湿った地面をしばらく歩くと、草原に着いた。
 よく観ると、花のつぼみもいくつか見える。
「着いたぞ。ここが俺のお気に入りの場所」
 その草原には、天井が吹き抜けており微かに夕日が差し込んでいた。
 それを観て、てっきり怪訝な表情をするかと思ったが、アクアの反応は以外で一瞬驚いた後、嬉しそうに笑った。
 この洞窟への日の差し込み加減からすると、もうすぐ日が完全に沈む。
 一人草原の中へと歩を進めていたアクアに近づき、俺は彼女の両目を両手で覆い隠した。
 アクアが、顔を上げる。
「少し待ってろ。絶対びっくりするから」
 日は完全に沈み月の光が少しずつ差し込んできた。
 すると、草原の中のつぼみがひとつ、またひとつと白い花を咲かせていった。
 俺はそっと両手をアクアから離した。
 後ろに居るから見えないが、きっと彼女は驚いてくれてるに違いない。
「小さい頃、迷子になって歩き回ってた時に見つけたんだ。月光草といって、月の光に照らされて咲く夏の花らしい。
 この辺じゃこの場所ぐらいでしか咲かない、珍しい花だ。綺麗だろ?」
 アクアは振り返り、俺が今まで見た中で一番綺麗に笑った。