この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






抱っこの夜を
2015-10-26 22:39:26
テーマ:クロネコ物語





あなたはホントにわかってないわ。猫。



だいぶ狭くなったベッドに
用はないし。
窓辺に飛び乗り
外に目を凝らす。

防音がきいてるって
不思議なものが見られるわ。
音もなく降り続く雨。
窓ガラスには
とめどなく雨だれが筋を作る。

室内の常夜灯。
うっすらと
窓ガラスには
雨垂れに濡れた
二人が映る。

サガさんは
ベッドに向こう向きに座って
頭を垂れている。

そのまま石にでもなりたいところね。
そっか。
この雨はサガさんの涙なのかしら。

彼は頑是ない子どもの眠りを
眠っているわ。
サガさんがいてくれて
初めて得た子どもの眠りを
貪っている彼。

私にはわかる。
ずっと
一緒に夜を過ごしてきたんだから。

トン!

サガさんの足元に
私は身を擦り付ける。

『よう』

ハーイ

あなた、最高よ。

ギシッ…………

寝返りを打った子どもが
頼りなく
慕う保護者を呼ぶ。

「サガさん……サガさん…………。」

私はベッドに飛び上がり
サガさんは静かにベッドを振り返る。

求めるように差し伸ばされた
細いうでが
空を探るように動いている。

ポツン

サガさん…………! 
あなた……泣いてるのね。

ポタ ポタ ポタ

男の涙って悪くないわね。
我慢できるの?
今その手を握っても。


『此処にいる』

押し出すように呟き
彼の手を握り
髪を撫でるサガさんだ。

ヤレヤレ
ニャー

眉を寄せ
微かにかぶりを振り続ける彼は
また一人であそこに閉じ込められている。

サガさんは
諦めた。

寝かし付けたときと同じく
そっと
身を寄せて
ベッドに横たわる。

赤ちゃんが
母親を
眠っていても
探り当てるでしょ?

彼は
サガさんに身を擦り付けて丸くなる。







私は
窓に戻らせてもらったわ。
狭すぎるベッドは
趣味じゃないし。

常夜灯は
窓ガラスを
秘密の鏡に変えてくれる。

雨垂れに霞む向こうに
愛の絵が浮かぶ。

一人の男が
胸に恋人を抱いて泣いている。

儚いものね。

その恋人は
触れようとすれば
遥かに飛び去る。

男はどこまで己を殺せるかしら。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



人気ブログランキングへ