「ところでさ」
月征と直が帰ってしまってから、やたら濃厚そうなチョコのケーキをつつき合ってるふたりに、周は目を向ける。
「そっちはそっちで仲よさげだよね」
素朴な感想を投げると。
「おうっ」
「全然っ」
全く相反する答えが、カンマ1秒狂わず同時に返って来た。
はっきり言って、陽向の彼女が、ツンデレ美少女、って言うのも、周には意外だった。陽向にはもっと、性格の良さそうなハキハキした子の方が似合いそうだし、中学の頃までは、そういう路線だった気がするのだが。実ってた試しはないが。
「詩信ちゃん…だっけ」
でも、ホント可愛い。陽向の彼女でなければ、メアドくらいは差し出してるところだ。
「…あたし、初対面の男の人に、ちゃん付けで呼ばれるの好きじゃないです」
周の呼びかけに、詩信は目線ひとつ動かさずに言ってのける。
(何、この顔だけ可愛いけど、やたら可愛くない女)
15分程して、詩信がトイレに立った際に、周は思わず陽向にぶちまけてた。
「お前、あの子と何処が良くて付き合ってんのさ」
「え?」
あのあと周なりに譲歩して、彼女との距離を詰めようとしたのだ。「羽田さん」って呼んだし、話題も当たり障りのないものにした。
でも、周の声はほぼ尽くスルーされたのだ。「彼氏の親友」に対する詩信の態度は、かなり最低だ。こういうのって、女の子本人だけでなく、彼氏自身の評価も下げると思うんだけど。
けれど、周の疑問に、陽向は首を傾げる。
「しーちゃん、めっちゃ可愛いじゃん」
「見た目だけだろ」
けんもほろろに、周が言い返すと、陽向はちょっと複雑そうに笑う。確かに陽向への態度は普通だから、彼氏としては優越感に浸れて楽しいのかもしれない。
「ん~まあ、ちょっとツンツンしてるけど」
ちょっとどころの話じゃない。極寒の地の朝の、つらら並にとんがってる。
「でも、俺はしーちゃんの外見で好きになったんじゃないから」
「説得力ね~」
「まあ、いいじゃん」
陽向は結局その話をうやむやに切り上げる。
戻ってきても、「ここ、空調効きすぎだよね~」とか「このケーキ甘すぎて、もう無理」とか。詩信はワガママ放題で、陽向はワガママお嬢様に使える執事みたいにしか見えない。
「じゃーな、周。また会おうな」
「おうっ。って、お前金沢だろ? 次いつ帰ってくんのよ」
別れ際、駐車場で陽向に大きく手を振って、果てしなく遠そうな約束を聞かされて、周はノリでツッコんでしまう。
けれど、その言葉に顔を翳らせたのは、陽向ではなく詩信だった。
(あ、やべ…)
遠恋の彼氏がいる彼女に聞かせる言葉じゃなかったか。
「へーきっ」
さっき周に向けて、振った手で、今度は陽向は詩信の手を繋ぐ。そして周に向かって大声で返す。
「GWには帰ってくるから」
そんなしょっちゅう往復してんだ。あ、まあ、金沢新幹線も出来たから、かなり近くなったけど。
「ひなちゃん、ホント?」
「うん。今、決めた」
陽向の断言に、詩信は少しだけ笑った。あー、何だよ、お前、ちゃんと愛されてるんじゃん。
「じゃな」と踵を返して、詩信と陽向は仲良く手を繋いで帰って行く。
あーあ、俺も彼女欲しいなあ。
誰か、いないかなあ。ラインの友達のとこには、女の子いっぱいいるのに。ちょっと虚しい気持ちで、その一覧を眺める周だった。