拍手からの移動のパラレルファンタジーです。

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拍手御礼「あの森を目指して 52」

それは幌付き馬車に乗って、次なる店を目指し大通りを進んでいる最中のことであった。

まだ少し遠い前方に、キョーコは大好きな知り合いの姿を見つけた。

もう二度と会えないかもしれないと、彼の人のことを思い出す度に寂しくなっていたキョーコにとって、その邂逅は奇跡であり、これまでの期間と今後の寂しさを埋める千載一遇のチャンスであった。

嬉しくて嬉しくて、早く相手にも気づいてもらおうと、満面の笑みを浮かべながら大声で叫べば、その声に気づいた相手の顔にも驚きが広がる。

その様子を見て、キョーコの笑みは益々深くなった。

しかし、次の瞬間目にした光景により、彼女のその笑顔は険しい顔へと一変した。

「緊急事態です!タカトウ(貴島)さん、移動します!」

「了解!」

キョーコと同じ光景を目撃していたタカトウ(貴島)は、状況を正確に把握しており、質問もせずにその指示に従った。

《馬車のスピードを上げます!このあとはタカトウ(貴島)さんに従ってください!》

《わ、わかったっ》

早口で指示を飛ばされた荷台の男は、急にスピードを上げた馬車の揺れについていけず、その身体を荷台の上に転がしながらも、何かあったのだろうと必死に返事を返した。

キョーコは目的地の少し手前で全力疾走させていた馬を止め、馬車から飛び降りた。

「ちょっと行ってきます!貴方達はここで動かず待機していてください。もし出来るなら自警団に連絡を!」

手綱をすぐ横を並走していたタカトウ(貴島)に投げ渡し、また早口で指示を出すと、キョーコは凄い勢いで前方に走り去ってしまった。

《了解!怪我しないでくださいよ》

そのキョーコの背中に声をかけたあと、タカトウ(貴島)は少し興奮気味の馬を落ち着かせ、そのあと馬車の荷台の上を四つん這いで移動してきた男にも声をかけた。

「ここ、で、待つ。心配、ない」

男の目にも馬車から飛び降りて走り去るキョーコの背中は見えていたが、彼には何が起こっているのか全く理解できていなかった。

───誰かに呼びかけていた筈なのに、誰もいない?

「俺も…行く」

「駄目、です」

何かあったのなら自分も向かわねばとジェスチャーで手綱を渡せと合図するも、タカトウ(貴島)には拒否された。

「動くな、ここ、で、待て。と、いう、指示、です」

「嫌、だ、行く!」

「彼女、の、命令、です!」

大声で駄々をこねる男を、タカトウ(貴島)はこれまで見せなかったキツい眼差しで制した。


「いえーい!俺様便到着ぅ!あっれーー、タカトウ(貴島)さん、あんたの契約主様は?買物?」

二人の間の空気が少し緊迫してきたところで、間の抜けた声と共に、何やら派手な出で立ちの男が乱入してきた。

「コウラじゃないか、俺の雇い主に何か用か?」

知り合いなのか、タカトウ(貴島)は親し気にその男に話しかけた。

「タカトウ(貴島)さん、その呼び方やめてくれませんか?」

だが、相手の男はタカトウ(貴島)のその呼びかけが気に入らないのか、顔を顰めて文句を言う。

「お前の通り名だろう?」

「いやいや、ほら、俺っちにはもっと格好良い通り名があるでしょう?」

「あ、そうだったっけ?じゃあ、カラアゲ?」

「ほらほら」と自分を指差した男は、そのもっと格好良い通り名で呼ばれるのを待ったが、その返事は期待したものではなかった。

「違いますって!確かに俺の血はコウラで、俺の素は薮鳥の唐揚げですけどねっ!そんな通り名はついてないですからっ!」

子供の様に頬をプクンと膨らませたコウラと薮鳥の唐揚げで構成されているらしい男は、ちっとも可愛くないその姿で拗ねながらタカトウ(貴島)への抗議を重ねた。

「ふーん。じゃあ、アカサメ(赤雨)。何の用だ?」

先程までの緊迫感はなんだったのか、大道芸人の見せるコメディ劇のようなやり取りを続けるタカトウ(貴島)である。

「もーー!タカトウ(貴島)さん、そんなちょっびっとばかしグレてた時代の名前なんて忘れてくださいよ!それより、俺の通り名は、ソンロウ(村狼)だって、いつも言ってるじゃないですかっ!いい加減覚えてくださいよ」

真剣な顔で自分で付けたお気に入りの通り名を呼んでくれと懇願するも、タカトウ(貴島)の返答は冷たく、そして正論であった。

「だって、全然通ってない名前だし、ソンロウ(村狼)に伝言よろしくって言っても、お前に伝わらないでしょ?コウラのが通じるんだし、これにしとけって」

「酷ぇよっ!」

ガックリと肩を落とした男の背中には、「超特急上等」という意味不明な文字が派手な刺繍で飾られている。

チンピラ上がりのこの男は、「金匠」に護衛になりたいと志願し、現在伝令としてまだほとんどない信用を積み重ねている最中であった。

「それより、何だ?金匠から急ぎの連絡が入ったんじゃないのか?」

男をからかって遊ぶのに飽きたのか、タカトウ(貴島)は用があるならさっさと言って帰れと言う顔で、男にここに来た理由を問うた。

「確かに入ってますけど、急ぎじゃないです。契約主様にじゃなく、タカトウ(貴島)さんへの伝言で、今日の仕事が終わったら金匠の連絡室に寄る様に、だそうです」

「ふーん。了解。で?宿に伝言で済む用件なのに、何でお前がここに来たわけ?」

「あんたの今の雇い主…あの松の凄玉なんでしょう?俺一度で良いから会って見たかったんですよ!!ねぇ、彼女どこに行ったんですか?」

キョロキョロと周囲を見渡すも、タカトウ(貴島)の契約主である若い女性らしき姿はどこにも見えない。

*凄玉:凄腕、敏腕、切れ者の能力者のこと。

「今、そこ曲がったとこで多分正義の制裁活動中かな?あ、丁度いいや、お前、自警団呼んできてくれ」

「えーー!俺見て来ます!!」

「こら待て、コウラ!俺も見たいのを我慢して任務遂行中なんだから、お前も我慢しろー!」

「やですぅー!!」

タカトウ(貴島)の制止虚しく、“そこ曲がったトコ” に全力疾走したコウラこと本名村雨は、目の前に飛び込んできたその光景に目を見張った。

「松の凄玉、スゲーーー!!」


第53話に続く。

主役のキョコさんは、只今正義の制裁活動に忙しいので「出演はあとにして」とのことです。
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「あの森を目指して」では、まずダーーッと勢いで書いたものを拍手御礼として出し、一晩おいて頭を冷やしたあと(?)、加筆と修正をした上でアメバ記事で公開し直しています。加筆時に設定が変更になることも多々あります。拍手のみを読んでくださっている方は内容が繋がらない場合があるかもです。もしお時間が許す様でしたら、外に移動後もまた読んでいただけると嬉しいです。m(_ _ )m ←またというところが欲張りですみません。