12月23日午後6時30分。

最後の戦場での戦いは困難を極めていた。

自分のテリトリーである車の中で、久々に過ごす彼女と二人っきりの時間。

もう30分は続いている押し問答には、イブやクリスマスを愛しい彼女と過ごしたい俺の気持ちも、それよりもっと大事な彼女の誕生日を隣りにいて一番に祝いたい俺の気持ちにも一切気づこうとしない彼女と俺の気持ちの温度差がでまくっていた。


「先ほどのお話からすると、どこかから急な仕事が入ったわけじゃないんですよね。ならどうしてあんなことを!?」

「だから、さっきから言ってるだろ?仕事は関係ない!俺が!君の!イブとクリスマスをもらいたいんだ!好きな子と大事な日を過ごしたいんだ!君の誕生日も!」


「だから、どうして、イブやクリスマスに依頼するんです?・・・あっ」

もしかして、彼女さんとのディナーの準備を頼みたい訳?それならプロに頼めばいいのに・・・また量が問題なのかしら。でも、別の女が作った料理を出していいわけないわ。ついでに私の誕生日をお祝いしようってのもいただけない。ついでだろうが、お礼をかねてだろうが、彼女的には最低なことよね。


何やらまた的外れなことを思いついたらしい彼女がキツイ視線で俺を見る。さっきは芸能人としては稼ぎ時の24日に仕事しない私に罰を与えるつもりでの招集ですか、なんて言ってたけど今度は・・・何だ?

「つ、る、が、さん?私としても、尊敬申し上げている大好きな先輩からのご依頼を御請できないのは心苦しく思っています。でも!そういうことなら尚更、御請できないですよ。あまり良いこととは思えません。女性的には嬉しくないと思います。それに、こんなこと、わざわざ私の仕事先にお越しになるほどの頼みとは思えないんですけど。ちゃんとした方(プロ)に依頼なさってください!今まででしたらオフの日だろうがなんだろうが、スケジュールさえ合えば大先輩である敦賀さんの依頼は御請してきましたが、今回はやめたほうがいいですよ?っていうか、これからは、依頼自体やめたほうがいいです。私も嫌ですから」

「これはラブミー部への依頼じゃない。君個人への頼みなんだよ!嬉しくないって・・・それに嫌って。俺が嫌いってこと?もう俺とは会いたくないってこと?」

「そんなこと申し上げてません!尊敬してますし、崇拝してます。大先輩として!」


「私も嫌」という言葉に少し落ち着きだしていた俺のペースがまた簡単に乱される。

俺を拒絶しようとしている彼女を繋ぎ止めるため、必死に言葉を連ねるが、焦りの為か上手い言葉が出てこない。

彼女の次の仕事先にはもう実はたどり着いているが、まだ彼女を行かせるわけにはいかない。俺の移動のタイムリミットはあと5分しかないというのに・・・・・・嗚呼、もう!


「ラブミー部とか、後輩とか関係ない!最上キョーコさん自身への、頼みっていうか、お願いっていうか・・・もう時間がない。とにかく!俺の頼みを聞いて!大事な話があるんだ。君、今日から泊まりでどこかに行く予定だったんだよね?それじゃウチに来て!その荷物預かるよ。俺が持って帰る。帰りは迎えに行けないけど、先に入っていて。鍵を渡しておくから」


いきなり早口でまくしたて始めた敦賀さんにミニボストンとお土産を詰めた紙袋を取り上げられ、手元には敦賀さん家のカードキーと、小さなバッグだけ残った。

これには仕事用の携帯とお財布と最低限のものを詰めたミニメイクポーチしか入っていないのに。


「こ、困ります。そこにはプライベート用の携帯とか、部屋の鍵とかも入ってるんです。返してください」

「駄目。今日はもうなくても平気だろ。ちなみに、俺はその鍵がないと家に入れないからね。家で、待っててくれるよね」


久々に炸裂する似非紳士のキラキラ光線つき笑顔。グサグサと突き刺さるそれに押され、車外に出た私は、軽すぎるバックを抱え、次の現場に向かうしかなかった。


続く



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