※アクア編と同時更新。アクア編を先に読むといいかもしれない。
もし、君に一言伝えられるのなら、ありがとうと伝えたい。
君のおかげで、少しだけ人を信じられそうだ。
だから、君が俺を忘れても、俺は覚えていよう。
そして、ここで祈ろう。
君が、この空の下で笑っていてくれることを。
結婚式から一夜明けた。
俺は、波の音と塩の匂いの混じった風に起こされた。
テラスへと通じる窓が開いている。
昨日は確かに閉めたはずなのに。
不思議に思いながら、俺は窓を閉めた。
俺が窓を閉め終わるのとほぼ同時に、
「エリック! 大変だ! 嬢ちゃんがいねぇ!!」
カイト=フォース親衛隊長が飛び込んできた。
城を出て、街中を走り回る。
月光草の花が咲く洞窟、教会、船着場、アクアが人形劇を見たという広場。
彼女が知っていそうな場所、行きそうな場所すべてを回る。
しかし、彼女の姿は見当たらない。
誰に聞いても彼女の姿を見た者は居ない。
走りつかれ、倒れこむように膝をつく。
荒い息を整えながら、俺は全身が濡れている事に気がついた。
視界もいつの間にか悪くなっている。
雨だ。
いつの間にか、雨が降っていた。
それもかなり強い雨だ。目の前が見えない。
不意に、全身を打つ雨が収まる。
しかし、相変わらず視界は悪い。
見上げると、ダイアが傘をさしていた。
「風邪を引いてしまいます。帰りましょう」
彼女は、優しくそう言った。
その言葉に、これ以上探してももう見つからない、そういう意味が込められてるのを感じる。
彼女のその考えを否定するように、立ち上がろうとするが、足が痛くて上手くいかない。
次から次へと、涙が溢れ出していた。
地面に落ちて、雨水に混じる。
「……ッ!」
俺は、その場で声を押し殺して泣き続けた。
それから、いくらかの時が過ぎ、夏が終わろうとしていた。
アクアが今どこでどうしているのか、俺は知らない。
ただ、元気でいてくれればいいと思う。
笑っていてくれればいいと思う。
幸せでいてくれたなら、それでいい。
波の音に混じって、時折彼女の声が聞こえる気がする。
心配しないで、私はここに居ます、と。