拍手からの移動のパラレルファンタジーです。

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拍手御礼「あの森を目指して 33」

───今更後悔しても仕方がないけど、ほんと要らぬお節介…だったのね。私ってば、馬鹿みたい。

男を送り出すための準備をテキパキと済ませながら、キョーコの頭の中では後悔が渦巻いていた。


自分で練った計画通りにスタートさせることが出来た、最初で最後かもしれない一人旅。

キョーコだって本当はわかっていた。

体調が万全ではないどころかかなり悪い中、頼れる相棒がいるでもない旅の最中に、売られていた瀕死の男を買うなんて、普通に考えれば有り得ない選択なのだと。

───でも、見つけちゃったんだもの。

もしも、彼が同郷人だったなら。

最低限の手当を施したあと、付き添いに人を雇って国に帰した筈である。それなら数日遅れても、キョーコはまた1人で旅を続けられた。

───でもアメリコク人の彼は、あのままなら死んでいたし…買ったあとも、あの街で人任せになんて出来そうになかったんだもの。

言葉が通じない。これは非常に大きなマイナスポイントであった。

そして男は強烈に臭かった。これまたかなりのマイナスであり、そんな悪条件だらけの骸骨の様な大男をまともに看護した上で故郷に帰る手助けまでしてもらうとなると、その手配のにかかる手間と苦労は並大抵のものではない。

しかもそこらの一般人にこれを頼めば、多分男は直ぐに身体のあちこちを腐らせ、死んでしまう。

治療が出来る薬師もしくは医師に「命を助け、更に五体満足の状態で身体も回復させる」ことを頼めば、それこそ一財産かかる。

あのときの男はそういう状態だったのだ。

───でも今なら…毒を消せない代わりに動ける薬さえ用意しておけば、きっと大丈夫。薬師や医師じゃなくてもなんとかなるわ。信用できる人間でさえあればいいんだもの。…私のしたことは全部は無駄にはなってない…そう思うしかない…。例え相手には迷惑だっただけだとしても。

《食料と人は村で手配するし~、服はあれとこれでいいかしらね。そのあと薬を用意しましょう》

暗く沈んでいく気持ちを隠すために、キョーコは鼻歌でも歌いだしそうな程ご機嫌な調子で、口に出すまでもないことを態々音にして自分を鼓舞した。

───余計なことは何も考えない!仕事みたいに割り切って事務的に済ませばいいのよ。そしてまた1人に戻ればいい。1人になればもう誰にも迷惑をかけない。生きようが死のうが私の自由よ。


誰にも迷惑をかけない。
これがキョーコの人生の最重要課題であった。

───私なんかが、誰かの役に立てるとか喜んでもらえるなんて夢はいい加減捨てなさい!

私なんかが。
これがキョーコの自分への評価だった。




キョーコは幼い頃から、“松の屋” の馬鹿息子と彼を目当てにワラワラ涌いてくる街の馬鹿娘達には迷惑をかけられっぱなしであったし、嫌がらせ被害にも沢山あっていた。

しかし、その気になれば防げた被害も中にはあった筈である。

大人を巻き込みやめさせることは、周囲の信用もあり頭脳明晰なキョーコなら可能であったとも言えるのだ。

別に態々“告げ口” する必要などない。

さり気なく大人の目につく様に誘導することも、証拠を残させることも、相手は同世代の子供、しかも馬鹿なのだから簡単であった筈なのだ。

それをしなかったのは、まずは自分の被害には無頓着だったこと。

そして、馬鹿相手の問題に時間を割くぐらいなら、色々なことを学ぶ時間に使いたかったこと。

そして、極めつけなのは、面倒臭かったこと。

それより騒ぎになれば迷惑をかけるという意識の方が本当は大きかったとしても、キョーコの中では面倒臭いという理由で避けるべきという認識にすり替わっていた。

それでも、面倒なのも嘘ではない。←興味ない馬鹿相手だから

キョーコは完全に、馬鹿共を馬鹿にしていた。そして、相手にもしていなかった。

勉強や仕事に集中している時に絡まれたときにはイラつきはしたが、姿が見えないときには存在さえ忘れている様な相手だったのである。

しかし、どれだけ相手のお祖末な脳味噌と残念な言動を見下そうが、相手の見かけだけはそれなりだったという認識はちゃんとある。

奇麗だったり可愛かったり、スタイルがよかったり。

見た目だけが勝負の人間らしく、口を開かなければ、皆それなりに賞賛できる容姿をしていたし、髪型や服にも凝ったお洒落揃いではあった。

キョーコは、“松の屋” の遠い親戚にあたる実家が貧乏で売られたり貰われてきた訳では決してない。

行儀見習いがてら、子供が奉公に出るのは一般的なことであったし、聡い子供がいるとなれば幼い頃から仕込んで将来店の要の1人になってほしいと取り合いになることも珍しくもない。

実は3つの頃には大人の様に読み書き出来たというキョーコには、生まれた街でも沢山の奉公の話があったのだが、それを受け取る人間がいつも側にいなかかったことで、実現しなかっただけである。

親戚だった“松の屋” への奉公の話は、母親と“松の屋” の主人が旅先で偶然再会したからスムーズに決まっただけなのである。

実家の母親がキョーコを子守りの家に預けたきり、1年に1回程しか家に戻らず、4歳になる頃にはほぼ1人で暮らしていたキョーコは、“松の屋” で大勢で暮らせる様になって嬉しかった。

仲良しに見える “お揃い” のお仕着せを着て働き、馬鹿息子に嫌われたお陰で勉強できる “自由時間” もたんまりある生活に不満などある筈もない。

給金も年齢が上がるにつれそれなりにもらっていた。しかし、やりたいことが多過ぎたキョーコはそれを自分の見た目を磨くことには使う暇がなかったのだ。

だから、着飾った同世代の馬鹿息子や馬鹿娘達に自分の容姿を貶されたときには、それに内心頷いてしまうことも多かった。

ほんの小さな子供の頃に、母親に邪魔だの出来損ないだの言われた影響もあったのだろうが、長年に渡り刷り込む様にして聞かされ続けた馬鹿息子達のキョーコを見下しきった言葉は彼女の中に動かせない事実として浸透してしまっていた。

仕事は出来ても、色々学んでそれなりに知識を詰め込んではいても、本当の自分は出来損ないだから価値がない。

しかも、貧乏人で所帯染みてる。
そして、色気も胸もない、この世の男に女として認識されることも、欲情されることなど決してない、女としても欠陥品。

17歳になり、大人の同行なしで出かけるようになった商談の旅。その取引の中心となって動かねばならなくなったとき、キョーコは化粧と着飾ることを覚えた。

醜いことを理由に取引に失敗するだなんてことは許されなかったからだ。

服装や化粧で、その時々に必要な雰囲気を持つ人間に化ける。素顔の見にく過ぎるキョーコはその頃から表に顔を出さなくなった。

だが、それなりに着飾ってはいても、過去を思い出す様な言葉を聞いてしまえば、キョーコの内面にしっかり根を張った価値観は、すぐに動き出してしまう。


「ショーちゃんと私は恋人同士なの!あんたなんか、一生恋人なんて出来ないだろうから、理解できないだろうけど、恋人同士は二人っきりになりたいの!」

恋人かどうかはともかくとして、コイツをこの部屋から追い出したら仕事をする人間がいなくなるぞ?俺は面倒臭いから嫌だしよ」

「むーー!ショーちゃんはこんな女が側にいて平気なの?」

「そりゃあ、俺の側は美女限定だから、汚物は側にいるだけで不快だけど、この部屋から出たら親父に用事を言いつけられちまうんだから、仕方がないだろー」

「美女限定なんだ。//でも、ぷっ!汚物!ケラケラ」



十数年に渡る刷り込みは根深かった。
大きく深い癒えることのない傷が彼女の中心にはつけられていた。



《き、君、あのその…彼氏はいるの?》
《え?あの…かれ…いや、恋人はいるのかと…》

そして、引き金は引かれてしまった。
当然の様に傷に向かって一直線に飛んでしまう弾丸が、彼女の傷をまた広げようとしていた。


例え、きっかけとなった男にそんなつもりは微塵もなくとも。


第34話につづく

長いよ、長いよ、長いよーーーー! (/∆\=)゜゜ウニョ~
また伸びちゃっいましたよーーーー!((((°Д°;))))
諸事情により、明日明後日あたりの更新はおやすみするかもしれません。m(_ _ )m

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