詩信の髪を撫でながら言うと、詩信は陽向を真っ直ぐに見上げた。

 

 

(…大丈夫、って思ったのに。大好き、なのに)

 

見ぬかれてた強がり。彼との壁をまだ壊せないでいる自分が悔しい。昨日までの自分を越えたいのに。
過去に囚われてる自分と決別したいのに。

 

 

「…ご、ごめんなさい…」

「なんで謝るのさ」

 

詩信の髪に大きな手を差し入れて、陽向は詩信の頭をぐっと自分の肩に寄せる。

 

 

「もっと自然にしーちゃんの気持ちが俺に寄り添ってる時でいーよ」

 

物分りの良すぎる台詞を陽向は言って、詩信の頭をポンポン叩く。

 

笑って、そういう陽向は大人だ。その優しさと大きさに詩信は包まれて守られて。それなのに、自分はこの人に何もしてあげられない。

 

「ひなちゃん大好き」

「うん、俺も」

「めんどくさくない?」

「俺、めんどくさい奴に耐性あるから」

 

ぷっ。半泣きだったはずなのに詩信は吹き出してしまう。いつも仏頂面の眼鏡の男が自然に浮かんだ。

 

 

「…直ちゃんたち、どうしたかな…」

「壁越しにじっと覗いてるスタンプでも送りまくってみる?」

「いいです」

「しーちゃん」

「何ですか?」

「ひとつだけお願いがあるんだけど」

「はい」

な、なんだろ。詩信が改まって陽向を見ると、陽向はちょっと気恥ずかしそうに詩信の右肩に手を載せて、耳打ちしてきた。

 

「一緒に寝てもいい?」

 

 

 

陽向の隣で詩信はすぅすぅと寝息を立てて眠ってしまった。詩信を起こさないように、身体の向きを変えて、ベッドマットに頬杖をついて、その寝顔を見つめた。

 

(可愛いなあ…)

 

俺、今絶対にやにやしてる。誰も近くにいなくて良かった。

普段、あんまりじろじろ見ると、詩信は嫌がるから、こんな風にひとつひとつのパーツを確かめるように眺めるのは初めてかもしれない。

 

陽向の童貞卒業はまた先延ばしになってしまったが、それでも詩信のこの寝顔を見れただけで、陽向は満足だ。

 

男性恐怖症の詩信が、同じベッドに陽向と身を横たえ、あまつさえ眠ってしまえるのだから、彼女の陽向に対する信頼と愛情は確かなもので、今はそれだけで十分だと強がりじゃなく思える。

 

 

(メリークリスマス、しーちゃん)

 

ちゅっと頬に唇を落として、陽向はゆっくり起き上がる。

 

詩信はぐっすり眠ってしまっているが、陽向は興奮状態で、とても眠るどころの騒ぎじゃない。

 

 

(…とりあえず、トイレ行ってこよ)