「わー、直ちゃん可愛い」

着替えて出てきた直を見た瞬間、
詩信はさっそく、直にスマホのカメラを向けてきた。


「記念撮影しよっ、直ちゃん」

カメラに収められたのは、
三角帽子にだぼだぼした黒のワンピース。魔女姿の詩信と、
猫耳カチューシャに顔には髭のペインティングまで施した直。


(うわ~、こんなんで、クラの演奏なんてしたくないよ)


でも、消極的なのは直だけで、みんな割と楽しそうだ。

三上は何故か古式ゆかしい日本の幽霊。鳥居はフランケン。
和洋入り乱れて、統一性はないが、異様な集団だということだけは確かだ。


『間に合いそうだったら、始まる前にカオ出すよ』

そう言っていた月征は未だ現れない。


月征先輩には会いたいけど、このカッコ見られるのは、ちょっと…いや、かなり嫌。


「みんな準備出来た~?」

顧問の真弓が、部員たちに声を掛ける。
真弓の扮装は上からすっぽりシーツをかぶったみたいな、白いお化けだった…タクト、振りにくくないのだろうか。


ちょっと…いや、かなりいつもと違う空気と衣装で、直たちはステージに立った。


ちょうどその頃、月征は電車の中で、じりじりしながら、時計を見ていた。

(やべ、間に合わねえ)

直たちのステージの開演時間になるところだ。


(本当なら今頃、とっくに母校について、直の仮装をからかうつもりだったのに)

前の電車がホームで人と接触事故を起こしたとかで、この電車はかれこれ20分以上、緊急停車したままだ。

ったく、どこのどいつだよ。舌打ちしたところで、電車が動くわけでも、時間が止まるわけでもない。

直に一報入れておこうかとスマホを取り出したが、よく考えたら、本番前にスマホなんてチェックする時間も余裕もないだろう。

(まあ、俺がいなくたって、大丈夫なんだろうけどさ)

寧ろ来ないでくれ、って言われたし。

満員の電車で手すりを握ったまま、月征は深く項垂れる。そこに再び車内アナウンスが流れた。

事故の処理は終わって、間もなく電車は安全確認を終えたのち、動き出すという。車内全体にほっとしたため息が溢れる。

動き出せば、ここから桜花の最寄り駅までは10分。駅から学校までが10分。

(…アンコールくらいは聴けるかな)


しばらくして電車は動き出し、月征は予定より30分遅れで、駅にたどり着く。

滅多に走ったりしないが、ほぼ全力疾走で彼は懐かしい母校へ向かった。

ステージが始まっても、月征の姿は、講堂の何処にも見つからなかった。

来ないで、とは言ったものの、あれだけ来る気まんまんだった彼の姿が見えないのは、直の心に不安を生む。

予定のキャンセルなら、絶対に連絡は入れてくる男だ。

(…どうしたんだろ、何かあったのかな)


いつもなら先頭から3~4列目の中央やや左、直の席のほぼ正面に陣取ってるから、すぐわかるのに。
2曲目の出だしが半拍遅れそうになって、直は慌ててキィを押す。

直のステージ上から見つけられないだけで、ほんとは後ろの方にいるのかもしれない。

ううん、今は演奏に集中集中。

もう客席は見ない。直はお化け姿の真弓を見上げた。

着ていた薄手のコートは暑くて、途中で脱いでしまった。

腕にかけたまんま、月征は久しぶりに母校の校門をくぐる。

乱れた呼吸を整えながら、講堂の方に歩いていくと、在校生らしい男子学生の集団とすれ違った。


「吹奏楽のステージ面白かったな」
「ああ。演奏うまかったし、衣装可愛かった。ああいうのってどこで調達してくるんだろうな」

会話から察すると、どうやら吹奏楽のステージを見ていたらしい。
通り過ぎざま、何気ない顔をしながら、月征はその会話に聞き耳を立ててしまう。


「今、割とどこでも売ってるぜ。仮装用衣装。誰可愛かった? 俺、魔女の子一押し」
「あー、うん、魔女の子可愛かった。あと黒猫の子、スタイル良かったなあ」
「ああ、挨拶立った子ね。あれ部長だろ?」
「そなの? あーでもそうだよな。挨拶してんだから。すっげー挨拶たとたどしくて、それもなんか
ご愛敬って感じで」
「カミカミだったもんな~」

直は恥ずかしがって教えてくれなかったから、月征は直がどんな仮装をしていたか知らない。
けれど、彼らの話の流れから察すると。


(直が猫だよなあ…)

自分の彼女が、こういうチャラそうな男子の間で話題になってるのが、微妙に面白くない。

講堂からはまだ音楽は鳴ってる。この学生たちは途中で席を立ってしまったのだろう。
月征は再び走り出し、講堂に飛び込んだ。

 

 

 

長くなってすみません…(;´・ω・)

あと1話…今日中に終わるかな。

 

GTの方もさぼっててすみません。

こっちもぼちぼち…がんばります。

 

 

何はともあれ、ハッピーハローウィーン(*´▽`*)

 

…いや、うちは仮装もパーティーもしないけど。