暗く静かな部屋で、陽向の鼓動が聞こえる。アレグロくらいかなあ。メトロノームのカチカチした音と速さに重ね合わせて、なんだかおかしくなる。

そしてそんなことを考えられる自分は、あんまり緊張していないのだと、詩信は気づいた。
陽向の方が緊張しまくって、気を遣いまくっているから、逆に詩信は平静でいられるのかもしれない。


「嫌だったら、すぐに言って。やめるから」

それは陽向の本心で、真実だろうけれど、天邪鬼な詩信にはちょっと困る。
照れ隠しのポーズの「いや」でさえ、陽向は察せず、行為を中断してしまいそうだ。


(ひなちゃんだったら、怖くない、って言ってるのに)


詩信の中の禍々しい記憶は、不思議なくらい思い出さなかった。あの人のことも、近藤のことも――。
と言うより、そんな余裕がないだけかもしれない。

唇だけでなく、首筋や鎖骨にもキスされ、バスローブの上から、詩信の胸に触れられる。くすぐったくて恥ずかしいのに、身体は徐々に熱を帯びていく。


「平気…?」

この期に及んでもまだ陽向は慎重だ。

指先ひとつでも、陽向がどれほど気を遣って、詩信に触れているか、詩信にも痛いくらい伝わってくる。
だけどいちいち頷くのも、雰囲気壊れそうで嫌だったので、返事の代わりに、陽向の首筋にぎゅっとしがみついた。


だが、詩信の肩からバスローブが外され、上半身がほぼ露わになってしまうと、詩信はつい声をあげてしまう。


「…や、ひなちゃん、えっち。見ないでよ」
「え」

暗闇でもわかるくらい、陽向の声は戸惑っている。


「み、見えないよ」
「嘘」
「ホント」

これ以上暗く出来ないしなあ…と、陽向は周囲をきょろきょろする。


「じゃ、じゃあ我慢する」
「ごめんな」

冷静に考えると、見られるよりももっと恥ずかしいことしてるのに、陽向は何故か謝ってきて、ぎゅっと詩信を抱きしめた。これなら見えないからいいだろうと言うことなのだろうか。

詩信の素肌と陽向の素肌が直接触れ合う。


「ひなちゃんの身体のが熱いね」
「…興奮してるからかな、緊張も凄いしてるけど」
「なんで?」
「だって俺、初めてだし…それにここまで長かったから、なんかまだ夢の中にいるみたいで」

夢の中。それなら詩信も同じ気持ちだ。


まさか自分が恋をして、誰かと身体を重ねる日が来るなんて、絶対にないと思ってた。

ゆっくり時間を掛けて、陽向は詩信の身体を蕩かせて、開かせる。陽向のものが、全部詩信の中に入った瞬間、詩信の目に涙が浮かんだ。


「痛い? しーちゃん」

陽向が焦ったように言う。

「ち、ちが…や、痛くないってのも嘘だけど」


痛みが堪えられなくて泣いたわけではない。けれど今の詩信の気持ちを言葉で言い表すのが難しくてもどかしい。


「ひなちゃん、ありがと…」

好きになってくれてありがとう。
付き合ってくれてありがとう。
ここまで待っててくれてありがとう。

いっぱいいっぱい伝えたい感謝を、詩信は涙に滲んだ声で言う。
陽向も少し涙目になって、だけどいつもの爛漫な笑顔でこう言ってきた。


「しーちゃん、それ俺のセリフ」




「嫌だったら、すぐに言って。やめるから」

それは陽向の本心で、真実だろうけれど、天邪鬼な詩信にはちょっと困る。
照れ隠しのポーズの「いや」でさえ、陽向は察せず、行為を中断してしまいそうだ。


(ひなちゃんだったら、怖くない、って言ってるのに)


詩信の中の禍々しい記憶は、不思議なくらい思い出さなかった。あの人のことも、近藤のことも――。
と言うより、そんな余裕がないだけかもしれない。

唇だけでなく、首筋や鎖骨にもキスされ、バスローブの上から、詩信の胸に触れられる。くすぐったくて恥ずかしいのに、身体は徐々に熱を帯びていく。


「平気…?」

この期に及んでもまだ陽向は慎重だ。

指先ひとつでも、陽向がどれほど気を遣って、詩信に触れているか、詩信にも痛いくらい伝わってくる。
だけどいちいち頷くのも、雰囲気壊れそうで嫌だったので、返事の代わりに、陽向の首筋にぎゅっとしがみついた。


だが、詩信の肩からバスローブが外され、上半身がほぼ露わになってしまうと、詩信はつい声をあげてしまう。


「…や、ひなちゃん、えっち。見ないでよ」
「え」

暗闇でもわかるくらい、陽向の声は戸惑っている。


「み、見えないよ」
「嘘」
「ホント」

これ以上暗く出来ないしなあ…と、陽向は周囲をきょろきょろする。


「じゃ、じゃあ我慢する」
「ごめんな」

冷静に考えると、見られるよりももっと恥ずかしいことしてるのに、陽向は何故か謝ってきて、ぎゅっと詩信を抱きしめた。これなら見えないからいいだろうと言うことなのだろうか。

詩信の素肌と陽向の素肌が直接触れ合う。


「ひなちゃんの身体のが熱いね」
「…興奮してるからかな、緊張も凄いしてるけど」
「なんで?」
「だって俺、初めてだし…それにここまで長かったから、なんかまだ夢の中にいるみたいで」

夢の中。それなら詩信も同じ気持ちだ。


まさか自分が恋をして、誰かと身体を重ねる日が来るなんて、絶対にないと思ってた。

ゆっくり時間を掛けて、陽向は詩信の身体を蕩かせて、開かせる。陽向のものが、全部詩信の中に入った瞬間、詩信の目に涙が浮かんだ。


「痛い? しーちゃん」

陽向が焦ったように言う。

「ち、ちが…や、痛くないってのも嘘だけど」


痛みが堪えられなくて泣いたわけではない。けれど今の詩信の気持ちを言葉で言い表すのが難しくてもどかしい。


「ひなちゃん、ありがと…」

好きになってくれてありがとう。
付き合ってくれてありがとう。
ここまで待っててくれてありがとう。

いっぱいいっぱい伝えたい感謝を、詩信は涙に滲んだ声で言う。
陽向も少し涙目になって、だけどいつもの爛漫な笑顔でこう言ってきた。


「しーちゃん、それ俺のセリフ」