短編です。まだまだ二人が想いを繋げる前段階の、しかも結構昔のお話として書いたモノです。

自分の気持ちには気付いてないのに、だけれど相手が気になるそんな二人の言葉の伝え合い。
【正きも(深心編)】よりも先に書いたお話なので、やはり久々綴りに四苦八苦しておりますが……

緩い目で読み流して下されば、幸いです。






【VOICE―イェソンside―】




 

 身体は疲れているというのに何故、自分はこんなにも眠れない……?


思ったのは僅か数秒。



嗚呼そうだ………今日はまだ、アイツの姿を見ていない。だから俺は、眠れない………



眠れぬ夜を過ごす闇。その都度行き着く結論に、自分は大概やられているなと……開けた窓の隙間から流れる風へと息を流した。









アイツの姿を最後に見たのは何時だった?
ボンヤリそんな事を思う。

確かあれは……昨日の昼か?

たかだか其れだけの、空いた距離。

(バカだろ………大丈夫か………俺?)

思った瞬間、自嘲の息が漏れる。
たかだか一日と少しの時間。それなのに、自分は既に眠れぬ時間の到来だ。
こんな風になったのは何時からだろう?
思うのも、一瞬。
もう何度となく自答した問い。

姿を追い始めたのはアイツがアノ大事故から復活した少し後………
前々から不眠に悩んではいたけれど。
その姿を見るまで眠れなくなった。
息をして、喋って笑って怒って悩んで落ち込んで………そんなアイツを見ると何故だか安心する自分が居た。


そう………どんな感情であろうとも。
生きているからこそ……その感覚が落とされる………
生きているからこそ、数多の想いが広がっていく………

(生きている………そうだ………………)




生きている。




その五文字がイェソンの心の中へと深く響く。

彼は、息をしている。
感情があって、笑って怒って疲れて悲しんで。
思った事を言葉で伝えて………

そう行き当たった瞬間。
またも漆黒の闇夜が心の中へと広がっていく。



(大丈夫………………大丈………夫)



カタカタと震え始める手を押さえ付ける。そのまま胸へと押し付けて、震えるな、と…

(やっぱバカだろ、俺………)

あの日あの時あの瞬間。

心へと堕ちた酷く冷たい大きな水が蘇る。
大変な事故が起きた。
危ない状況かもしれない……
覚悟を決めなければ、いけないかもと………

そんな馬鹿な話があるだろうか?
そうなる少し前までは、バカを言って笑って怒って他愛のナイ何時もと同じそんな時間を過ごしていたというのに、だ。


誰が?

何で、そんな事に?

何かのドッキリ番組の、冗談だろ?

そんな………



そんな事




シンジナイ




(現実だっただろ……バカか俺は………)




いい加減昔の記憶に堕ちる自分に反吐が出る。


生きろと願った想いは今。
届いたんだとそんな幻想を抱かずとも、現に彼等の時を刻む。
願いよりも彼等の力の成せる技。
自力でこの地へ戻って来たのだ……それは自分が願ったから等と、そんな烏滸がましい事は思っていないし。
そんな事は判っているけれど。


堕ち続ける思考の中、一つの存在を告げる音が室内へと大きく響いた。


途端に煩く鳴り始める心臓の音を、大きな呼吸一つで何とか治めようと試みながら。三度と鳴らずに押したボタンで、想う相手と今が繋がる。




『おはようございます、ヒョン。』

「…………まだ夜中だお前の朝は深夜4時か?」

『こんな時間に直ぐ電話に出る貴方に言われたくは、ないんですけど?』

「……………寝てるとこ、起こすなっての。」

『だから、おはようございます。でしょう……?』



クスクス笑う相手に思わず瞳を閉じる。
だってきっとコイツは、自分が眠れぬ夜を過ごしていると知っているから。
だからこうして会えぬ夜には違う形で姿を見せてくれるのだ。

『僕、疲れてます。』

「……………ああ……」

『疲れました………ヒョン。』

「……………ん……………」

頑張った、よな?

(生きる事を、今日もお前は頑張った…)

『……もっと。』

「………お前は何時も、頑張ってる。」

(当たり前の様に生きる事を、何時も頑張ってる。)

『…もっと。』

「…………毎日、毎日……頑張ってる。」

(そうだ毎日、頑張り過ぎる程に)

『もっと…もっと。』

「……………………頑張り過ぎだ…ばか。」




生きる事が当たり前なこの世界で。だけどそんな当たり前なんて、本当は存在しない。




「頑張り過ぎなんだよ…何時も……」




生きる事は、奇跡に近い事だ。
当たり前の様に息をして、動いて喋って瞳を開いて……そんな当たり前だと認識している事だって。
本当は………



本当はとても奇跡に近い事。



『………甘やかし過ぎですよ、貴方は。』



少しの間を置いて機械越しに。だけれどとても柔らかな音でもって、相手はそんな事を伝えてくる。

「……お前がもっとって言ったんだろ、バカ。」

『言いましたよ?だって……』

「何だよ。」

『僕は……………皆の大切で可愛過ぎる誰からも甘やかされて当然な末っ子で』

「……ッ…少し黙っとけ。」


言えばクスクス笑う相手。
毎度こんな形で通話を進めて楽しむ相手。そんな楽しそうな顔が目に浮かぶのだから、自分も大概この弟の術中に嵌っているなと思ってしまう。

そうして闇沼へと引き摺り込まれていた脚を引っ張り出されたら、この戯言の終わりを告げるサインが静かに落とされる。


『今日も朝から仕事でしょう?』

そろそろちゃんと、寝て下さい。

「……………俺のスケジュール把握する暇があるなら、一食分の飯でも増やしてもっと太れ…バカ。」

『鬼デスカ貴方ハ』

最近太ったと気にしている事を敢えて言ってやる。
それも何時もの、二人のバカなやり取り。

『じゃあ、僕は寝ます。』

「…………ああ。」

『起きたらまた、頑張りますから。』

「……………………ん。」

(また、生きる事を頑張ってくれ……)

『だから貴方も。ね………?』

「……俺?」

『貴方も……………次に僕と逢うまで、頑張ってください。』

「…………………」

『ご飯を食べて。ちゃんと生活しながら僕と逢うまでの日を…………沢山たくさん寝て、頑張ってください。』


「………言われなくてもちゃんとっ」

『ちゃんと。寝て下さいね?』

「ッ………………じゃあなっ!」



こんな事。初めて言われたそんな言葉の羅列たち。
慌てて切った通話だけれど、何時もの様に闇沼へとまた深みに嵌る感覚は…………ナイ。 


「俺の方が、年上なのにな………」

何故だろう?どうしてこうも、心が落ち着く?
大切な大切な、自分の弟。
落とし掛けたその灯火を自ら大きく燃やした、かけがえのないの無い存在。


「……………………………………………ねむ……」


一度は失いかけた大切な弟。だからこそ、その存在がこの目に一日と映らぬ日があると心が騒めく。そう思って、だから眠れぬ夜を過ごしていたと思っていたのに、だ………

何か違う胸の熱さを、ほんの少し。
本当に微々たる熱さを、胸に感じた……そんな気がするけれど。




「……………寝れ、………そ………………」




それが何なのかは今はまだ解らないまま。


キュヒョンの居ないそんな夜を。
この日初めてイェソンは。

眠れず過ごす事の無いまま、意識を飛ばして優しい光へ深く深く意識を堕とした。




※まだ想いの通い合う前の二人。というか兄さんギュ氏の事を好きだとすら気付いてませんよね何すか天然で仕事に疲れてヘトヘトな人へと通話させちゃうその感じとかとかねーーーっ!!(どーした
ここからきっと、二人の新たな時が刻まれますがソレは皆様のご想像にお任せします←ビバ放置っ