『謎の女に聞かれていました』のおまけです。

 

拍手内小話な蓮さん浮気シリーズ

第一弾:『彼女は怒ってます』・1話完結

第二弾:『謎の女は怒っています!』 / 『謎の女に聞かれていました』 / おまけ『その時彼女は…』

 

 

『その時彼女は…』
 

「…ミスター?」

 

ノックなしで静かにドアを開けた看護師は、その豊満な身体を室内に滑り込ませた後、またそっとドアを占めた。

 

「…ミスター、起きてます?」

 

「ああ…」

 

入院初日に嫌ほど眠ったせいか、蓮はまだ起きていたようだ。

 

──────ハァ。

 

予想外というより、予定通りの展開。

 

それに、俺はガッカリしていた。

 

 

そこそこお金を持ってそうな超絶イケメンな蓮を、お色気ムンムンなハンター系看護師が放って置く筈がない訳で…。

 

やってきた看護師は、拒否されるなんて考えはチラリとも思い浮かべぬのか、蓮にせまるというより、まるで恋人同士かのように振舞っている。

 

蓮の方はと言えば、両手を広げて大歓迎という感じではないが、嫌悪する様子は見せない。

 

どちらかというと、眠れる夜の暇つぶしとして、受け入れる気満々に見える。

 

 

蓮の部屋の壁、2箇所に設置されている、高性能なカメラとマイク。それに繋がったこれまた高性能な2つのモニターは、蓮と看護師の言動をしっかり “俺達” に見せつける。

 

 

こっそり部屋に忍び込んだつもりの看護師の第一声「…ミスター?」を合図に、俺達の部屋は緊迫した空気に包まれていた。

 

「きょ…キョーコちゃん?そろそろ止めに行かない?」

 

「まだもう少し…」

 

「でも…」

 

「ちゃんとあの人の本性をこの目に焼き付けたいんです」

 

お色気アピールは別にされても良い。

 

胸を強調しながら、言葉だけで誘われているだけなら、それは日本でも日常的に見慣れた光景だったし、特に気にしない。

 

だけど、日本での蓮は、例え人の目のないホテルで、夜這いを受けたとしても、絶対に拒否する男だった。

 

キョーコちゃんという恋人が出来てからは、関係を拒否しても「キョーコに誤解されたら大変!」と予防線を張りまくっていたぐらいだ。

 

しかし、今隣の部屋にいる、記憶をなくした蓮は…

 

 

──────れ〜〜ん!!ヤバイって!!お前このままだと確実にキョーコちゃんに捨てられぞ!!

 

 

看護師のリードを拒否することなく、下着からはみ出るサイズのその生の胸に手をおいている男の姿を、「目に焼き付けている」彼の恋人の顔は真剣だった。

 

キョーコちゃんはもう、自分が蓮の恋人だなんて思ってないよな。

 

覚えてないだけなら、記憶喪失なんだから、仕方がない。

 

だけど、他の女性にはそうでもないのに、恋人である自分だけを、見下した感じで拒否されたら、積み上げてきた愛がどれほど大きくても、幻だったとしか思えないだろうと思う。

 

記憶をなくしていない彼女は、「ちゃんと現実を直視しないと駄目だと思うんです。だから、目を背けずに、“彼の愛は幻” だったのだと、自分の愚かな脳みそに焼き付けたいんです」と、俺が蓮の不貞を事前に止めることを反対した。

 

本当は、看護師など入り込めないようにしたかった。

 

入ってきても、蓮と会話などさせず、追い払いたかった。

 

だけど、初日に怒って日本に帰っても当然なキョーコちゃんがここにいるから…。

 

傷ついてボロボロな癖に、愛なんてなかったんだと自分に言い聞かせながらも、記憶喪失な蓮が心配で、ホテルを立ち去れないキョーコちゃんがここにいるから…。

 

キョーコちゃんの望みは叶えてあげないといけない…と、思った。

 

 

だけど、敦賀蓮のマネージャーとして、最後までさせる訳にはいかない。

 

だから、俺は一人で、隣の部屋に向かった。

 

 

 

 

蓮は、あの看護師を受け入れた。

 

それだけわかれば…そこまで見せれば、キョーコちゃんの目的は叶うだろう。

 

あとのことは心配だが、それをなんとかするのは俺の役目じゃない。

 

 

──────蓮。

 

全てを思い出した時のお前を想像すると、可哀想な気もするが、記憶がない時だってお前はお前。

 

キョーコちゃんが言う “本性”が、俺の知らぬところで発動され得る未来の危機より、ある程度はフォローが利きそうな今の危機の方が、俺としては有難い。

 

 

だから、蓮。

 

思い切り、後悔しまくれば良い。

 

そして、死ぬ気で頑張れ。

 

マネージャーとして、骨は拾ってやるから、さ。

 

 

だから、蓮。

 

悔いて悔いまくって、万が一もう一度記憶を失うなんてことがあっても今度こそ絶対に忘れない様に、魂に刻みつけておくんだぞ?

 

マネージャーとして、お前達のお兄ちゃんとして、これだけは言っておく。

 

二度目はないと思え!

 

 

 

 

「ただいま。じゃ、さっきの続きしても良いかな?」

 

「はい」

 

部屋に戻った俺は、キョーコちゃんを相手に、何事もなかったの様に、少し前までしていた仕事の打ち合わせを再開させた。

 

キョーコちゃんは疲れた顔をしていたが、泣きも怒りもせずに、淡々と俺との打ち合わせをしてくれた。

 

付き添いの為の泊まり込み部屋は、セレブな病人が、仕事の打ち合わせをしたりするのにも使える様にと、居間の様な応接室と、ツーベッドルームで構成されていた。

 

打ち合わせ後。

 

カメラのモニターがあるその応接室から、個室のベッドルームに消えたキョーコちゃんが最後に見せた横顔は、どう見ても泣きそうなもので…

 

俺は、俺なりの仕事をせねばと、こっちの社長であるコウキさんと、本社の社長であるあの人に、本日最後の報告書を送ってから眠りについた。

 

 

──────蓮。

 

俺が拾えるサイズの骨が…残っていると良いな。

 

おやすみ。

 

Fin

 

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おまけのおまけ「蓮くんがなくしたモノ」あらすじ(のみ)

着飾ったキョーコがアメリカの売れっ子俳優に送られ、ホテルに帰って来て、ハグされたり口説かれたりしているのを目撃した蓮くん。その瞬間、「俺のキョーコに触るな!」と言う感情が凄い勢いでわきだします。

そして、その強い感情をきっかけとして即座に記憶を取り戻した彼は、キョーコを売れっ子俳優な男から引き離し、抱きしめようとする…のですが。

キョーコが冷たい、冷たい。

記憶が戻ってよかったと喜んではくれるけれど、コウキとヤッシーもなんだか冷たいし、あたりがキツイ。

記憶喪失の間の記憶はぼんやりしていた蓮くん。

もしも日本に帰った後も記憶が戻らない場合のために、ホテルで撮影していた監視映像は、日本の医師に見せる資料として、ちゃんと録画のコピーがありました。

どうしてみんなが冷たいのか、どうしてキョーコに捨てられそうになっているのかわからない蓮くん。あとで資料映像を見せられ、真っ青に。

その後は、すっかりなくした「信頼と愛」を取り戻すのに苦労する様です。

ある意味鉄板な記憶の戻り方なので、詳しい部分はご想像にお任せします。(≧∀≦)