いたたまれなくなって、2階へ上がったワタシ。仕事部屋でぼんやりネットを見ていた。
しばらくして耳を澄ませると、台所から紙を破く音がする。
ビリビリ、ビリビリ、ビリビリビリビリ・・・・。
いつまで経っても止まない


紙吹雪様子を見に下へ降りて、茫然とした。
この日オットは風呂上がりで着替えていたのだが、パジャマ姿でバイク雑誌を破っては、花咲じいさんのようにまき散らしている。目つきは定まらず、放心状態だ。
我が家のLDKは、ワンルームでけっこう広い。ワタシはあまり物を置かない主義(掃除が面倒なので)だから、16畳ほどのスペースがある。そのすべてが、切りくちゃになったグラビアで埋めつくされていた。キッチンにも、犬の水トレイにも、テレビや棚の上にも紙吹雪が散っている。
どうも初めはカッターで切り刻んでいたようだが、そのうち手で引き裂くようになったらしい。カッターで手首を切らないでくれて良かったけれど、これは・・・・・。

「お願い、もうやめて」
「もうこんなものは要らないんだから、全部やる」

「こんなことをして、気が晴れるの? それですっきりするんなら、やってもいいけど…」
「気持ちいいわけないだろっ。むしゃくしゃするんじゃ
結局、10冊ほどあったバイク雑誌すべてを破って撒いた
ワタシがゴミ袋を出して、かき集めた破片を詰め込む尻から、足で蹴散らして拡散するオット。
その姿を見ていて、「気がふれる」ってこういうことを言うんだな。と、妙に冷めてしまった。


破く物がなくなって、ようやく手を止め、イスに腰掛けるオット。
「薬が効いてきた」
どうやら睡眠薬を飲んでから、やったらしい。
それでも立ち上がって、今度は食器棚を開け、棚をガタガタ言わせている。
「お願い、やめて」
「自分の食器を壊されるのはイヤなのか。自分の物だけは大事なのか
「今日は疲れてるんだって。だからもう休んで」

それからオットの手を取り、2階へ上げた。
けれども、「歯を磨く」と言って降りようとする。
すでに歯は磨いていたんだけど。
「もう磨いたよ。だから寝て」
「いーや。もう1回磨く」
と言って聞かない。階下では、気配を察したハハが掃除しているような音がする。
またその姿を見れば、逆上するかもしれないと必死に留めたけれど、どうしても降りようとするので急いで先に降り、ハハに「あっちへ行って。余計なことはしないで」と追い立てた。
ハハは「情けないわ」と言い残し、部屋へ戻る。入れ替わりにオットが降りてきて、一ヵ所に集めつつあった紙っきれを丁寧にも足で蹴散らし、ふらふらで歯を磨いて上がっていった。
ほどなく、口を開けて大いびき。


また下へ降り、床に座り込んで破片をかき集めていると、無性に情けない。確かに、情けない。
腹が立つとか、哀しいとか、そういう感情はもう通り越している。
吐き気がしてきた。
このところ、しょっちゅう食べたあとに胸がむかむかして吐いていたけど、この日もまた戻してしまう。
鼻汁と涙をトイレットペーパーで拭きながら、もう何も考えたくなかった。