拍手からの移動のパラレルファンタジーです。
あの森を目指して 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16 / 17 / 18(アメンバー限定)or18(アメンバー限定を読めない方はこちら) / 19
拍手御礼「あの森を目指して 20」
精根尽きた状態でベッドに寝かされた男には、既に思考能力は欠片も残されていなかった。
しかし魂の抜けた人形の様でも、身体は正直である。
茫然自失の男が立ち直る間もなく、久し振りに味わうベッドの感触に喜んだ身体は、あっという間に彼を深い眠りの中へと誘い込んだのだった。
《オキテ》
優しい声が彼の耳を揺らした。
《オキテ》
優しい手が彼の髪を、そして額を撫でた。
《オキテクダサイ、ショクジニシマショウ?》
───な…に…?…
《まだ…眠い…》
《ゴハンタベテカラマタネマショウ?》
《う…ん…》
《ネ?オキマショウ?》
《や…だ…》
《ゴハンオイシイデスヨ?イイニオイデショ?》
───…?…ゴ…ハ…?…
幼子の様な返事をその自覚もなく返していた男だったが、鼻先で漂う良い匂いにつられ、その意識は徐々に覚醒へと向かった。
《キョウハシチュートシロパンナンデスヨ》
───シ…チュー?…シロ…パ…ン?
そんな食事をしたのは随分前である。
彼がその酷い生活の後半期間に与えられていたのは、主に水と硬い穀物パンだった。
元々小食だった彼は故郷での暮らしでは食事など摂らなくても平気だと思っていたせいもあり、まだ与えられる食事がまともとも言えた男妾時代には食事を拒否することも多かった。しかし、例えその拒否には「何が混ぜ込まれているのか信用出来なかった」からという正当な理由があったとしても、そんな生活を長期間続ければ身体はいづれ限界を迎えることとなる。
その限界を迎え、これまで感じたことがない飢餓状態が彼を襲ったときから、 “食べられるときに何でも食べないと死ぬ” と身体は彼の指示など無視して、勝手に動き出す様になった。
水だろうが、硬い穀物パンだろうが何でもヨカッタ。薄い泥水としか思えない味がする冷えたスープや限界まで萎びたリンゴンだって全部食べた。カビや虫食いすら気にせず貪り食った。…腐りかけていたとしてもそれは同じだった。
《キョウノシチューハオイシイデスヨ?デキタテホカホカデスヨ~。オイシイシロパンモアルンデスヨ?》
今の彼にとって、食べることは生きること。食べ物に反応するのは生存本能である。
目の前に差し出すかのように、記憶の中にのみ存在していた懐かしいとも言える全うな食事メニューを囁かれてしまえば、彼の脳裏にはホカホカと湯気をたてる出来立てのシチューとやわらかそうな白パンがすぐに浮かんだ。
───ああ…温かいシチュー…フカフカした白いパン…きっと、美味しいだろう…な…でも、どんな味だったか思い出せない…
「起きないわねぇ。でも、ヨカッタ!食後に飲めるようにあのドリンクも用意してあるのよねー。シチューも飲んでもらいたけど、あれも持ってこよう!《チョットマッテテクダサイネ、ゴハンモッテキマスカラネ》」
少しの間側を離れていた温かな気配。それはすぐに彼の元に戻ってきた。何とも食欲をそそる良い匂いを伴って。
《イイニオイデショ?》
───うん、良い…匂いだ。
夢の中ではしっかり起きていた彼は懐かしい故郷の服を来て、テーブルについていた。
木製のスプーンでこの良い匂いのシチューを飲み、千切った白いパンを口にほうりこんで食べている。
───?あれ?
しかし、残念ながらそのシチューには味がなかった。
───わからない…シチューって、どんな味だったっけ?
「少し身体を起こさないと。ヨイショ!」
かけ声の様な声と共に、心地よいベットに沈み込んでいた身体の肩の下辺りに何かを押し込まれたが、シチューの味を思い出すことに意識を集中している彼は、なされるがままである。
「よしっ!じゃあ、《マズハコレヲノンデクダサイネ》」
突然彼の口の中に滑り込んできた液体。それが唇を濡らした瞬間、彼の中に期待が広がった。
───シチュー!?…
それはこの1週間で慣れ親しんでいた筈の味ではあったが、シチューを期待していた今この瞬間の彼には受け入れ難いモノであった。
───Σ(⚙♜⚙ ) ウッ!!←違うことに気づいた
《!!!マウイッッ~~!》
薄い泥スープよりも、1000倍強烈な味を誇るそれは、彼を即座に叩き起すだけの破壊力をもっていた。
「あ、起きた~!《ヨカッタ、ジャアコレノミホシタラゴハンニシマショウネ!》」
目覚めた彼を出迎えたのは、その身体から石鹸の良い匂いを漂わせ、きちんと化粧を施した顔に美しい笑みを浮かべたキョーコと、怪しい臭いと不気味な色合いを誇る、彼女曰く「栄養完璧スタミナドリンク」であった。
《コレ…全部?》Σ(⚙♜⚙ )
彼の苦難はまだまだ続く。
第21話につづく
大男さん、しっかり栄養とって、脱ガリガリ骨男ですよ!
拍手やコメ欄に、感想コメントをいただくと魔人がやる気を出します。←単純
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精根尽きた状態でベッドに寝かされた男には、既に思考能力は欠片も残されていなかった。
しかし魂の抜けた人形の様でも、身体は正直である。
茫然自失の男が立ち直る間もなく、久し振りに味わうベッドの感触に喜んだ身体は、あっという間に彼を深い眠りの中へと誘い込んだのだった。
《オキテ》
優しい声が彼の耳を揺らした。
《オキテ》
優しい手が彼の髪を、そして額を撫でた。
《オキテクダサイ、ショクジニシマショウ?》
───な…に…?…
《まだ…眠い…》
《ゴハンタベテカラマタネマショウ?》
《う…ん…》
《ネ?オキマショウ?》
《や…だ…》
《ゴハンオイシイデスヨ?イイニオイデショ?》
───…?…ゴ…ハ…?…
幼子の様な返事をその自覚もなく返していた男だったが、鼻先で漂う良い匂いにつられ、その意識は徐々に覚醒へと向かった。
《キョウハシチュートシロパンナンデスヨ》
───シ…チュー?…シロ…パ…ン?
そんな食事をしたのは随分前である。
彼がその酷い生活の後半期間に与えられていたのは、主に水と硬い穀物パンだった。
元々小食だった彼は故郷での暮らしでは食事など摂らなくても平気だと思っていたせいもあり、まだ与えられる食事がまともとも言えた男妾時代には食事を拒否することも多かった。しかし、例えその拒否には「何が混ぜ込まれているのか信用出来なかった」からという正当な理由があったとしても、そんな生活を長期間続ければ身体はいづれ限界を迎えることとなる。
その限界を迎え、これまで感じたことがない飢餓状態が彼を襲ったときから、 “食べられるときに何でも食べないと死ぬ” と身体は彼の指示など無視して、勝手に動き出す様になった。
水だろうが、硬い穀物パンだろうが何でもヨカッタ。薄い泥水としか思えない味がする冷えたスープや限界まで萎びたリンゴンだって全部食べた。カビや虫食いすら気にせず貪り食った。…腐りかけていたとしてもそれは同じだった。
《キョウノシチューハオイシイデスヨ?デキタテホカホカデスヨ~。オイシイシロパンモアルンデスヨ?》
今の彼にとって、食べることは生きること。食べ物に反応するのは生存本能である。
目の前に差し出すかのように、記憶の中にのみ存在していた懐かしいとも言える全うな食事メニューを囁かれてしまえば、彼の脳裏にはホカホカと湯気をたてる出来立てのシチューとやわらかそうな白パンがすぐに浮かんだ。
───ああ…温かいシチュー…フカフカした白いパン…きっと、美味しいだろう…な…でも、どんな味だったか思い出せない…
「起きないわねぇ。でも、ヨカッタ!食後に飲めるようにあのドリンクも用意してあるのよねー。シチューも飲んでもらいたけど、あれも持ってこよう!《チョットマッテテクダサイネ、ゴハンモッテキマスカラネ》」
少しの間側を離れていた温かな気配。それはすぐに彼の元に戻ってきた。何とも食欲をそそる良い匂いを伴って。
《イイニオイデショ?》
───うん、良い…匂いだ。
夢の中ではしっかり起きていた彼は懐かしい故郷の服を来て、テーブルについていた。
木製のスプーンでこの良い匂いのシチューを飲み、千切った白いパンを口にほうりこんで食べている。
───?あれ?
しかし、残念ながらそのシチューには味がなかった。
───わからない…シチューって、どんな味だったっけ?
「少し身体を起こさないと。ヨイショ!」
かけ声の様な声と共に、心地よいベットに沈み込んでいた身体の肩の下辺りに何かを押し込まれたが、シチューの味を思い出すことに意識を集中している彼は、なされるがままである。
「よしっ!じゃあ、《マズハコレヲノンデクダサイネ》」
突然彼の口の中に滑り込んできた液体。それが唇を濡らした瞬間、彼の中に期待が広がった。
───シチュー!?…
それはこの1週間で慣れ親しんでいた筈の味ではあったが、シチューを期待していた今この瞬間の彼には受け入れ難いモノであった。
───Σ(⚙♜⚙ ) ウッ!!←違うことに気づいた
《!!!マウイッッ~~!》
薄い泥スープよりも、1000倍強烈な味を誇るそれは、彼を即座に叩き起すだけの破壊力をもっていた。
「あ、起きた~!《ヨカッタ、ジャアコレノミホシタラゴハンニシマショウネ!》」
目覚めた彼を出迎えたのは、その身体から石鹸の良い匂いを漂わせ、きちんと化粧を施した顔に美しい笑みを浮かべたキョーコと、怪しい臭いと不気味な色合いを誇る、彼女曰く「栄養完璧スタミナドリンク」であった。
《コレ…全部?》Σ(⚙♜⚙ )
彼の苦難はまだまだ続く。
第21話につづく
大男さん、しっかり栄養とって、脱ガリガリ骨男ですよ!
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