拍手からの移動のパラレルファンタジーです。

あの森を目指して 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16 / 17 / 18(アメンバー限定)or18(アメンバー限定を読めない方はこちら) / 19 / 20 / 21 / 22 / 23 / 24 / 25 / 26 / 27 / 28 / 29 / 30 / 31 / 32 / 33 / 34 / 35 / 36 / 37 / 38 / 39 / 40 / 41 / 42

拍手御礼「あの森を目指して 43」

「へぇ~、これが東の国の古馬車ですか」

「そうです」

金匠の建物からキョーコと共に出て来た男は、脇に停められていた馬車に近づくと、その造りに興味津々といった様子でその周囲を見て回った。

「いざというときには、馬と貴重品を載せた部分だけを簡単に切り離して逃げることが出来るなんて便利ですよねぇ。まぁ、こんな街中ではそんなシーンにはお目にかかれないでしょうし、俺の前でそんなことになったら、困りますけどね。役立たずの烙印を押されるのは御免ですし」

「まだ私も切り離したことも離そうと考えたこともないですけど、最悪のケースですよね、それは。この街ではそんな心配はいらないと信じていますよ。頼りになる方がついてくれるのですから」

「おだてていただいた分、しっかり働かせていただきますよ。んー、馬もデカいし、これなら1頭にしても問題なさそうですね」

建物内で聞かされた馬車についての説明と現物を見比べて相違がないと納得した男は、最後に馬を軽く撫でたあと、御者台の横に立っているキョーコの側に戻った。

「買い出しで荷は増えますが、この街は平地ですしね。で、どうしましょう?馬を1頭馬車から外して使うか、荷台に乗ってもらうかですけど…タカトウさん的にはどちらの方が都合が良いですか?」

「御者席には貴女が座るんですよね?荷台は後方の警戒はできますけど、ゴロツキ共への威嚇には向きませんね」

「それじゃ、馬を使ってください。ちょっと待っててくださいね、馬を外しますから」

ちなみに。キョーコは今回借りる必要はないと判断したが、必要であれば馬は街中で借りることも、目の前の金匠で借りることも出来る。

「あ、俺が外しますよ。あ、その前に同行者さんに挨拶…なんかスゲー睨まれてますけど、大丈夫ですかね?」

「…╬ 」←

このとき、馬車に残されていた男の機嫌は非常に悪かった。

折角の待ち人…キョーコが戻ってきたのはヨカッタが、その横には何故か余計な「男」がついていたし、馬車の周囲で会話を交わす二人は彼の目には非常に親し気に見えていた。

───そいつは君のなんなんだ!どうしてそんなに親し気なんだ!?ああ、もう!いつまでしゃべってるんだ!早くそいつから離れてくれ!

自分よりもずっと親し気に見えることも、キョーコの視線がずっと自分ではない男にのみ注がれていることにも我慢がならなかった。

一番ムカついたのは、男が所謂「男前」なことであったのだが、そこは彼の中のプライドが「気づいていない」こととして処理をしたので、表には浮かんできていない。←

ほどんと意味がわからない言葉で交わされるその会話はなかなか終わらず、彼は苛立ちを見知らぬ男に向けた。

その効果なのか、彼の怒りを察知したらしい相手は、軽く手を振って御者台から離れた。

───あ、なんだ。もしかして、馬車を見にきただけなのか?なんか遠い国の古馬車だとか言ってたし!

「あ、じゃあ馬を外していただいてる間に先に彼への説明を済ませます」

「了解!」

しかし、彼の期待虚しく、その推理はすぐにハズレだとわかった。その男は建物内に戻ることなく、馬車と馬を切り離す作業に入ったのだ。

その様子を荷台の上から見つめる痩せこけた男の視線は非常に険しかった。

《お待たせしました。今馬車の前方にいるあの方はこの街にいる間守ってくださる護衛です》

───護衛なんて必要ない!そりゃあ俺はまだ素早く動けないけど、座ったままでも、少しは役に立てるのにっ。

《どうして、護衛なんか?》

不満に思っていることを隠さない男の顔を、キョーコは不安故のことだと理解し、説明を重ねる。

《ここは貴方の祖国にもある金匠です。大都市にしかありませんけど、貨幣を預けたり、受け取ったりできる場所です。貴方は金匠をご存知ですか?》

《知ってる…けど》

男の故郷の街にはなかったが、アメリコクの首都には金匠があると聞いているし、実際に働いているところを尋ねたことはないまでも、親の知人や友人の友人レベルの細い人脈なら彼も持っていた。

《金匠と契約している護衛は身元や実績が確かなので、街の他の店で契約するより何倍も安全なんです。貴方のことは彼が守ってくれますので安心してくださいね》

《俺は護衛なんていなくても平気だっ!護衛はいらないっ……と…思う》

───君のことだって、俺がっ!

出来もしないことを考え、ゴネだした彼にキョーコはあのいつもの笑顔をみせながら、現実を告げた。

《昨日こけそうになりましたよね?ニコニコ》

昨晩食事を終え、馬車に戻ろうとした際、男はキョーコが出した足にひっかかり転倒しそうになっていた。即座にキョーコが支えてくれなければ、不格好に転がっていた筈の出来事であった。

《あれは急に君が足を出すから…》

《ニコリン。賊も足ぐらいだしますしね》

《…》

《今朝私が投げたリンゴンの実を上手く受け取れませんでしたよね?ニコニコ》

今日の朝、湯を涌かしている間に食べろと投げられたリンゴンの実を、男は受け取ることが出来なかった。

《あれは突然だったし…寝起きだったし》

《私はちゃんと声をかけてから投げましたよ?それに、賊の剣はもっと突然で素早いですよね、ニッコリ》

《…》

《あの護衛の方とは中央大陸の共通言語で会話してください。簡単な単語だけならわかりますよね?挨拶や助けてとか。それじゃあ、ご紹介しますから、挨拶してくださいね》

《それぐらいならわかるけど…》

───会話なんかしたくない。

男は続く言葉を胸の内でのみ呟き、キョーコに言われて馬車の荷台を覗き込んできた男に対峙した。

「おはよう、ございます。私は、金匠、の、護衛、です。今日、から、しばらく、よろしく、お願い、します。私、の、ことは、タカトウ(貴島の通り名)、と、お呼び、ください。」

その長身の護衛タカトウ(貴島)は、爽やかな笑顔で、馬車に乗っている男に挨拶を寄越した。

「通じてるかな?なんだか怒ってらっしゃるようですけど、大丈夫ですか?」

「まぁ、全部は通じてないでしょうけど、大丈夫ですよ。お気遣い有り難うございます。肉と脂肪がほとんどないせいか、顔の皮が突っ張ってて不機嫌に見えますけど、状況についていけずに不安に思ってるだけですから」

「まあ、簡単な単語しかわからないんじゃあ、不安ですよね。わかりました。貴女がいないときにも、なるべく簡単な言葉で話しかけるようにします」

「有難うございます。助かります。にこっ」

「で、先ずは用心棒付きの宿の予約、それから昼飯前に少し甘いものを食べたいんですよね」

「そうです。タカトウ(貴島)さんのオススメの宿と店を紹介してくださるんですよね?」

「宿は金匠の認定上宿ですけど、甘味屋は俺に任せてください!得意分野ですから!」

「嬉しい!楽しみにしてます!久し振りに美味しぃのが食べたかったんですよねー! (〃∇〃)」

「旅の最中じゃ、凝った菓子は食べられませんものね!う~ん、久し振りとなると、どこがいいかなぁ」

気難しい頑固親父にしか見えない荷台の男は、挨拶を受けてもそれに僅かに頷いて返しただけだったが、反応が薄い彼を余所に、キョーコと護衛の貴島はスィーツ話で盛り上がっていた。

───この男は何なんだ!ヘラヘラしやがって!!彼女に近づくな!しゃべるな!笑いかけるな!とっととどこかに消えろ!!

そして、その輪から外されている頑固親父の心の声は、誰に届くことなく、負け犬の遠吠えの様に虚しくその場に捨て置かれたのだった。

第44話につづく

護衛は貴島氏にしましたー!お気に入りなのに使ってしまった・・・。今回も結構書き足しました。それにしても、男二人を名前をガリガリの男等の特徴もつけずに書くのはややこしい。
そろそろ少し忙しくなるので、今後は拍手お披露目時は下書きレベル、こちらの記事でのアップが本番となっていきます。←今更
これまでもそうですが、加筆修正で内容が結構変わっていますので、拍手のみを読んでくださっている方は内容が繋がらない場合があるかもです。面倒をおかけしますが、こちらの記事に移動後も読んでいただけると嬉しいです。m(_ _ )m

*拍手はこちら ✧˖˚⁺\( ̄▽ ̄)/⁺˚˖✧*
↑ ↑ ↑
クリックで拍手できます。
拍手やコメ欄に、感想コメントをいただくと魔人がやる気を出します。←単純