暑い夏の日。

 僕は、こんなに暑い日に彼女をデートに誘った。

 行った先は、映画館。

 涼しいし、ちょうど観たい映画があったからだ。ちなみに、僕のじゃなくて、彼女の。

 そして今、ぼくらは映画を観ている。

 それにしても…………。

「ふっふっふっ、良くぞココまで来たチャレンジャー!! 今日こそ貴様らを闇に葬りさってくれるわ!! はーはっはっはっ」

 スクリーンの中の怪人が言った。

 そう、僕らは今、戦隊物の劇場版を観ている。

 何故、戦隊物!? 嫌じゃないけど。

 ふと、彼女を見ると、両手の拳を強く握り締め、映画に魅入っている。

 僕は、スクリーンに視線を戻した。

 ああっ、なんかいつの間にかチャレンジャーピンクが捕まってる!!

 マズイ、これじゃ手が出せない。

 どうするんだ、チャレンジャー!!

 んっ、何か来た。

 あれは、チャレンジャーブラック!?

 おおっ、ブラックがピンクを助けた。ナイスだ、ブラック。

 やったぞ、よし反撃だ!!

 ……とまぁ、僕もいつの間にか魅入っていた。

 ここからが、チャレンジャーの反撃なのに……。

 気づくと彼女は寝てるじゃないか。

 小声で起こす僕だが、彼女は熟睡で起きない。

 でも、このままじゃ彼女が悲しむ。

 どうするよ?

 どうするよ?

 どうするーー?!(ライフカード風)

 ひとまず落ち着きたいが、なかなか落ち着かない。 

 前のおじさんが、ブッブッブッブーーーとまるでブタの鳴き声のようなオナラをした。

 そのオナラの匂いで、熟睡していた彼女が目覚めた。

 起きた彼女はスクリーンを見て、

「やだっ! いつのまにか、ブラックが出てるじゃない! ああ、私のバカ、バカ、バカバカ! ブラックの登場シーンを見逃すなんて!!」

 映画館なので、あくまで小声で彼女は叫んだ。

 とりあえず、彼女がブラック好きなのは分かった。

 よく分かった。

 確かに、格好よかったし。ピンク助けるシーンとか。

「しかたない、もう一回見るわよ」

 彼女が呟く。

 マジか!

「あっ、寝ちゃった私が悪いんだから、料金は私もちだからね」

 ……いや、そういう問題? 別にいいけど。

 そんなこんなで、僕は

「劇場版チャレンジャー~ピンクとブラックとレッドのドキドキ△関係!? 巻き込まれ体質の不幸なブルーは、今日も苦労が耐えない! 空気なイエローとグリーンは、目立つ為孤軍奮闘!? がんばれ、めっちゃがんばれ~」

 を二回観ることになった。

 まぁ、楽しいからいいけど。

 こうしてデートは、同じ映画を観るのであった。