※アクア編、久しぶり。話の展開の都合上、こうなったんです。


「アリエル、よく聞いて。
 結婚式の日、王子の心臓をこのナイフで刺せば、貴方は人魚に戻れるわ。
 死なずにすむのよ」
 ナイフと共に差し出されたのは、生きる希望と、貴方が居ない絶望。

 エリックを殺して、私が生きるのがいいのか。
 私が死んで、エリックが生きるのがいいのか。
 エリックには、生きていて欲しい。
 そして、笑って、幸せになって欲しい。
 だけど、死ぬのが怖いことも、変わらない。
 私は、どうすればいい?
 私は、どうしたい?
「アクア、居るか?」
 ふいに聞こえてきたのは、エリックの声。
「明日、お祭があるんだ。六時に城の入り口まで来てくれ。じゃあ、待ってるから」
 そう言って、エリックは去ってく。

 祭の夜、私は一人部屋に居た。
 今は、エリックに会いたくなかった。
 だから、私は祭には行かない。行けない。
 お城の中はやけにしんとしていて、反対に街は賑やか。
 お城の人は皆、祭に行っているから、今お城には私しかいない。
 ドサッ。
 ドアの向こうから、音がした。
 今日は、城の人は皆祭りに行っているはず。
 城に残ったのは、私一人のはずなのに。
 私はそっと、ドアを開けてみる。
 開かない。
 ドアの前に何かがある。
 それは、いびきをかいている。
 ドアの前で、誰かが寝ている。
 なんで、こんな所で寝ているんだろう。
 とにかく起こそう。
 こんなところで寝ていたら、風邪を引いてしまう。
 私は、ドアを力いっぱい押して、何とか人一人通れるようにする。
 なんとか廊下へ出る。
 廊下で眠っていたのは、カイトさん。
 彼は、廊下でいびきをかきながら気持ち良さそうに眠っている。
 私は、その体を思い切り揺らす。
 彼は、うっとうしそうに私の手を払おうとする。
 ゆさゆさ。
 ゆさゆさゆさ。
 私は、彼を揺らし続ける。
 しばらくして、彼は薄く目を開けた。
「んぁ、誰だよ。……じょ、嬢ちゃん!?」
 彼は驚いた様子で飛び起きる。
 幽霊じゃないのだから、そんなに驚かなくていいのに。
 彼は二回大きく瞬きして、
「本当に嬢ちゃ……夢じゃないよな!?」
 私はとりあえず首を横に振る。
「出てきてくれたのか! そうか! そうか!」
 彼は、嬉しそうに私の右肩を強く叩く。
 痛い。
「いよっしゃ、今からでも遅くない! 祭行くぞ!」
 えっ?
 彼は私の腕を強く掴むと、ごういんに引っ張っていく。
 私は流されるまま、街中へと向かった。