拍手からの移動のパラレルファンタジーです。

あの森を目指して 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9

拍手御礼「あの森を目指して 10」

幌付き馬車に乗って3日程滞在した大きな都市を出発したキョーコは、これまでの旅ではあまり座る機会のなかった御者台から見える景色に新鮮みを感じ、先行き不安な旅であることをしばし忘れることに成功していたが、それは数時間持たずに萎んだ。

その代わりに不安に駆られたかと言えばそれは否で、道中に起こる様々な問題の対処に追われたかと思えば、遠のいてしまった元々の目的地に想いを馳せたりと、闇雲に先を心配出来る程退屈な時間はなかなか訪れなかった。

そして現在のキョーコの頭の中はというと、あるモノで一杯だった。

───お風呂、お風呂、お風呂ぉ!ああ、肩までつかれる様なお風呂に入りたーい。いや、ただのお風呂じゃ我慢出来ないわ!今の私はギブミー温泉なのよっ!

キョーコの育った街は水資源が豊富で、金持ちの家でなくとも大抵の家に井戸があった。流石に風呂まである家は少なかったが、キョーコの生家や奉公先にはそれらがちゃんとあったし、街中には庶民が通える風呂屋もあった。

郊外にある温泉宿は、貴族や裕福な商人のバカンス先として大人気で、キョーコのかつての雇い主である商家の主人も異国の客を接待する際には良く利用していた。

語学が堪能だったキョーコも、商品売買の為の旅に出ていないときにはそれに通訳として同行し、安い部屋ではあるが温泉宿に泊まらせてもらったものである。

しかし、それは故郷でのこと。同じ国の中でも毎年水不足に陥るような地域では風呂は贅沢品であったし、これまでの異国への旅では宿屋の寝室に洗面器と水汲みがあれば上宿という街も数多くあった。

水事情は様々である。そして、風呂事情、風呂文化も。

同じ中央大陸ではあっても、蒸し風呂文化の街ではお湯につかれない。幸いにも少し前までいた街の宿にはきちんとつかれる部屋風呂もあったし、水資源が豊富だったせいか人買い屋でお湯や水を使うように指示したときにも別料金を請求されたりもしなかった。

だがしかし、あの街を出発し1週間も経てば快適な風呂で清潔になった筈の己の身体にもそれなりの汚れが出て来る。

この様な旅では強い風と共に土煙を浴びるのは常であり、雨で泥濘んだ道で泥を被ることも珍しくはない。泥濘に馬車の車輪が嵌り込んだときには、泥に足を取られながら馬を引くことだってあるのだ。

キョーコの座る御者席の目と鼻の先で数時間毎に見せられる馬達のダイナミックな排泄も、風の向きや強さによっては匂いと飛沫を齎し、キョーコの風呂を求める心を刺激した。

足元の荷物のこともあり、水場の確保は2日に一度はするようにしていたが、汗だくになる程の重労働であるあの荷物の世話のあとでは、水浴びは気休めにしか感じられなかった。実際の汚れ加減はともかく、自分では汚れた膜を被っている様で気分が晴れなかったのだ。

───それにしても…一体いつになったらちゃんと意識が戻るのかしら?

現在彼女の荷物と化している人間は、未だまともな会話が出来る状態にない。馬車に揺られている時間が長いとはいえ、人買い屋での悲惨な状態に戻す訳にも行かないから、意識のない寝たきりの病人に対する様なごく一般的な世話は日に何度かしている。

それを繰り返すこと3日。キョーコが起きて欲しくない状態のときに一度は覚醒したものの、何が悪かったのかまた意識を失ってしまった。←

───そりゃあ、あのときはあまりにも居たたまれなかったから、ちょっとばかし力を入れすぎた気はするけどっ!←何してたの?

もしかすると、キョーコが気づいていないだけで、何度か目を覚ましているかもしれないが…少なくともキョーコが把握している時間に、彼から何らかのアクションを受けたことはなかった。

無意識でもお腹が空いていれば口に入れたものを飲むことはしたので、食事の世話では困ることがなかったことだけは、幸いである。

───次に目覚めるのは、あんなときではありませんように!!←だから何してたの?

「病人は清潔な環境に置いて、ベッドのシーツも取り替えるべきである」。故郷で受けた医学の教えに従い、旅の途中ではあってもそれをなんとか守ろうと頑張っているキョーコのこの健気(?)な願いが叶うかどうかは神望み知るである。


第11話につづく


期待していただいてる様な二人のシーンにはなかなか辿り着きませんー!
そして面白くもない!(ノДT) 
つ、次こそはーー!せめて、会話シーーンをっ!

それはそうと、この荷物さんのお世話はヒジョーーに大変らしいです。


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