重なり合った肌から、詩信の鼓動が伝わる。とくとくとく…。少し早めなのは、まださっきまでの興奮が冷めてないからだろうか。

「しーちゃん」
「何?」
「何か俺、今ここで死んでもいいや、って思うくらい幸せ」
「何言っちゃってるの? そんなの嫌っ」

陽向の大げさな感想に、真面目に返してくる詩信が可愛い。陽向に軽く拳を振り上げるその手を、下からぐっと掴んだ。


「――うん、そうだよな。やっぱり俺も嫌だ。ずっとしーちゃんと一緒にいたい」

住む世界が違う、って言ったって、詩信は異世界の住人でもないし、国籍だって同じだ。努力で埋められる溝なら、どんなことだってしてやる。


「…しーちゃんは?」
「あ、あたしだって、ひなちゃんじゃなきゃ…」

嫌、だったのか、無理、だったのか、最後は詩信が口ごもって、陽向の耳には届かなかったけれど、陽向が勇気を得るには十分だった。


「この間さあ、しーちゃんのお父さんと飲んだじゃん?」

家族を話題にした途端、詩信の身体が強張った。陽向の腕の中で、固くなってる背中を撫でながら、陽向は続けた。


「あの時に、しーちゃんと俺だど、『差』があり過ぎる、って言われたんだ」
「ごめんね、ひなちゃん」

ある程度のことは聞いていたのだろうか。詩信は謝ってきた。


「うちのお父さん、頭固すぎなの。ひなちゃん、傷つけてごめんなさい」
「や、しーちゃんが謝らないでよ。俺別に、しーちゃんのお父さんに文句を言いたいわけでも、愚痴りたいわけでもないから。言われた時はそりゃーショックだったけど」
「ご、ごめんね」
「や、だから大丈夫。俺、割とメンタル強いから」
「知ってる」

詩信に太鼓判を押されて嬉しい。軽くチュッと詩信にキスをしてから、陽向はあの日以来、悶々と考えていたことを、頭の中で整理しながら、詩信に語る。


「ショックだったし、何を~って腹が立ったのも、事実だったんだけど。しーちゃんのお父さんは、頭ごなしに反対だとか、無理だとかは、言わなかったんだよね。乗り越える自信はある? って聞かれた」

余りに悔しかったから、一字一句違わず憶えている。自信はある? 確かに疑問形だった。


「…お父さんはひなちゃんを試したってこと?」
「試された…というより、覚悟を見たかったのかな」
「…お父さんやな感じ~」

詩信はぷうと頬を膨らませる。


「しーちゃんは俺の味方になってくれるんだろ?」
「うん」
「じゃあ俺も気合入れないと。しーちゃんがさ、辛い過去を乗り越えたように、俺もがんばる。また今度、お父さんと会う機会作ってくれる?」
「ひなちゃん、何するつもりなの?」
「いや、言われっぱなしで悔しいから、しーちゃんとは絶対別れません、って宣言するだけだよ」
「…ホント?」
「ホント!」

まだ疑わし気な視線を陽向に送る詩信に、軽くキスをして、陽向は囁いた。


「だからしーちゃん、…もう1回ダメ?」

陽向のこの要求は「ひなちゃん、調子乗り過ぎ」と詩信に一蹴されるのだが。