12月24日午前9時10分。

昨日、訳のわからない言動で私を困惑させまくった敦賀さん。そして本日。そんな敦賀さんと私は、昨日無理矢理約束させられた通り、ラブミー部室にて面会中。

昨日取り上げられ大迷惑した鞄は、無事手元に帰り、プライベート用携帯や家の鍵も戻ってきた。小学生かと思うような嫌がらせで、昨日私が家に帰れなかったことへの詫びも聞いた。

私はというと、敦賀さんの訳がわからない言動とその被害に対して怒っている風に装ってはいるが、本当は怒りをみせることで、スムーズに依頼を断ろうとしているだけ。

イブに敦賀さんとその彼女の為に、家政婦のまねごとなんて絶対に嫌だから。彼女も嫌だろうけど、私はもっと嫌。


「本当にごめんね。もう絶対あんなことしないから」

シュンとしているのは反省してるってことだからいいとして、縋るような・・・子犬のような目で見つめるのはやめてもらいたい。

心の中でひとつカウントをとって、表情を凍らせたまま対応する。最近増えた私の特技のひとつ、氷の女顔で。


「・・・それはもういいです。で。お話って何ですか?できれば早く済ませていただきたいのですが」
「・・・な、なにか、このあと用事があるの?」

「敦賀さんの用事を済ませてください。お話って何ですか?」
「昨日の彼。あれは誰?最上さんの何?彼と付き合ってるの?昨日キャンセルしたのに、今から会いに行くの?泊まりで?」

「友人の一人です。付き合ってるかどうかなんて敦賀さんには関係ありませんよね。それと、私がオフに誰とどこへ行こうが自由なハズですが?」


「あいつが好きなの?」



「・・・敦賀さん、お話って?」

「どうして?俺じゃ駄目なの?」


敦賀さんが話の通じない人になった。いや、随分前から通じていなかった気もするけど。


「お話がないなら行きますね。それと今日からのご依頼は御請できませんから」

「待って!行かないで!それと依頼なんかじゃない!クリスマスを!君の誕生日を!俺は君と・・・」


「・・・お気遣いなく。私の誕生日をついでに祝おうだなんてしてくださらなくて結構ですから」

「ついでって、何?そんな訳ないだろう!」


「そうですね、その気持ちだけで十分です。有り難うございます。でも、もう結構ですから」


もういい加減解放してほしいと心の中で叫びながら、氷の女顔で凌ぎ続けているが、それももう限界が近い。早く、早く、逃げ出さないと。弱いキョーコが出てきてしまう。敦賀さんが大好きで堪らない、バカ女が。


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


朝から最上さんと会えたのは嬉しいが、なかなか状況は回復しない。必死で昨日のことを詫び、許しを請う俺に、彼女の視線は冷たいまま。

そして、俺の話も聞かず、どこかに行こうとしてる。どこに?誰と?そんなの嫌だ!許せない!不安で不安で、今日から明日まで俺と過ごしてほしいというお願いをする余裕もないまま、只々、浮かんだことを口にしてしまう。小さな子供のように。十分?結構?何が?


「俺は、十分じゃない!そんなに嫌?俺の気持ち迷惑?でも、無理だよ。諦められない」


「後輩だからといって、そこまで考えていただかなくても。本当に結構ですから。私になど構わず・・・・・・敦賀さんは敦賀さんの大事な人とクリスマスをお過ごしください」


「後輩とか関係ない!俺は君だから構いたいんだ!いや、構ってほしいんだ!それに大事な人っていうなら、君だ!だから君と過ごしたい!君の誕生日を祝いたい!」


彼女の氷のような表情に耐えられなくなった俺は、ちっとも伝わる気配のない、切ない想いを叫ぶような声で君にぶつけた。それで、彼女の表情がやっと変わった。伝わった?今度こそ?


「もう・・・・いいですから。嫌なんです、もう」


冷たさもなにもかも抜け落ちた彼女の顔を、頬を、奇麗な雫が伝う。


「・・・・そんなに、俺が嫌い?泣く程?俺は・・・・君が好きだ。死ぬ程好きだ。気が狂いそうになるほど、君を想ってる。もう何年も前から、ずっと。愛してるんだ。・・・・君から嫌われるなんて耐えられないよ・・・・。諦めることもできない・・・・俺はもう君がいないと生きて行けない・・・・」

辛くて、辛すぎて、格好悪いけど、涙が出た。それでも、視線は彼女から離せない。彼女を見失う恐怖に、瞬きで目を閉じることさえできない。彼女は・・・・俺を見つめたまま、固まっていた。



「あ・・・・いして・・・・?」


固まったまま、涙を流す、彼女がもらした呟き。それを必死に掴む。


「俺は、最上さんを愛してるんだ。だから、お願い。君の誕生日を俺に、一番に俺に祝わせて。その権利をちょうだい?他の誰かのところになんて行かないで・・・・俺の側にいて。お願いだ」


「う・・・・そよ」

「嘘じゃない!お願いだから信じて!」


「うそです!そんな訳ない!あり得ません!敦賀さんは彼女とクリスマスでもなんでも過ごせばいいんです!私は騙されません!もう私に構わないでください!お願い・・・・だから」


それまでの氷のような無表情っぷりが嘘のように溶け、泣きじゃくる彼女。思わず抱きしめながら、その耳元に何度も囁く。


「嘘じゃない。俺を信じて。最上さん。キョーコちゃん。君を愛してる。君だけを愛してる。俺を受け入れて。お願い。俺のものになって」



続く


web拍手 by FC2