正月休みは3日しかなかった。


仕事納めの30日の夜、陽向は最終の東京行きの新幹線に乗り込んで、旧友の月征の家に転がり込む。

年末の忙しい時の来客を、家族ぐるみで受け入れてもらい、31日はその月征と過ごし、元旦は月征と直、それに詩信も混ざっての初詣。このメンツで行くのも、すでに4回目、年中行事となりつつある。


2日の夕方、涙目になっているのに、それでも「泣いてない」と言い張り、「恥ずかしいからやめて」と別れ際のキスさえ許してくれない詩信と別れて、この街に帰ってきた。

新幹線の車内と違い、外は身震いする程寒い。
コートのポケットに突っ込んだままになっていた手袋をはめ、脇に雪が寄せられて、狭くなった舗道をひとり歩く。


まだ三が日の夜のせいか、すでにシャッターが降りている店が多く、人通りはほとんどない。
冬が寒く、あったかい季節も雨が多い。陽向がこの街にきて、もう3年になる。
慣れた…と言うほどではないが、こっちでの友人も出来たし、仕事も順調だ。
新幹線が出来たことで、詩信との遠距離恋愛も、ちょっとだけ距離が縮まった。

望んで来た街ではない。けれど、静かに――そして、ゆっくりとこの街に溶け込んでいる自分を、最近強く感じる。
新幹線の窓から、見慣れた景色が見えた時、陽向は帰ってきたな…と、安堵感と懐かしさを覚えたのだから。

 

父が亡くなってから、身を寄せた母の実家は、古いが広い。
駅からの帰ってくる時は、勝手口の方が近いため、陽向は裏から入って、そのドアを開ける。

 

 

「ただい…ま…」

言った瞬間、陽向は固まって、次の句が継げなくなった。

 

 

 

3日ぶりに帰ってきた陽向が見たものは、キッチンのシンクに浅く腰掛けて、男の首に腕を絡め、その男の唇を受け止める母の姿だった。


息子として、どう対応するのが適切だったのかはわからない。
けれど、陽向にはそんなことを考える余裕すらなく、脊髄反射で出てきた言葉を、大声で叫ぶ。

「な、なにやってんだよ、母さん」
「あらやだ、陽向、お帰り」

絡めあった唇を解き、バツが悪そうに息子の方を見て微笑んだ母の表情が、こんなにも醜く思えたのは初めてだった。