「あなただけに意地悪ー元ラブミー部員達からの鉄槌11ー」


蓮のマンションからキョーコの荷物を運び出した日は、元ラブミー部員である女優が奇跡的にもぎ取ることができた3人一緒のオフで、朝から3人で蓮のマンションに向かい、「キョーコ個人の持ち物」のほとんどすべて運びだした。

蓮が買った家具や洋服、小物といったものは置いていく予定だったが、それを外しても、タレント兼女優として数年を過ごしてきたキョーコの持ち物は、それなりの量になった。それを物ともせず、慣れた様子でテキパキと運び出す娘達。その仕事っぷりは、どう見てもプロの引っ越し業者レベル。3人が3人とも、今人気の現役女優・・・・・・だなんてことは、たまたま遭遇した者にも気づかせなまま、スピーディにスムーズに引っ越し作業は終了した。

その後、キョーコに蓮からもらいはしたが、もう着ないであろう洋服や小物を選ばせ、事務所宛に送り、それらの荷物を取り出したあとにできた空間を埋めるように、空箱などを詰めた。そして、キョーコの引っ越しを隠すためのカモフラージュを終えた彼女たちは、安心して自分達の新たな城に帰っていったのだが、しかし。

そのカモフラージュ作戦は日頃から密かにキョーコの持ち物チェックをしていた、家内ストーカー男には通じなかった。


その男、俳優敦賀蓮がしばらく振りに早い帰宅を果たした夜。現在は無人状態であるキョーコの部屋に入り込み、キョーコがいる頃にはよく怒られていたにも関わらず、クローゼットやチェストの引き出しなどを覗こうとした。過去のように、何かをチェックする為ではなく、純粋にキョーコの気配を感じたくて。


以前開けたときと変わりなく、奇麗に整頓されているクローゼット。



蓮のプレゼントで埋められている空間を眺めていると、キョーコのすべてを自分で埋め尽くしている気分が味わえた。が。

この日は何故か違和感を感じてしまい、その喜びを得ることも、キョーコの気配を感じとることにも集中できなかった。

じっくり観察してみると、やたらと箱が目立つことがわかった。
試しに1つ箱を取り出そうとして、その手がとまる。

「・・・・・軽い?」

軽すぎる箱を開けてみると、やはり中身は空で。

他の箱もいくつか確認してみると、それらの中もやっぱり空で。


改めて、クローゼットやチェストの中身をチェックしてみると、そこには自分が買ったものだけしかないことがわかった。


「う、嘘・・だ・・・キョーコの荷物が・・・・・ない?」



この時点で、本当の意味で、ベコンベコンで、ボコンボコンな男が出来上がった。


確かに蓮はキョーコの家出により、落ち込んではいた。

それでも、自分への愛は失われていないという自信で、強気なままでいられたし、キョーコが家出したといっても、それはほんの僅かな期間に違いなく、「キョーコの家」であるここに戻ってこない筈がないという安心感をもっていた。


「もう、戻ってこない??」




翌日から、毎日毎日出てももらえないキョーコの携帯に電話やメールを入れまくり、半狂乱になって、キョーコを探す男がいた。

新居への引っ越し後、幸せ満喫中で上機嫌な3人娘とは正反対の状態となってしまった男。


数週間前から、その機嫌と精神状態は下降の一途を辿り、現在は打ち捨てられたサンドバック状態なその男の名は・・・・・・・・・・・・・敦賀蓮・・・・・・・だった男。

誰にでも優しくて、気さくな人柄で、春のような眼差しを持っていた温厚紳士はもうどこにもいなかった。



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蓮がクローゼットの扉を開けてしまった日から3日後。またまた某テレビ局内の楽屋にて、密談を繰り広げる元ラブミー部員達の姿があった。


「さっき、社さんと松島主任から、アメ撒きの嘆願書が届いたわよ」

さも嫌そうに、琴南奏江が報告すれば、天宮千織も苦虫を噛み潰したような顔でそれに応じる。

「まぁ、あの状態を放置すると、キョーコさんが危険ですから、仕方ないですね」



「第三段階の最後のお仕置きの前に、まっとうな思考能力を取り戻しておいてもらわないとマズいしね」
「それじゃ、計画してたより少し早くなりましたけど、明日から3日毎に、キョーコさんの古い携帯からのメール送信、1週間毎に、あのドリンクを配達ってことで」


いつのまにやら、キョーコの携帯は新しいもの、新しい番号に交換されており、連日蓮からの電話とメールが入りまくっている古い携帯は現在千織が管理していた。


「そうね。ま、キョーコの例の撮影は全部無事終わってるし、プラン変更なしでいけるでしょう。ドリンクの配達は、社長の秘書さんに頼むってことで」


「元ラブミー部による愛のムチ作戦」。キョーコの今後を左右する、琴南奏江や天宮千織にとっても大事なその作戦は、いよいよ、最終第三段階へと移ろうとしていた。



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