我が家は引っ越したときから、ワタシのハハと同居している。

それまでは離れて住んでいたのだが、父が亡くなって数年経ち、ハハが脚を悪くした。ずっと医者通いはしているが、急にヒザが悪化したのだ。ずっと毎週、共同購入の荷物を取りに来がてら犬と遊びに来ていたけれど、来るたびにヒザが痛そうだった。そして脚を悪くしてからは、いつもオットが車で送っていってたので、オットにも負担を掛けていると思った。

ハハも心配だし、オットにも申し訳ない

そんなことがあり、前の家が増え続けるオットの荷物で手狭になってもいたので、もう少し大きな家への住み替えをオットに相談してみた。すると、「それならお母さんも一緒に住んだら」と言ってくれたのだ。
いつもそばにいれば何かあっても安心だし、送り迎えの手間を掛けることもない。

問題は、同居が上手くいくか、である。


ワタシのハハは、社会的な適応力が低い。
昔の女性はたいていそうなんだろうが、内職かパートの経験しかない。若い頃は家事手伝い、結婚してからは主婦である。ワタシは一人っ子だが、ワタシが高校生の時から父の母(私の祖母)と同居。長く4人暮らしをしていたが、嫁姑の折り合いは悪かった
祖母は、暇さえあれば食べるか寝ているかの人で、がめつい。自分の子どもや孫にも愛情が薄い。そんな祖母に対して、ハハはいつも愚痴をこぼしていたし、父も自分の母親ながら、よく怒っていた。
つまり、鬱陶しい家庭だったのである

ワタシはいつも、ハハから聞かされていた。
「こんな暮らしはイヤだ。みかんがいるから、離婚しないで耐えているのだ」と。
だからワタシは、自活できるようになってからは家を出ていたし、いつでも身軽でいられるようにと、結婚も子供を持つ気もなかった


こんな家でイヤイヤ姑と夫に仕え、姑が老人病院へ入ってラクになったとたん、父は病気で体が不自由に。そんな父を7年間世話して看とり、ようやく独り暮らしになじんでいたハハ。かわいそうと言えば、かわいそうではある
しかし、同居時代から気分転換のためにけっこう出歩いていたから、もっと独り暮らしを謳歌するのかと思っていたが、昔やっていた習い事やカラオケなどは、どうも付き合いで行っていたらしい。
何をするということもなく、家にこもって近所の人が遊びに来るのを待っている。唯一の趣味と言えるのは、古くからの友だちと毎週出かけるデパートだろう。
年金は独り暮らしなら充分。小さいあばら屋だが、家も持ち家だ。


そんなハハに、同居はどうかと思ったが、とりあえず聞いてみることにした。
「だんだん脚の調子も悪くなってくるし、独りで居るのは心配だから一緒に住む?」
ハハは、躊躇した


もともとハハは、ワタシの結婚に諸手を挙げて賛成していたわけではない。
オットはワタシより年下で、高校を卒業後いろんな職業を点々としている。落ち着きが悪いのではと、生活のことを心配した。オットの父母とは育った環境やものの考え方が大幅に違い、いわゆる“家風”が合わない。
ワタシにとって、ひょんなことで知り合ったオットは、妙に気の合う人だった。だから結婚しようと思ったので、そんなことは気にならないし、オットの父母も離れた県に住んでいる。だが、ハハにとっては悩むべきことがらだったのだ。

しかしハハは、「オットが自分を煙たがるのではないか」という理由で同居をためらった。その点は「オットが一緒に住んだらと言ってくれてるから、心配ないよ」と説明。ハハはずいぶん迷っていたようだが、体が弱っていくことも気がかりだったのだろう。
だから家を探しているうちに決断し、ようやく1年後に引っ越したのである。