この小説は純粋な創作で

実在の人物・団体に関係はありません。




陽光が滝のように飛沫をあげて
部屋を満たした。
バルコニーに飛び出していくしなやかな肢体は、
圧倒的な光に溶け込み、
眩しさにしばたく目はそれを追いきれない。


「薔薇!
 薔薇でいっぱいだよ!」


ふうっと吐息がもれ、
こんなことで揺らぐ自分に呆れる。
重厚な綴れ織りの帳に隠れた己は、
その影までも薄暗がりに溶け込んでいる。


帳に手をかける。
そこから出ていくことに引け目を感じるが、
行かなければ共にあるのはこの己だということを、
少年に忘れられてしまいそうだ。


「グレン!
 早くう。
 ほら 薔薇が綺麗だよ」

ざっと帳をはねのけ、
グレンはバルコニーに出た。
黄金の髪が陽光にきらめく。
なんと愛しい姿であることか。
その唇が呼ぶのは己ただ一人なのだ。

永遠とも思える月日を孤独に生きてきた男は、
幼い恋人を見つめる。

振り向いてくれないだろうか。
もう一度、
名を呼んでほしい。
その唇がグレンと動く様を見たい。
そう願ったが、
それは叶わなかった。


人ならぬ男の耳に
微かなエンジン音が届いた。
老夫婦は、
いや老婦人は新しいものがお好きらしい。
グレンはほろ苦く微笑み、
少年に向かって歩きだした。



はっと
髪が揺れ、
見開かれた目と、
いっぱいに開かれた唇と、
紅潮した頬が見えた。
一生懸命辺りを見回している。

そして、
少年は思いきり身を乗り出して手を振る。

「グロリア!
 こっちだよ!」

「まあ もう着いていたの?
    ね、素敵な薔薇でしょう?
 ほらウィル アベルよ」

弾んだ女性の声が応える。
庭先が明るくなるのが感じられる。
生きているとは、
こういうことなのだろう。


グレンはアベルの肩を抱き、
二人を招いてくれた老夫婦を見下ろした。

「お久しぶりです。
   お招きありがとうございます。」


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