この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






死んじゃうなら
2015-10-21 21:10:42
テーマ:クロネコ物語


吐いちゃった。
お腹が痛い。
ニャーニャーニャーニャー………………。

鳴いても
泣いても
お家の中はがらんどう。

台所のフローリングは
吐いたもので
ビチャビチャだ。

歩けなくて這ってたら
お腹も吐いたものでぐちょぐちょになった。

私…………死んじゃうの?
自分が吐いた胃液の上で
小さく鳴きながら
私は横たわる。

ああ
死んじゃうなら
彼の腕の中で死にたいな。

彼が私を抱き上げる。
あの甘い声で
真剣に
何回も
私の名前を呼んでくれるかしら。

語尾が甘く溶ける彼の声。

ねぇ、
音楽ばかり聞いているあなた、
私にはね
お風呂に響くあなたの声が
この世で聞いた
最高に美しい音色なのよ。

彼は
きっと
泣いてくれるわ。
だって
私を見付けて泣いてくれたもの。
「かわいそうに」
って。

少し眉が寄り
唇を噛みしめていた。
私をさする手の甲にポタポタと
涙が落ちた。

細く長い指先に
私が噛んだ傷から血が流れ
真っ赤なアクセサリみたいにきれいだった。

今度は抱き締めてほしいな。

「戻っておいで」って
ギュッと抱き締めてほしい。
その腕の中で
私は打たれたい
その涙の雨に。

そしてね
言ってほしい
最後の最後だから。
「愛してる」って。

抱き締めた私の頭に
そっとキスして
「愛してる
さようなら」って彼が言うの。

カチャン ガチャっ

「ただい……え?!」

あ、二人だ。
ねぇ 私 苦しくてたまらないの。

バタバタと二人が近寄り
大きい人は雑巾を取りに
彼は私に……え?何処行くの?

「やっぱり!
きっとこれだよ。
一昨日のケーキだ!」

ケーキ?
ああ
さっき見付けたあれ?
え?
食べちゃダメなの?

「ばか!
ごみ箱ひっくり返したな?!
なんで食べたりするんだ?!」

え?
かわいそうに、じゃないの?

……………………。

私はお医者さんに連れて行かれた。
注射されて
お医者さんにお泊まりだ。

帰り際
「だいじょうぶ?」
やっと優しいこと言ってくれたけど、

「食いしん坊なんだから。
ごみ箱あさるなんて
恥ずかしいよ。」
って言われた。最後に。

くすん。



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ありがとうございます。



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