唐突過ぎて、親友の言葉の真意を測りかねた。

「こっちってどっち」
「だからこっち」
まるでコントだ。陽向が思ったことは、月征も思ったのだろう。
くすっと笑ってから言う。

「元々、永住するつもりで、そっちに行ったわけじゃなくてさ、
おばさんが心配だっただけだろ?
だったら、おばさんが再婚するなら、お前ももう一度自分の人生考え直してもいいんじゃないか?」
「……」
陽向のもやもやした気持ちに、風穴を開けてくれるような、月征の言葉だった。
「ま、羽田以外に、向うに現地妻でもいるんだったら、別だけど」
「いねーよ」
逆に自慢するけど、まだ童貞だから。と、受話器口でがなると、「別にそんなこと聞いてない」とそっけなく流された。

自分はいいよな、大学生になった彼女といつでもいちゃいちゃラブラブ出来て。
この無表情無感情男が、どうやって彼女口説いてるんだから知らないけど。

月征の彼女は、陽向の彼女の詩信の親友だ。
詩信から、月征と直が卒業旅行の北海道に行ったことまで、ちゃんと陽向の耳に入ってる。


「俺が戻ってきたらさ…しーちゃん、喜ぶかな」
「しっぽ振って喜ぶようなキャラじゃないけどな」
「まあね」
態度と感情が直結しない詩信の性格は理解してる。

けれど、陽向の気持ちは、月征に電話する前と、天と地ほども異なっている。

もちろん、地元に帰るといったって、即実行になんて移せない。
住むところも、職場も。一から、全部探さなきゃいけない。
就職して3年になるが、陽向の貯金なんて、雀の涙だ。
でも。母が新藤との暮らしを選ぶのなら、どっちみち自分はいずれ、ひとりになる。

「簡単じゃないけどな」
陽向の思考を読んだかのように、月征が口を挟む。

うん、わかってる、簡単じゃない。
けど、いつか。
母の再婚話で子どもじみた反発を覚えていた自分に、前を向かせ、新たな目標を抱かせるには十分な指針だった。

「俺はさ、いつでも待ってるよ、陽向」

ばかやろう、泣かせるようなこと、言うな。