キョーコは冷ややかに嗤った。
「それがアンタに一体何の関係があるの?」
「・・・っ!」
「前にも言ったでしょ。私があのヒトとのことでヘコもうが嘆こうがアンタ痛くも痒くもないんだし」
「でもっ、お前っ!母親の事でよく・・・っ」
皆まで言えず、尚はまた言葉を濁した。
跡取りとして両親の愛情を受けて育った自分が母親の事で泣くキョーコに、何を言っても嘘くさくて黙って眺めるだけになっていたのを自覚しているのだ。尚の性格も相俟ってストレートにその先の言葉を紡げないでいた。
「それは小さい頃の話でしょ?もういちいちあの人の事で泣くほど子供じゃないわ。あの人が私の事をどう思ってたかなんて、アンタにだって・・・」
『疎まれている』
(・・・やだ・・・っ)
自分で思い返した言葉なのに、それが胸に刺さり仮面が剥がれかける。再び熱を持ちかけた瞳をキョーコは無理矢理押さえつけた。
「・・・・・・・・・・・じゃあなんだ?」
不自然に途切れた言葉にキョーコを正視できずにいた尚は思わずキョーコの表情を盗み見る。キョーコ自身は平静を装ったつもりだったが、噛み締められて白くなった唇を視界に入れ尚は低く唸った。
「今から俺のいないところにでも泣きに行くのか?」
「・・・っ・・・」
「お前、前に俺に言ったよな?」
にじり寄る尚にキョーコは思わず拳を握りしめた。その内にある原石が布越しにキョーコの手のひらに突き刺さりその存在を主張してくる。
(・・・コー・・・ン・・・)
衝動的に彼だけを連れて、自分はどこに行こうとしていたのだろうか?
誰にも見られたくない、こんな自分
「な、によ・・・それ・・・」
「俺を困らせたくなくて俺のいないところで泣くようになったって言ってたじゃねーか!」
そうだ
泣くのなら1人になれるところで
その先には、きっと
――・・・昔と違って、コーンはいないけど
(・・・これじゃ、泣いてばかりいた子供の頃と同じじゃない・・・っ)
母の事でいちいち傷ついたりしない
何も期待なんてしない
なのに――・・・
「だからっ!こんな真夜中に部屋を飛び出したんだろっ!?」
怯んだキョーコに対し、尚は勢いを増す。
「誰にも見られない場所で、泣――」
「だったらなんだって言うの!?」
ついにキョーコの方が決壊した。
「私が泣こうがヘコもうが放っておけばいいじゃない!アンタには何にも関係ないっ!」
「・・・っ!でも・・・っ!」
「なんなのよ!泣きに行くのがそんなに悪い事なの!?仮にそうだとしてなんでアンタがいる場所で泣かなきゃいけないの!?なんなのよ!アンタは私の何のつもりなのよ!」
「なにって・・・」
火がついたように喚くキョーコに、尚自身自分がどうしたいのか方向性を見失う。
ただアレを見ていないことを祈っていた
ショックを受けてないことを確かめたかった
気がついたら・・・・・・ここに来ていた
でも、キョーコの反応に自分の指摘が図星だったことを悟るが、だからと言って何をどうすればいいのか尚自身にも分からなかった。
「私があの人の事で泣くのを嘲笑いに来たの!?私が惨めな様がそんなに愉快!?こんな時間に相当の暇人ねっ!!最っ低っ!!」
「おまっ・・・!」
あまりの言い様に、身を翻したキョーコの手を尚は掴み取った。
「離してよ!そうよ、アンタの言うとおりに泣きに行くのよ!そう答えれば満足!?」
「お、落ち着けって」
「―っ、離してっ!!」
キョーコは力任せにその手を振り切った。そして鋭い眼差しで尚を睨みつける。その眼尻には涙が浮かんでおり、尚は前のめりになっていた体制を思わず引いてしまった。
「おいっ!」
そのまま路地裏に駆け出そうとするキョーコに声をかけると、数歩地面を蹴ったところでキョーコはぴたりと足を止めた。
「・・・・・・・・ついてこないで。アンタにだけは・・・見られたくないのよ」
「キョー・・・」
「アンタだったらできるの?敵に弱みを晒せるの・・・?」
キョーコは尚を振り返ることなく言葉を落とす。夜風に吹かれるキョーコの肩が僅かに震えているように見え、尚は動くことができない。
「私の前で、心底悲しいって泣き顔晒せるかって言ってるのよ――」
「・・・・っ、クソっ」
誰も居なくなった裏路地を見つめ、忌々しげに悪態をついた。
キョーコが母親の事で泣きに行くのが分かっていても、結局今までと同じで何もできない。
走り去っていくキョーコを追う事も出来ず、かといってそのまま引き返すこともできず。都会の喧騒を遠くに聞きながら言い様のない後味の悪さだけが広がっていく。
ヴ―――、ヴ―――・・・
ほどなくして手のスマートフォンが耳障りな振動音で着信を告げた。尚はノロノロと指先を画面に滑らせた。
『――ちょっと尚!こんな時間に一体どこにいるのっ!?』
「・・・わりぃ、野暮用でさ。・・・・・帰る」
溜息を一つ掃出し、尚は通話を切り上げた。
「・・・アイツ、虚勢張ったって冴菜さんに対しては変わってねーじゃねぇか・・・」
よく知っているからこそ追いかけることが出来なかった。
前以上の後味の悪さに舌打すると、尚はまだ明るい都会の夜道を歩きはじめた。