「…けいちゃん」
「ん? 贅沢言ってごめんなさい」
車の助手席で、あたしは小さくなって言う。
安易に車おねだりなんてするんじゃなかった。
本体だけでなく、自動車税とか、オプション品とか、あれもこれもであんなに値段が跳ね上がるなんて、思わなかったんだもん。
「ん? もう1軒寄ってみる?」
「え」
そう言って、けいちゃんが連れてきてくれたのは、日本人なら誰もが知ってる大手メーカー。
こっちも、ショールームは明るくて、そして奥にはキッズスペースなんかもあった。幼稚園くらいの男の子と女の子が、積み木で遊んでる。
「いらっしゃいませっ。はい、どういったものをお探しですか?」
あたしたちが中に入って、きょろきょろしてると、奥から、ワイシャツとスラックス姿のお兄ちゃんが、威勢よく声を掛けてきた。な、なんか、魚やさんみたい…。
「えっと…コンパクトカーかな」
それでしたら…と、ずずいっと、けいちゃんと同じくらいの男の人は、外に展示してある車両を、さしてドヤ顔してみせた。
「おすすめは、あれです。今、日本でいちばん売れてる車。ハイブリッドですし、お値段もお手頃」
ブルーのカラーリングの派手な車。
あれなら、あたしでも知ってる。CMでもよく見るし。そっか、いちばん売れてるのか。
「リアも3人座っても余裕ですし、コンパクトで小回りも利きますし、燃費もいいですよ」
冷静に車の外観を眺めてるけいちゃんに、ウリを熱弁してくる。
「けいちゃん、この車、安いねっ」
フロントウィンドーに貼られた値札、さっきのディーラーさんで見たのより、100万以上安い!
「千帆、そういうこと、大声で言わないの」
あからさまに言ったもんだから、見栄っぱりのけいちゃんに怒られた。う、だって、感激するくらい、安かったんだもん。
「日本車のコスパの良さは、世界随一ですから。ご予算とかありますか? 今、残価設定型っていう、お求めやすいプランもありますよ。良かったら、見積もりお出ししますよ」
「あー、じゃあ…お願いします」
「下取りのお車、ありますか?」
「古いんで、値段つかないと思いますけど、あのゴルフ…」
「わっかりました。頑張らせていただきます」
もう一度店内に戻って、あたしとけいちゃんは淹れてもらったコーヒーを飲みながら、見積もりが出来てるのを待つ。
値段つかないと思います、ってけいちゃんが言ったゴルフは、思った以上の査定額がついていて、しかも車両本体価格も…。
「すご~い。けいちゃん、すごい、20万円も値引きしてあるよ。それに、今ならオプション10万プレゼントだって。あたし、ナビつけたい。え? これナビついてるの? 嘘~~~」
あたしはテンション全開になって、けいちゃんに。
「…ちょっと、千帆、黙ってて」
低い声で、そう制されてしまう。
う~、だってだって。
無理、って一度諦めかけたものが、やっぱりイケるかもって、夢がもう膨らんできた気分なんだもん。
商談は、終始車屋のお兄ちゃんが押し気味で話してて、けいちゃんは柔らかくそれを聞いてる。
けいちゃん自身は、この車が欲しいのか、気に入ってるのか…。横で聞いてても、あたしにも掴めないくらい。
「家に持ち帰って、検討します」
そう言って、けいちゃんは今日2軒めのディーラーから、車を出した。
「けいちゃん」
「ん?」
「ホントに車、買うの?」
あたしが聞くと、けいちゃんはふって、笑う。「何だよ、お前が言い出しっぺのくせに」って。
「や、せっかくお買い得の車なのに、けいちゃん、あんまり乗り気じゃない感じだったから」
「だって、お前、こんなフラッと入ったとこで、即決なんてしたら、向こうの思うつぼじゃん」
「え、そうなの?」
「そうだよ。焦らさないと」
…そ、そうなのか。そういうものなのか。
お洋服を買ったり、スーパーでの買い物とは、違うんだなあ、車って。
to be continued…
まだ、続くんかいっ、って怒られそう(;'∀')
このSS、珍しくこのブログ画面に一発書きしてるので、紗夏自身にも、あとどれくらいで終わるのか、見当もつきません。
お遊びなんで、お暇な時にでも、付き合ってください。
そういえば、PTAの仲間うちで、車買い替えの話になって、したら7人中3人がここ1か月以内に車買ってて、しかも2台は同じ車だった!
なんという偶然…(;゚Д゚)
こういうことってあるんですね。
何となく、だけど。
『日本一売れてる車』には、けいちゃんは乗らなそうな気がしてる紗夏です。
その車がどうこうっていうより、みんなが乗ってる、っての嫌がりそうじゃない?( ゚∀゚)
ちなみに、紗夏の家で買ったのは、
だから…のほづみんと同じ奴。
と言えば、わかる人にはわかってもらえるかな?(*´艸`*)
んでは。
おやすみなさ~い。