ハハは同居する以前から、唯一の楽しみがデパートでの買い物だった。


子供のころは「どうしてうちはこんなに狭いのか」と思っていたし、ハハが独り暮らしになってからも、実家へ行くたびにあふれかえる物の中で暮らしているハハを見て、「家が狭いからしょうがないな」と思っていた。

しかし引っ越しの時、荷物の整理を手伝いに行って、その尋常でない量に改めて驚いた。
余計な物が多すぎる・・・・

ハハは人からもらった物は必ず開ける。自分が使わなくても、人が喜びそうなら新品のままあげるということをしない。そしてすでに持っていても、目新しい物があると次々買い込む。知人やなじみの店で勧められると、不要でも買ってしまう。
こうした物がどっさり蓄積されていた

滅多にない宿泊客のための布団が8組ほど。タオルやハンカチは百枚ずつほど。洋服も数百枚あったろう。もちろん食器や鍋類も、今すぐ店が開けるぐらいあった。
しかし、どれもが数回使ってあるので、人へあげるわけにはいかない。

あまり処分しすぎて、最初から居心地の悪い環境になってしまうのも気の毒なので、かろうじて新しそうな物は差し障りのないところにもらっていただき、不要品は思い切って捨てた。
それでもかなりの量が新居にやってきた。



ハハのスペースは10畳ほどの部屋で、クローゼットが4畳分ほどある。
それがあっという間に満杯になった。食器類は台所へ、着物は和室の押し入れに収めても、である。

ところで、ワタシはこういう家に育ったにもかかわらず、物は徹底的に使うほうである。たぶん知らず知らずのうちに、物に囲まれすぎた生活がイヤになっていたのだろう。余計な物は持たない暮らしを心がけていたし、すでにある物は徹底的に使いこんでいた。
だから、願わくばこれ以上の物が増えませんようにと、祈る気分だった。


しかし、ハハの性格と週一の趣味はそれを見事に覆す。
いつの間にか風呂場に新しいタオルや洗剤が山積みされ、食器棚には見慣れぬ器が押しこんである。ティッシュもトイレットペーパーも、クリーニング店のご用聞きでダース買いである。

我が家は、非常に便利なところにある。スーパーは歩いて1分。朝9時から夜9時まで開いている。もう3分ほど歩けば、24時間営業の店もある。
だから買い置きなど不要なはずだが、ハハは「買いたい」のだ。


ところで、我が家はオットとは生活費は折半。ハハも、気兼ねなく使うために生活費を入れたいというので、光熱費として月3万円をもらうことにした。
けれどもそれ以外のお金や物資の援助はいっさい要らないと言っておいた。
また、食事は食べる時間が合わないので、それぞれが今まで通りの時間に食べるようにした。たまには一緒に鍋を囲んだり、外食はするけれど。


しかし、何かと買ってきては置いてゆく。

ハハにすれば、親として「してやりたい」のだろう。その気持ちはわかる。
でも、気持ちだけでいいのだ。本当は、かまってくれないことが一番うれしいのだけれど、邪険にするわけにもいかない。


初めのうちは「ありがとう」ともらっていたけれど、だんだんエスカレートする物資量に音を上げ、「うちにはあるから、要らない」と言うようになった。
それでも、ハハは買ってくる。
要るか要らないかが問題ではない。趣味なのだから

オットは、それをだんだんうっとうしがるようになり、ワタシも何とかやめさせたいと思うようになってきた。